002「恋に恋する傍観者」
「恋に恋する傍観者」
私は高校時代から、「彼」を遠く離れた場所から見ていた
その「彼の恋人」も・・・私は遠くから見て、知っている
彼が私と同じ時期に同じ高校に入学して、彼と彼女が出会い
彼が彼女を追いかけ初め、暫くしてから・・・
彼と、その彼女が恋人同士になったのだって知っている
淡い失恋の記憶・・・
ちょっとだけ「彼の見た目」が
私の「好きなタイプ」だなって思ってた頃の
相手の「本質」さえ見えていない、独り善がりで幼い
「恋をしていた」と言うには、御粗末な
私1人の中にだけある「恋の記憶」の中の彼
そして、高校を卒業する少し前までの・・・
その恋人が突然の交通事故で、亡くなってしまうまでの間の彼
「太陽」の様に周りを照らす「彼」の存在と
「月」の様に彼と共に存在する「恋人な彼女」は
私が目にする世界に、当たり前の様に一緒に存在していた。
私の記憶の中の彼は・・・
何時何時でも、とても明るくて社交的で、誰にでも優しい
絵に描いた様な好青年だった
そして、その恋人だった彼女は・・・
美人ではなかったけど、独特の大人な雰囲気を漂わせる
同い年とは思えない、物静かで芯のある女性だと私は思っていた
そんな2人と、私は同じクラスにもなった事は無いけど
接点が無くて、2人と直接話をした事も無いけれど・・・
2人は、私の憧れの人達だった。
だから、彼の恋人だった彼女が死んでしまった後・・・
彼の周りの女友達が、挙って彼の彼女に収まっては
彼の前から立ち去る様になって行くのには正直、驚かされた
私の記憶の中に存在していた
恋人な彼女と笑い合う彼が、恋人である彼女を失い・・・
次第に掛け離れた、良くない存在へと変化して行くのを
私だけでなく、誰も止める事ができなかった。
私が「太陽」なのだと勝手に思い込んでいた、彼の存在位置は・・・
本当は「太陽」の場所ではなく、「月」の場所で
「月」だと勘違いしていた、彼の恋人の存在位置が・・・
「太陽」の場所だったのかもしれない
当たり前の様にそこにあった「彼の恋人」と、言う存在の
「太陽」を無くし、一人で輝けない「月」だった彼は
自分の周りに存在する者達を、照らす事を辞めてしまった
いや・・・照らす事ができなくなってしまったのかもしれない
無邪気に笑顔を見せていた彼は・・・消えてしまった
そこに今、存在する彼の顔には・・・
嘘を含んだ、偽りの笑みが浮かべられていた。
次々と、入れ替わり立ち替わる彼の新しい彼女達は
『こんな人だとは思わなかった』
『死んだ人の事を引き摺り過ぎで、ついていけない』と・・・
最終『人で無し』だと、彼に対する感想を残して去っていく
高校生活が終わり、彼を追いかけて就職した先
『昔の恋人の死から、彼を立ち直らせてあげる』と、意気込んで
彼の彼女に収まる事に成功した、私の友人も
『あの人、無理!ろくでなし過ぎる』と・・・
1週間経たない間に、彼女の座から離脱して会社も辞めてしまった。
社会人になってから数年
私はまだ、彼と同じ会社で働いている
会社までの道程、一緒になるのは高校時代から重なる一部のルート
彼の恋人が亡くなったコンビニ近くの道で・・・
彼は何時も、足を止めて辛そうな表情を浮かべる
彼は、恋人が亡くなったとされる場所を遠くから眺めては
泣きそうな顔で歩き出す
恋人が亡くなった、その近くを通る時には・・・
振り返る事も無く、彼は足早に立ち去っていく
そんな事に気付いてから、私は・・・
悲しみを抱えた彼に対して本当の意味で、「恋」をしてしまった。
出勤途中の、本当に一瞬の時間
哀愁を身に纏う彼を『もう、悲しまないで』と、言って
抱締めたくなる衝動・・・
ブレーキを掛けるのは・・・
自分自信に対する、持ち前の「自信の無さ」と
「彼に拒絶されるかもしれない」と恐れる、恐怖心
私は次第に、その場所で亡くなってしまった彼女の事が
「とても、羨ましい」と、思う様になった。
それが・・・
「私も、彼女の様に愛されてみたい」に変わったのは
何時の事だろうか?
私は、彼の女性関係に屡々やきもきしながら
彼が、「デキ婚」してしまわない事を切に願い続け・・・
自分に「彼の心の傷」が、癒せるかどうかを思い悩み
彼へと近付く一歩を踏み出せず、足踏みをしながら
日々を過し続けてしまう事になった
私は、一般的に言う「恋の病」に罹ってしまったのだろう
寝ても覚めても彼の事を考えていた。
今年も、彼の恋人が亡くなった日が近付いて来る
実家から仕事に通う彼が「仕事帰りに立ち寄るかもしれない」と
彼との接点が欲しくて、行き付けになってしまった
コンビニに、今日も立ち寄る
入り口付近の商品棚には・・・
ハートの形をしたフィルムバルーンと、ピンク色をしたモール
バレンタインのチョコレートが並んでいた。
雑誌コーナーで時間を潰し、私は彼が通るのを待つ
今日も彼は、コンビニにすら目もくれる事無く立ち去る
私は今日も、ちょっとした買い物を済ませ店を出る
外に出ると、冷たい風に襲われ鳥肌が立った
私は、身震いしながら空を見渡す
『こんなにも寒いんだから、雪でも降ればいいのに』
交差点に隣接する角のコンビニからの視野は広い
『彼女は・・・何でこんな場所で交通事故に遭ったんだろう?』
自転車を置いていた場所から取り出し
亡くなった彼の恋人を思い、交差点を眺めた。
私の見ている間に、信号が黄色から赤に変わる・・・
右手に見えた、赤信号で停車すると思っていた左折待ちの車が
夕闇の中、少しバックしてコンビニの駐車場に侵入し・・・
ノンストップで、駐車場を通り抜け左側の道に走り去る
私は目の前を走り抜けられ、小さく悲鳴を上げる
左側に置いて押して歩いていた自転車が跳ね飛ばされた
左手が右側のハンドルにぶつかり・・・とても、痛かった
私が一歩、前に踏み出していれば・・・
私も、亡くなった彼の恋人の様に
車に轢かれて、命を落としていたかもしれない
跳ね飛ばされた自転車の残骸を見て、言い知れぬ程の悪寒が走った。
死んだ恋人を愛する人に対して
生半可な気持ちで慰めようだなんて思っちゃ駄目ですよ・・・
脳味噌使わないで、身を捧げちゃう様なのは完璧にアウトです。
中途半端に慰められた方は・・・
傷口抉られて、そこに酢と荒塩を擦り込まれるくらいの胸の痛みを
思い出させられるだけですから
✿訂正部分✿
「左手が右側のハンドルにぶつかり・・・とても、痛かった」
初期投稿文は左右間違って書いてました。




