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SPACE-ARMCHAIR  作者: 檀敬
第二章
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探偵の中村と秘書の小林

宇宙探偵シリーズ・第一弾 【おっさん探偵と美人秘書のパターン】その6

「それではお話を聞かせていただきましょうか、警視庁刑事部捜査一課強行犯係継続犯担当係長の大牟田警部殿?」

 全宇宙調査協会・日本窓口の探偵である中村 誠は、優しい微笑みで私に語り掛けてきた。

「なぜ、あなたがそんなことまで知っているんだ?!」

 私は凍り付いて、中村を睨み付けていた。

「今更、何をおっしゃってるんです?」

 にこやかに笑って私の言葉をいなす中村に、私は恫喝していた。

「なんだと!」

 だが、中村はあくまで冷静だった。そして、相変わらずにこやかに私に話し掛けてくる。

「その肩書きの話は十二分にされていませんか、特に所轄の警察署で?」

 中村にそう言われて、私はハッとした。

「あ!……それは、そのぅ、いやぁ、そうでした」

 焦る私に、中村は今までと変わらない、にこやかな態度で話を続けた。

「我々の『全宇宙調査協会』は、なにしろ『調べることが仕事』ですからね、ふふふ」

 そう言って、中村は同じ微笑みでも今度は不敵な笑みを私に向けたのだった。

 中村は、少々くたびれているが英国風の仕立ての良いネイビーブルーの三つ揃えスーツをピッチリと着込んでいる。もっともチョッキのボタンが弾けそうではあるが。

 恰幅のよさは顔にも表れていて、丸顔で色つやのいい肌だが、それが頭頂部まで続いていた。これでピンとはね上がった髭があれば、まるでベルギー人の探偵のように思われたが、残念ながら口髭はなかった。

 物腰は先程からの優しい口調に加えて、声は少し鼻に掛かったハスキーな低音なせいで、それだけでも十分な説得力を持っているように思われる。

「曲者だ。気を付けねば」

 私は心の中でそう呟き、グッと気を引き締めた。

「何ですか、ジロジロと僕を見て。あぁ、分かった。確かによく言われますよ、フランス語訛りのベルギー人探偵じゃないかってね。そりゃそうでしょう、そこからモチーフをいただきましたので」

 中村はニコニコしながら自問自答した。

「何でもお見通しなんですねぇ。……すると、それは変装なんですか?」

 私はつい、気さくに質問をしてしまった。そんな場合じゃないとは思いながら。

「変装と言うよりも『カモフラージュ』ですね。あなた方からはそんな風に見えるようにね。地球の言葉で言えば、そうですねぇ、『光学迷彩』といったところでしょうか」

 中村の説明に分かったような分からないような顔をしていると、横から全宇宙調査協会・日本窓口の秘書である小林直美が説明を加えた。

「つまりですね、わたくし達は光学的な『人間のキグルミ』の中に収まっていると思っていただければ結構かと。その『キグルミ』からはみ出した物理的な部分については次元収納装置によって四次元時空の光円錐からは見えないし触れない仕様になっています」

 魅力的な笑みを湛えながら説明してくれた小林に、わたしはドキッとした。

 栗色の長い髪を後ろでまとめて幾筋かの後れ毛が頬に掛かり、尖った顎が象徴的な細い顔に金縁で細身の眼鏡が高い鼻に掛かっている。

 そして、白い肌にオレンジのチーク、大きな目にはパープルのアイシャドーが薄く盛られているだけなのに、とても魅力的に感じられた。

 大胆にあしらわれた衿のレースが特徴のシルクのブラウスを着て、その上にはライトグレーのスーツ、スカートはサイドにスリットが入ったタイトスカート、そこからは黒の織りが入ったストッキングの脚が突き出ていた。

 スーツのジャケットは胸が大きく開いていて、シルクのブラウスの衿がレースによって大きくはだけて、胸の谷間がチラリと覗いていた。

 しばらく小林に見惚れていた私に、中村は咳払いをした。

「大牟田さん、直美君の説明を聞いてなかったんですか? これ、ニセモノなんですから。分かってます?」

 おほほと笑いながら、小林が横槍を入れる。

「中村探偵、大牟田さんがこうなるのも仕方がありませんわ。こーゆー効果を狙っての、わたくしのカモフラージュですから」

 私は何も言えずに、ただ下を向くだけだった。


「さて、大牟田警部殿。お話はやはりお仕事絡みなんでしょうか?」

 中村に詰問されて、私は小さくうなづいた。

「そうですか。それは困りましたなぁ」

 中村の顔から微笑が消えた。

「え? それはどういうことです?」

 私は切り返した。

「サイトの事例では、刑事訴訟絡みの案件も解決しているじゃないですか?」

 私は中村を問いただした。

「あれは全て民事訴訟ですから」

 中村の表情は固かった。

「しかし、解決の糸口を提供したのはあなた達ではないのですか?」

 私は中村に詰め寄る。

「アメリカならば、囮捜査や司法取引などで我々の活動条件もかなり緩和されているんですがねぇ……」

 中村は言葉を濁した。

「どういうことです?」

 私は更に詰め寄る。

「日本では、政府との協定がありましてね」

 中村は粛々と答える。

「警察の捜査権には介入しないという条文があるんですよ」

 私は唖然とした。

「我々の調査方法は『超科学的』でもあるけれど『超法規的』でもあるんですよねぇ」

 中村がニヤリと笑う。

「わたくしどもが提供する『証拠』に対して、それを参照するというカタチで本来の証拠をご自身で収拾しなければならないのですよ」

 小林が説明を加えた。

「直接、証拠を与えてくれる訳ではないと?」

 私は、中村と小林に訊き返した。すぐに中村と小林は、同時にうなづいた。

「それに契約書だけでなく誓約書や宣誓書、それに最初から始末書が必要になりますので、相当に膨大な書類の提出が必要なんです。それに我々の違約金を肩代わりで支払っていただく必要がありまして、特に捜査権の侵害になるので多額の違約金が発生します。その費用は安くはありませんよ」

 そう言って中村は、私に微笑んだ。

「サイトでお調べになった低額な料金ではないことだけは保証いたしますわ」

 そう言って小林は、私に微笑んだ。

「直美君、見積の準備を」と中村。

「中村探偵、例の五件分でしょうか?」と小林。

 私は慌てた。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 だが、小林は既に例のコンソールでキーボードを叩いていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

お気に召しましたら、続きもお読みくださいませ。

また、感想などを書いていただけましたら幸いです。

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