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SPACE-ARMCHAIR  作者: 檀敬
第一章
5/19

胡散臭いWEBサイト

宇宙探偵シリーズ・第一弾 【おっさん探偵と美人秘書のパターン】その5

「しかし、なんて胡散臭いWEBサイトなんだ!」

 私の第一印象はそれしか無かった。

 なになに、何が書かれているんだ?

 屋号は『全宇宙調査協会』で、それの『地球駐在所の日本窓口』だと。何とまぁ、スケールの大きなことを書くものだ。しかし、ここまで来ると胡散臭さも王道と言えるのではないだろうか。

 そして、このキャッチコピーだ。

『我々は地球上で起きた全ての出来事の真実を明らかにすることが出来ます!』

 私はだんだんと腹が立ってきた。

「警察がだ、それなりの権力を行使してだ、もちろん、科学的な分析による証拠立証とか、いろいろな捜査してもだ、どうしても未解決事件が発生してしまうんだよ。そして……」

 独り言を呟いて、私はため息をつく。

「この私に五件もの未解決事件を担当させるような、そんな世の中なんだぞ!」

 思わず、声を荒げて机を叩いて立ち上がった。

 ハッとして顔を上げると、一課の連中が何事かとシーンと静まって私に注目していた。

「し、失礼しました。何でもありませんから」

 私は嫌な汗をかきつつ、その場を繕った。一課の連中は呆れた表情をした後、いつものガヤガヤと騒がしい一課の雰囲気に戻った。

 ヤバい、ヤバい。つい本音が出てしまった。

 私に本音を吐き出させるとは。

 このWEBサイト、侮れない。

「五件の未解決事件を放り出して、この業者を捜査してやろうか!」

 いやいや、何をムキになっているのだ、私は。

 落ち着け。

 どうせ、誰かが面白半分に作ったWEBサイトだ。

 曲がりなりにも「警部」である私が、こんなことで本気になってはダメだ。

 ダメだって、絶対。


 気を取り直して『全宇宙調査協会』のサイトを精読する。

 主に民事訴訟の案件を専門としているようだが、刑事事件も取り扱うと記されている。刑事事件と言っても、刑事裁判後の民事訴訟が対象のようである。しかし、民事訴訟で判決が覆り、それを受けて検察が控訴し、有罪になった案件が、サンプル事例としてページに掲載されている。ということは、刑事事件の捜査そのものも取り扱っているということか?

 民事訴訟であっても判決が「覆る」ということは、何か新しい動きがあったということだ。それが無ければ「覆る」という事態にはならない。新たな証拠が提出されたか、新たな証言が出てきたと考えていい。それが、全宇宙調査協会のキャッチコピーである『全ての出来事の真実を明らかにする』の一端が表現されている証拠と判断するのならば、そのコピー自体が真実味を帯びてくるというものだが。

 次のページをクリックすると、そこは地球駐在所の「窓口」について掲載されていた。

 ほう、世界各地に「窓口」があるのか。

 ヨーロッパはスイスに、アメリカはワシントンDCに、ニュージーランドのクライストチャーチ、モロッコのラバト、チリのサンチャゴ、アラブ首長国連邦のアブダビ、南アフリカのプレトリア、ロシアはモスクワにあると。かなりの数の「窓口」が……お、シンガポールにもあるんだ。それで、その他の地域については政治的に不安定要素が多いため、窓口の設置を見合わせているってか。これは何となく理解出来る。

 その下に詳細に書かれている「地球駐在所の歩み(歴史)」を読んで驚いた。アメリカのFBIと年間契約していて、過去にはソビエト連邦の時代にKGBと契約していた実績がある、だと!

 更に驚いたのは、その次のセンテンスだ。

『我々は「太陽系地球駐在所」の開設にあたり、一億年(地球時間に換算)前から現地調査を開始した』

 ちょっと待てよ。それって恐竜が闊歩していた時代だぜ。

 恐竜にも人間みたいな知的存在が発生していたとかいうトンデモな話を聞いたことがあるが、もしかしてコイツ等、恐竜人間とも契約してたとか……。

「おいおい。『ちょっと待てよ』は私だ!」

 いつの間にか本気で信じている自分に気が付いた。

「危ない、危ない。騙されちゃいかん」

 気持ちを切り替えて、次のページを閲覧する。

 そこには、WEB商売・定番の「料金体系」が掲載されていた。

『調査費用・応談』

 何だそりゃとは思ったが、まぁ、そんなモノだろうな。

 値段なんて、有って無いようなシロモノだから。

 普通の、つまりは地球の、それも日本の探偵業ならば「一日三万円プラス経費」って探偵小説にも書いてあるからな……って、小説の話かい。

 その下に「調査費用の統計」ってのがある。

 トータルでの平均調査費用は一件当たり九六、八九一円で、平均調査時間は一件当たり二・二六日であるという。先程の「日本の探偵」の話からすると少々単価が高いように思われるが、調査時間が短いのは素晴らしい。我々警察も見習わなければ……って、そこでも信じちゃダメだろ!

 その下に、嬉しいことが書いてあるぞ。

『ご相談は無料です。お気軽にお問合せくださいませ。ご予約はメールフォームから承ります』

 まぁ、最近の法律事務所も「相談は無料」とかを掲げて商売しているから、普通だと言えば普通ではあるが。

 ご丁寧に、ポータルサイトの地図まで掲載している念の入れ様。

 なになに、某市の私鉄駅から徒歩五分の雑居ビルの五階か。

「自宅から近いな」

 私はそんなことを呟きながら、気が付いたらブックマークのボタンをクリックしていたのだった。


 その次の日から毎日、今日で三週間、私はこの『全宇宙調査協会・日本窓口』のWEBサイトを開いては精読している。

 私は、このWEBサイトが通報によってすぐに消されるだろうと思っていた。しかし、消える様子は全く無く、逆に今までよりも更に具体的なサンプル事例を追加して事例の報告数が増えているのだ。しかも、何処かで聞いたことのあるような事件、もちろん匿名だし仮名で表記されているので一見しては判らないが、内容をよく読むと「ひょっとして、これはあの事件のこと?」と思えるような事件が、サンプル事例としてアップロードされたのだ。

「これは……どう判断すればいいんだ?」

 私は既に、この『全宇宙調査協会』を半分以上信じ始めていた。

 やはり、抱えている「五つの未解決事件」が私の心に重く圧し掛かっている。これらの事件を担当して既に八ヵ月。犯人を検挙するどころか、捜査資料以上の証拠や証言も得られていないし、事件の真相に迫る方向性や確信めいたモノ、あるいは刑事の勘さえも感じなくなっていたのだ。

 ここ最近の一週間の私の行動と言えば、何度も「全宇宙調査協会」の『ご相談のご予約』のフォームに書き込もうか、迷いに迷っていたのだ。だが、やはり、警察として、特に警部として、更に「鼻のきく大牟田警部」としての「プライド」が邪魔して、予約フォームに書き込むことを踏み留まらせ、瀬戸際での葛藤が続いていた。

 もちろん、このWEBサイトの胡散臭さは最初からズーッと感じたまま、今も変わらない。こんな調子のいいこと、都合のいいことなんてある訳が無いし、だいたい冷静になれば、嘘臭い感じが見え見えなのだから。

 しかしなぁ、いやいや、でもなぁ、やっぱりさぁ、だけどなぁ……。

 こんな感じで毎日、私は堂々巡りをして一日を終えていたのだ。


「そうだ! 久し振りに現地捜査だ!」

 私は思い切って行動してみることにした。

 パーティションの中でドンヨリとネットを閲覧して葛藤しているよりも、その方が私に似合っている。何しろ、足で稼ぐのが刑事なのだから。それに、このWEBサイトが嘘なら嘘でいい。こんなモノを作る輩をこの私が逮捕してやる!

 その反面、こんなことも考えていた。

「このWEBサイトが本当なら、これが本当なら、本当に本当なら……私こと『大牟田警部』にヒントをくれたまえ!」

 実際、私は藁をもすがる想いでもあったのだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

お気に召しましたら、続きもお読みくださいませ。

また、感想などを書いていただけましたら幸いです。

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