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SPACE-ARMCHAIR  作者: 檀敬
第三章
19/19

フォルダの内容

宇宙探偵シリーズ・第一弾 【おっさん探偵と美人秘書のパターン】その19

「コンビニでインナーフォンを買うって珍しいですね? っていうか、大牟田警部がインナーフォンなんて全然似合わないと思うんですけど」

 庁舎の近くにあるコンビニの、私をよく知っている若い店長がインナーフォンのバーコードをリーダ―で読み込みながらニヤニヤした。

「似合わねぇの一言は余分だ! 必要に迫られてるんだよ、こっちは」

 私はウザそうに言うと、店長は更にニヤニヤした。

「おぉ、何かワクワクしますねぇ! 盗聴ですか?」

「何を勘違いしているんだぁ? 資料の閲覧だってば、まったく」

「え? DVDとかCDとかですか? ……はっ! ま、ま、まさか、エロいヤツ?!」

 すっかり興奮している店長に私は呆れていた。

「さっさとお釣りをくれ。あ、レシートも忘れずにな。経費でしっかりと落すから」

 店を出ようとする私に、店長は大きく手を振って尚も呆れたことをぬかしたのだった。

「コピーしてくれたら、買い物はいつでもタダにしますからー!」

 店を出た私は、店長がレジ袋に入れてくれたインナーフォンをしげしげと眺めながら、私の部署パーティションで、ほんの十数分前に起こった出来事を思い返していた。


 ノートPCのマウス・カーソルを『ファースト・リード・ミー・ファイル』に合わせ、ダブルクリックした瞬間だった。突然に軽やかな音楽が大音量で流れ始め、アニメ声優張りの声が私の名前を告げた。

「はーい、大牟田警部さん、こんにちは! わた……」

 私は慌てて「閉じる」のボタンをクリックした。だが、ファースト・リード・ミー・ファイルはすぐに停止してくれなかった。

「終了命令を受理しましたが、本当によろしいのでしょうか?」

 ここはデジタルデバイスの音声ガイダンスの声が流れた。

「喧しい! 音量をミニマムにしてるのに、この音量は何だ?」

 私は思わず声を荒げた。すると、デジタルデバイスの音声ガイダンスが私の質問に返答をしたのだった。

「申し訳ありません。しかし、今後は動画等を再生する場合において、最低でもこの音量が必要なのですが」

「ノートPCが私の話を聞いて勝手に喋っている!」

 私は画面いっぱいに表示されている「終了するのをちょっと待ってください」のダイアログにおののき、凍り付いてしまったのだった。

「申し訳ありません。それはちょっと違うのですが。大牟田警部のノートPCが、ではなくて当デジタルデバイス(シリアルナンバー・ZOKGOTN001000)が大牟田警部のノートPCの音声機能を利用して直接、大牟田様に話し掛けています。さて、初回一回目のFRMFファースト・リード・ミー・ファイルの『リドミーちゃん』の実行を途中でキャンセルする場合には、このような警告が流れる仕組みになっています。そして、デジタルデバイスに納めてある一連の動画仕様の最適化を施してある関係上、この音量が迷惑をお掛けするということであれば、大変に申し訳ありませんがヘッドホンもしくはイヤホンをご装着なさっての視聴をお勧めします」

 私は非常に混乱していたが、言ってる内容は理解できていた。しかし、それとは無関係に音声ガイダンスは喋り続けた。

「ご了解いただけましたら『OK』ボタンをクリックしてください。速やかに初期状態に戻ります」

 音声ガイダンスの言葉が終わると、画面に『OK』のボタンが現れた。私は恐る恐るそれをクリックすると、私のノートPCの元々のデスクトップ画面になった。そして、慌ててイヤホンを買いに走ったのだった。


 初めてのインナーフォンの装着に多少の違和感があったが、慣れれば大したことではない気がする。意外にも外の音が遮断されて、パーティションの中で孤独に存在している私の身分としては、ある種の雑音が聞こえなくて良いことかもしれない。

 気を取り直して、ファースト・リード・ミー・ファイルをクリック……「そういえば、音声ガイダンスのヤツが「リドミーちゃん」とか言ってなかったか?」などと、そんなことを考えている時間もなく、軽やかな音楽が流れてアナウンスが入った。そして、画面の右上の一角に女の子が描き出されて微笑んだ。

「はーい、大牟田警部さん、こんにちは! わたしはファースト・リード・ミー・ファイル、略して『リドミー』って言います。よろしくね!」

 画面に出てきて頭を下げたのは、長男がパソコンでよく観ているアニメの、何とかっていうカタパルトや砲塔を背負った女の子達に似ている気がした。

「マジで『リドミー』なんだ……」

 私はウザくて頭を抱えた。そして眉間に縦ジワが入りそうだった。

「さーてと。うふ。自己紹介が終ったところで、このデジタルデバイスに収められているデータを紹介するわよ。いい?」

 私は段々とうちの次女に諭されているような気分になってきた。クドクドといつも諭されるんだ、これが。臭いとか気持ち悪いとか寄るなとか。困ったもんだ。……あ、いかん。つい愚痴が出てしまった。

「このデジタルデバイスには七つのフォルダがあるの。それぞれ、どういう名前のフォルダに何が入っているかを細かく説明するのだけれども、心の準備はいいかな? 大丈夫だよね、大牟田警部なら。うふふ」

 私は赤面しながら「音声ガイダンスの方がいくらかマシだな」と呟いた。

「まずは七つのフォルダ名称から。犯行フォルダ、被害者ファルダ、加害者フォルダ、共犯者フォルダ、証拠物件フォルダ、証言フォルダ、事件要録フォルダ、以上の七つね」

 私は画面のファイル管理ソフトを見ながらうなずく。

「犯行フォルダは、犯行そのものを中心としたリアルタイム動画が入ってるわ。具体的には、客観的リアルタイム犯行動画ファイル、これはフォルダ内にあるスペシャル・ビューアで閲覧すると疑似3Dでどの視点からでも閲覧が可能となるマルチビューポイントになってまーす。その他には、被害者視点固定リアルタイム犯行動画ファイル、加害者視点固定リアルタイム犯行動画ファイルが収められてるの」

 ファイル管理ソフトを見ながらフムフムとうなずく。

「被害者フォルダは、被害者に関するリアルタイム動画類と個人情報パーソナルデータが入ってるの。犯行もしくは死亡までの、最長一カ月前から、今回は二週間前だけど被害者のリアル行動動画ファイル、被害者の人物像プロフィールファイル、被害者の金融関連ファイナンスファイル、被害者の人間関係リレーションファイルが収められてるわ。今回は被害者が一名なのでフォルダは一個だけね」

 フォルダを開いて確認しながらうなずく。

「加害者フォルダは、加害者に関するリアルタイム動画類と個人情報パーソナルデータが入ってるわ。犯行前の、最長一カ月前から、今回は一週間前ですけど、それから犯行後の、最長一カ月後まで、今回は一週間後までですが、被害者のリアル行動動画ファイル、加害者の人物像プロフィールファイル、加害者の金融関連ファイナンスファイル、加害者の人間関係リレーションファイルが収められてるわ。今回は加害者が一名なのでフォルダは一個だけですね」

 これは見積通りになっていることを確認してうなずく。

「共犯者フォルダは、加害者が複数の場合における、加害者同士の連携、おもに『共謀や合議』をリアルタイム動画、及び共謀や合議の証拠ファイルを収めるのですが、今回は該当ファイルが無いので、フォルダのみが存在しています。ま、仕様上フォルダが出来てしまうのでこうなるので、ご了承くださいませ」

 リドミーが画面でお辞儀をする。

「おいおい、脅かすなよ」

 私はマジで冷や汗を拭った。

「証拠物件フォルダは、物的証拠を画像とその証拠を分析鑑定したファイルが入ってるわ。この事件に関連する、場所、モノ、人物などの証拠物件を収めた画像ファイル、それらを分析した結果のデータファイルがみっしりと収められてるの」

 フォルダを開いてみるとサブフォルダがあり、不動産物件書類や証拠品という分類で分けられていて相当な数のファイルが存在しているようだった。

「証言フォルダは、この事件に係った人物の証言、言動、文書などのファイルが入ってるわ。証言や言動についてはリアル動画と文書ファイルで、文書は画像で収められていますね」

 これもサブフォルダで証言動画と文書、それぞれの下には近隣や親族などのフォルダで更に分類されていていた。

「最後の事件要録フォルダは、警察組織に収容されている捜査調書と、事件を時系列で叙述した自動生成ドキュメントが入ってるの。本庁、所轄署、科捜研など、警察組織関連にある全ての書類を収蔵、それからもう一つ、この事件をクラウドデータから構築した際のドキュメントも収められています。事件を俯瞰する場合や一覧する場合、またインデックス機能があって該当事項を検索するのに便利になってるわ」

 ほほう、これは便利だ。わざわざ書類棚から出し入れして閲覧する必要がないのはありがたい。それに検索機能があるとは実に便利だ。

「ふぅ。以上、七つのフォルダを説明しましたが、充分にお解りになりましたよね? そりゃあ、大牟田警部ですもの。全然楽勝ですよねぇ? うふふ」

 画面の『リドミー』がにっこりと微笑んだ。

「うーん、まぁ、そうだな。何とか使えるんじゃないかな、うん」

 私は何を照れているんだろうか。

 それに、ちゃんと頭に入ったのか。

 私は赤い顔をしながら自問自答していた。

「もし、何処に何があるかが解らなくなったらキーボードの『F12』のキーを押せば、わたくし『リドミー』が画面右上に現れて、ガイダンスさせていただきますのでご心配なく!」

 にっこりと笑う『リドミー』に応えて、私は微笑みを返していた。

「それでは次のステップよ。利用方法チュートリアルに進みまーす。うふ」

 首を傾げて満々の笑みの『リドミー』だったが、ハッキリ言って私は少しウンザリしかけていた。

「あー、大牟田警部、『まだ続くのかよぉ』って顔してますねぇ。ダメですよ。ちゃんと使い方を知らないと。証拠固めの段階で落ち度が発生するかもしれませんから」

 リドミーの言葉を右から左に受け流そうとしていた私は、リドミーにそう言われてハッと気が付いた。

「これが終わらないと閲覧できないんじゃ……」

 そして、リドミーの言うように使い方を理解しておかないと閲覧に手間と時間が掛かる可能性がある。スペシャルビューアの使い方、証拠などの閲覧の仕方をちゃんと覚えておくことの必要性をヒシッと感じたのだった。

「よぉーし、気合をいれて教えてもらおうか!」

 私は右手の中にあるマウスを握り直したのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

また、感想などを書いていただけましたら幸いです。


※五つの未解決事件は、この物語のために創作したものです。実際の事件、団体等とは一切関係ありません。

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