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SPACE-ARMCHAIR  作者: 檀敬
第二章
13/19

からくりの詳細・その参

宇宙探偵シリーズ・第一弾 【おっさん探偵と美人秘書のパターン】その13

「ここからは大牟田さんの五つの案件を逐次、説明することになります。何卒、ご了承いただきますように」

 小林の前置きに、私は静かにうなずいた。

 ところが、小林は慌てて言い換えた。

「あ、忘れていました。その前に協定違約金と事務費用の算出方法をご説明しなくては!」

 センターテーブルのディスプレイを慌てて切り替えた小林。そこには計算式が羅列した画面が表示された。しかし、画面に書かれた計算式はどれも小学生でも計算できる簡単なモノだった。

「ご覧の計算式で協定違約金と事務費用がはじき出します。どの案件にしても、わたくし共の『調査費用』が計算の基準、元値となります」


○協定違約金及び事務費用の算出方法


□協定違約金の算出

§ 協定違約金=調査費用×2

  ※ただし、広域捜査案件の場合は以下の通りに算出すること

§ 協定違約金=直接協定違約金+間接協定違約金

  ・直接協定違約金=調査費用×2

  ・間接協定違約金=調査費用×1

 ※ただし、協定違約金は六百万円を上限とする(民事訴訟の場合)


□事務費用の算出

§ 事務費用=調査費用×1

 ※ただし、事務費用は協定違約金が発生した場合のみ徴収される


「お分かりになりましたでしょうか?」

 小林は笑顔で頭を傾げ、私に同意を求めてきた。だが、小林は私が返事をする前に次の説明を畳み掛けた。

「それでは、具体的な数値をお示ししながらご説明しましょう」

 そう言いながら、センターテーブルの表示を変更した。

「大牟田さんが担当されている五件の事件で、スタンダードモデルと呼べる【□市独居女性強盗殺人事件】を例にご説明します」


【□市独居女性強盗殺人事件】 四十万円

§ 調査費用・十万円

§ 協定違約金・二十万円(十万円×2)

§ 事務費用・十万円(十万円×1)


「……といった結果になります。この金額は税別価格ですので、これに税金が加算されます。ですが、それは『調査費用』に対して消費税、現在は五パーセントですが、それが加算されるだけです。『協定違約金』並びに『事務費用』は国庫への納入ですので、消費税及び手数料は一切掛かりませんのでご心配なく。税金の二重取りになってしまいますからね」

 小林は、私ににっこりと微笑した。

「なお、わたくし共が申し受ける『調査費用』の中には、『協定違約金』及び『事務費用』を納入するための手続費用や手数料も含まれていますからご安心くださいませ」

 小林は相変わらず、私に微笑を絶やしていなかった。

 私は顎に手を当てて「うむむ」と唸るしかなった。だが、私はあることにフッと気付いて、それを口に出した。

「【□市独居女性強盗殺人事件】は四十万円なのに、なぜ【○市女子高生殺害事件】が倍の八十万円なんだ?」

 顔を上げてそう言うと、小林はニヤリとした。

「だって【○市女子高生殺害事件】の犯人は『二人』なんですもの」

 そう言って、ディスプレイの表示を切り替えた。


【○市女子高生殺害事件】 八十万円

§ 調査費用・二十万円(十万円×二名)

§ 協定違約金・四十万円(二十万円×2)

§ 事務費用・二十万円(二十万円×1)


「はぁ?」

 私は思わず声を荒げた。

「事件一件に対しての金額じゃないのか? 犯人が何人居ても事件は一つじゃないのか? その計算はおかしくないのか?」

 すると、小林は深々と頭を下げた。

「申し訳ございません。わたくし共の、クラウドデータからの再構築は『物単位』でもあり『者単位』でもあるのです。被害者のデータ構築は、被害者の損害記録と犯行のリアルタイム映像記録とセットで納品させていただきますが、加害者の人数分だけの行動記録とそれに付随する『共謀記録』も加味されます。従いまして、加害者の人数が増えれば増えるほど、クラウドデータから再構築する記録が増えますので、調査費用は倍、倍と加算されていくことになります」

 涼しい顔で答弁する小林。

 サマーオフィスのせいだけではない嫌な汗が、私の背中を伝って落ちた。

「なるほど。『共謀』か。確かにそうだ、それは言える」

 納得せざるを得なかった私は「熱交換うちわ」で背中を扇いだ。

「それでは【△市タクシー強盗殺人事件】についてはどうなんだ? これも犯人が複数なのか?」

 私は、思い付くままにやけくそで質問していた。

「いいえ、この【△市タクシー強盗殺人事件】は、単独犯の犯行です」

 小林がハキハキと答える。

「それじゃあ、なんでこんな金額になるんだよ!」

 きっと暑さのせいだ、こんなに怒りっぽいのは、と私はそう思った。

「加害者は一人なんですが、実は広域捜査を要する犯罪案件なのです」

 小林はそう言って、先程の算出方法の画面に切り替えた。

「こちらの『協定違約金の算出』の脚注にある『広域捜査案件』に該当するためです」

 それからディスプレイの表示を操作して、見積明細書の画面も並べて表示した。

 

【△市タクシー強盗殺人事件】 百万円

§ 調査費用・二十万円(十万円×二件)

§ 協定違約金・六十万円(四十万円+二十万円)

  [内訳・一]直接協定違約金・四十万円(二十万円×2)

  [内訳・二]間接協定違約金・二十万円(二十万円×1)

§ 事務費用・二十万円(二十万円×1)


「何だと! この犯人、他でも事件を起こしているだと?」

 私は大きな声で怒鳴ってしまった。

「興奮なさらないでください。ただでさえ暑いのに、余計に暑苦しくなりますから。わたくしにはひどく快適な暑さなんですけどね」

 本当に、小林はいろいろな意味で涼しい顔をしていた。

「この加害者は、隣の某県でも同じようにタクシー強盗殺人という事件を起こしています。そちらの事件も実は未解決なのですが、そういう理由により協定違約金の支払い先が二か所となります。ただし、従属する案件については半分でよいという条項になっていますので、この金額となります」

 そして、小林は小さな声で付け加えた。

「解り易く言ってしまうと、直接協定違約金の四十万円が警視庁に、間接協定違約金の二十万円が某県県警にそれぞれ収まるっていう感じなんですね。あはは」

「それで調査費用も二件分で二十万円? 私は管轄内で起きた事件だけ解決できればいいのだが……」

 私は値切ってみた。しかし、私の言葉を聞いて、小林の顔から笑顔が消えた。

「大牟田さん、なんてことをおっしゃるのですか! それでもあなたは警察官なんですか! 正義を貫く勇気は何処にも無いのですか! 徹底的に犯人を追い詰めて検挙しようと、未解決事件でさえも解決しようと、血気盛んにわたくし共の『全宇宙調査協会』にお越しになったのとは違うのですかっ! 全く! 信じられないわ!」

 小林に鋭く、そして厳しく恫喝されてしまった。

「あ、はい。そうですね……」

 縮み上がった私がそこに居た。

「フム! 解ればいいんです、解れば」

 小林の鼻息は荒かった。

 それに圧されてしまった私だった。

「残り二件の【◇市老夫婦放火殺人事件】と【○○湖バラバラ死体遺棄事件】については、口頭での説明にさせていただきます」

 あっという間にビジネスライクな小林に戻った。

「この二件は『不可侵調査協定項目』に該当しますので、事実上調査することは出来ません。ですから、協定違約金については【◇市老夫婦放火殺人事件】が倍額の百二十万円と、また【○○湖バラバラ死体遺棄事件】は『協定違約金の算出』の脚注の二つ目にある『上限六百万円』に該当するため、六百万円と表示させていただきました」

 小林が息を継ぐ。

「ただし、この『上限六百万円』の適用はあくまでも『民事訴訟』の場合であり、刑事訴訟の場合の規定がないため、実際に調査を行った場合、まぁ、有り得ませんが、途方もない金額になり得る可能性はあります」

 小林が再び息継ぎをする。

「また、事務費用については『事務費用の算出』の脚注にある『協定違約金未発生』に該当するため、金額の提示はしていません」

 三度、小林が息を継ぐ。

「以上、これら五件の見積金額はあくまでも暫定であり、見積金額を算定するためだけの数字だとお理解ください。実際にお支払いしていただく金額は請求書にてご確認くださいませ」

 最後に小林は、ニヤリとした。

「余談ですけれども、もし【○○湖バラバラ死体遺棄事件】が調査可能な案件だったとしたら、国際犯罪なので国連との協定にもすり合わせを行わなければなりませんから、協定違約金と事務手数料はとんでもない金額になったかもしれませんわ、うふふ」

 不敵に笑う小林が、私には怖かった。

お読みいただき、ありがとうございます。

お気に召しましたら、続きもお読みくださいませ。

また、感想などを書いていただけましたら幸いです。


※五つの未解決事件は、この物語のために創作したものです。実際の事件、団体等とは一切関係ありません。

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