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SPACE-ARMCHAIR  作者: 檀敬
第二章
12/19

からくりの詳細・その弐

宇宙探偵シリーズ・第一弾 【おっさん探偵と美人秘書のパターン】その12

「わたくし共『全宇宙調査協会』と日本政府との間で取り決めた、わたくし共が地球、特に日本で仕事をするための業務の協定がございます。その上に国連との間で取り決めた協定もあるのですが、今回は省略します」

 小林が淡々と説明する。棒読みではないけれども、あくまでも淡々と。

「それで、わたくし共が業務上でどうしてもその協定の条項に違反しなければならない場合に、わたくし共が日本政府に違約金を支払うことで超法規的処分にて、これに係る一切を免除されるという条項が附則としてあります」

 小林は、その協定書をセンターテーブルのディスプレイに表示してくれたが、細かい文字で読めない上に、協定の条項が多くて画面の文字が次から次へとスクロールしていくために、私にはほとんど読めなかった。

「前回、ここにお越しいただいた時に、中村探偵が言いました通り、その条項の中に『日本の警察機構の捜査権には介入しない』という条文があります」

 小林はスクロールを止めて、その条項を赤く反転させた。

「警察の私が依頼をしているんだ。その条項には当てはまらないだろう」

 私は強気で押してみたが、小林は表情を変えなかった。

「いえ、そういう訳にはいきません。確かに、依頼者は『警視庁刑事部捜査一課強行犯係継続犯担当係長の大牟田警部』ですが、結果的にわたくし共が調査していることに他なりませんから。そして、この条項には枝番が付いています」

 小林は、次の条文を赤く反転させた。

「日本の警察機構は、全宇宙調査協会が提示する『粒子観測によるクラウドデータから構築された画像及び動画』を超法規的であると規定し、物的証拠とは定義しない」

 小林は、この条文だけは棒読みで読み切った。

「こんな素晴らしいシステムを認めないなんて!」

 小林は鼻をフンと鳴らして膨れていた。

「そういうことですか。だから、これを基に再度、証拠集めをしないといけない訳なんですね」

 私の言葉に、小林は深く頷いた。

「えぇ、そうなんです。わたくし共がご提示できるのは、言ってしまうと『事件そのもののノンフィクション・ドキュメンタリー』なのです。加害者の行動記録、被害者の損害記録、犯行のリアルタイム映像記録、それに付随する状況写真や状況動画でしかないのです。ですが、それは今の地球の科学力では得られないモノ。超科学的であるがゆえに、超法規的でもあるのです。これは中村探偵も言っていたことと思いますが」

 小林はちょっと寂しそうだった。

 しかし、私にとってはもっと複雑な事象になったのだ。

 全宇宙調査協会には調査費用を払わなければいけない。これはこれで仕方がないことだ。だが更に、全宇宙調査協会が刑事事件を調べるためには日本政府や警察機構に一種の『賄賂』を支払わなければならないという。おまけに、それは依頼者が払わなければならないのだ。

「どんだけ銭が要るんだよ!」

 私はつい、無意識に毒突いてしまった。

「ぼやいていても仕方がありませんわ」

 小林は既に立ち直っていた。

「それでは『協定違約金及び事務費用』の詳細な内訳をご説明します」

 小林は、センターテーブルの画像を切り替えた。


○案件別・協定違約金及び事務費用の内訳一覧〔金額は税別金額〕


【△市タクシー強盗殺人事件】

§ 協定違約金及び事務費用・八十万円

・直接協定違約金・四十万円

・間接協定違約金・二十万円

・事務費用・二十万円


【◇市老夫婦放火殺人事件】

§ 協定違約金及び事務費用・百二十万円

※「不可侵調査協定項目」に該当するため暫定金額表示


【○市女子高生殺害事件】

§ 協定違約金及び事務費用・六十万円

・直接協定違約金・四十万円

・事務費用・二十万円


【○○湖バラバラ死体遺棄事件】

§ 協定違約金及び事務費用・六百万円

※「不可侵調査協定項目」に該当するため暫定金額表示


【□市独居女性強盗殺人事件】

§ 協定違約金及び事務費用・三十万円

・直接協定違約金・二十万円

・事務費用・十万円


「おっと。ここで出てきたのか、さっきの聞いたことがない言葉が!」

 私は画面を見て直ぐに、小林の顔を見た。

「分かりました。まずは『不可侵調査協定項目』をご説明しましょう」

 小林は不敵に笑った。

「簡単に申しあげますと、わたくし共『全宇宙調査協会』は、その案件のクラウドデータを持っているけれども、調査してはならないという案件なのです」

 私は愕然とした。

「なんだって! アンタ達は犯人を知ってるんだろ? 銭さえ払えば教えてくれるんじゃないのか!」

 恫喝めいた言葉が、私の口から出てしまった。

 小林は、センターテーブルのコンソールを操作して先程の協定書に画面を戻し、素早くサーチして関連の条項を表示して赤く反転させた。

「日本政府は、政府官報及び、警察庁や総務省、外務省と法務省からの通達によって、全宇宙調査協会の業務を制限することができる。つまり、わたくし共に対して官報や通達が直接送られてくるのですが、そこに書かれた案件について、わたくし共は手出しが出来ないのです」

 小林は、更に淡々と読み上げる。

「これにも枝番がありまして、そこには『未解決事件として処理を決定した案件については、一切の情報を外部に提示してはならない』とあります。これをわたくし共は『不可侵調査協定項目』と呼んでいるのです」

「うぬぬ」

 私は唸った。

「ということはだ、この二つの事件は意図的に未解決事件になっていると。そういうことだな?」

 私の質問に、小林は微笑むばかりだった。だが、答えない小林の態度から察するモノは余りある。私は大きなため息をついた。

「はぁー、困ったもんだなぁー」

 私が嘆くと、小林がニッコリした。

「他ならぬ大牟田さんですから、ちょこっとだけ。他言無用ですからね、ホントに!」

 そう言って、小林は口に人差し指を当てた。

 私は、コクンコクンと何回もうなずいた。

 すると、小林はヒソヒソ声で語った。

「【老夫婦放火殺人事件】は政治が絡んでいて【バラバラ死体遺棄事件】は国際犯罪が関わっているようですよ」

「ほぉー、なるほどねぇー」

 急に私はニヤけてしまった。

 その言葉で何かが閃いた訳ではない。それで何かを悟った訳でもないのに。何にも解っちゃいないのに。小林が真実を語ったかどうかを疑いもせずに。

 どちらにしろ、高額だった二つの事件は、私がわざわざ費用を出して調べる必要は無くなったのだ。「調べなくてもいい」「犯人を検挙しなくてもいい」「そのままにしておけ」という命令が私に下ったのと同じことなのだ。

 気が楽になった。五件から三件になったのだ。その重みは全然違う。それだけは確かだった。

「それ以上はご容赦くださいませ」

 小林は申し訳なさそうに頭を下げた。

「仕方がないですよ。政府おかみの意向には逆らえない。何と言っても、私は『宮仕え』ですからねぇ」

 私は、小林の謝罪を上司に対する嫌味で軽く受け流した。

「それよりも、さっきの説明で出て来なかった言葉があるようですけど? 『直接』とか『間接』とか。それに『事務費用』も説明がまだなのだが」

 私は、話を先に進めるように小林を促した。

「はい、分かりました」

 小林は、センターテーブルの表示を切り替えたのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

お気に召しましたら、続きもお読みくださいませ。

また、感想などを書いていただけましたら幸いです。


※五つの未解決事件は、この物語のために創作したものです。実際の事件、団体等とは一切関係ありません。

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