9 お祭り! ……の約束をした
「今晩は」
「わ~っ! お菊姉さま~!」
……一瞬『ヤクザ?』と思ってしまった俺って一体。
「お久しぶり、光ちゃん」
「お久しぶりです~」
岳だ。
菊の模様の黄色い着物、舞妓さんみたいに結われた黒髪、優しい微笑み……の、お化けが家にやって来た。光の料理をまともなものにしてくれた人、もといお化けのお菊さん。皿屋敷のアレ。
多分、『良くできた人』って言うのはこの人、じゃなくてお化けのためにあるんだなー。と言うのが第一印象。
今の印象? どんな『良くできた人』でも、多少の欠点はあるんだな。お皿の扱いにすげぇ五月蠅ぇんだ、この人……じゃなかった、お化け。
…………もう、人って言っていいか? いちいち直すのめんどくせぇ!
ちなみに、お化けと幽霊の違い。母さん曰く、お化けは生まれた時からお化けで、幽霊は何かが死んだモノ。
「元気してた?」
「元気ですよ~。お菊姉さまは~?」
「もちろん、元気だったわよ。こないだもお祭りで踊ってきたところ」
お化けの祭り。なんか、怖っ!?
いや、きっと騒がしくて楽しかったんだろうけどさー。
「お祭り? 楽しかった~?」
「もちろん! お化けも、冥界行特急を待ってる幽霊も、死神も一緒のお祭りよ」
お化けと幽霊と死神のお祭り。カオスなだけでやっぱ怖ぇな、おい。
「いいなあ~。私もお祭り行きたかったです~」
「ふふ、死んでからいらっしゃいな。私と一緒に行きましょう?」
「わぁ~い! お菊姉さまと一緒にお祭り~! 約束ですよ~」
何十年後の約束だよ。お化けだからお菊さんは光が死ぬ頃にもまだ健在なのか。
目の前に、お化けと指切りをする少女が居る。うーん、どっかにこんな絵がありそうだ。
「死ぬ前に、生きることを十分に楽しむのよ。死んでからは短いのだから」
「は~い!」
「死神になるなら別だけどね」
あぁ、兄ちゃんは死神になったもんな。でも、なるまでも大変らしいし、仕事も大変らしいぞー。ここ半月、全く見てねぇし……あれ? 中学校の卒業前は一日一回は家に居たのにな。
「おぉー、お菊さんじゃん。久しぶりだー」
あ、姉ちゃん。
「姉ちゃん、二階で何してたんだ?」
「宿題」
しゅっ!? くだい!? 姉ちゃんが!? 真面目に!? ……あ、宿題はちゃんとやる人か。
俺は全く手ぇ付けてねぇのになー。……兄弟で一番ズボラなの、俺?
「あら、お久しぶり、忍ちゃん。まあまあ、少し見ないうちに綺麗になったわねぇ」
……お菊さんがすごくおばさんっぽくなった。見た目は若いのに!
「変わんないよ」
「もう、そんな事言ってー。鏡見るの楽しいでしょ?」
美人だからなー。美人だけど、彼氏いない歴=年齢。本人曰く『要らない』。タイプを聞いても『特になし』。
「鏡なんか、朝しか見ないんだけど」
顔洗うときと髪くくるとき? 家の風呂には鏡ねぇもんなー。
「ね~、お姉ちゃん、お祭り好き~?」
突然話変えたな、光。
「まぁ、好きっちゃ好きだけど。それがどしたの?」
「じゃあお姉ちゃんも、死んだらお菊姉さまと一緒に霊界のお祭り行こ~。お化けと幽霊と死神が居るんだって~!」
「おぉー。楽しそうじゃん。でも、焼そばがミミズなんてことは無いよね?」
姉ちゃん、そりゃ魔女や妖怪だ。
……お化けと妖怪って似たようなもんか。
「やぁね、普通の食べ物よ。この世界の物もあるし、別の世界の物もあるわ。霊界はすべての世界の物があるから」
「おぉー、異世界の食べ物! どんなんだろ」
興味津々じゃん。俺も気になるけどさ。
「ふふ、美味しいわよ。楽しみにね。岳くんも来る?」
「そりゃもちろん!」
姉ちゃんも光も行くんだから。
リンゴ飴もあんのかなー。一回もアレ食った事ねぇんだ。
え、ズレてる?