60 そう言えよ!
「ジン、霊界って意外と近いんだな」
「だろ」
「コンビニより近ぇぞ」
「そうだな」
タラッドだ。
家の裏に、霊界に続く穴が開いた。
家の裏。家の裏だ。何度も言うが、家の裏だぜ?
「近すぎだろ!」
「便利だからいいだろ。行くぞ」
畳一枚分くらいの、長方形の穴。紫色の細い筋が蠢いてる。
で、他は真っ黒だ。これがホントの一寸先は闇。何処に続いてるかも全然見えねぇし。
「まっすぐ進めばいい。そのまま歩けば大丈夫だ」
そう言って、ジンはその中に入ってった。
入ってった瞬間、消えたように見えた。
「うわっ、待てよ!」
慌てて追いかける。紫の筋以外、本当に何も見えなくなった。
二、三歩歩いたら……。
「……ここが霊界?」
「そう」
「道、短ぁ!?」
「そういうモンだ」
いや、だからって短すぎるだろ……。立ち幅跳びで飛べる長さより短ぇぞ。個人差はあるけど。
「ここは、霊界のどの辺だ?」
「右端の方」
「分かるかっ!」
「地図じゃ右上あたりかな」
「分かるかっつに!」
「俺の住んでるトコの近く」
「最初っからそう言えよ!」
結局どの辺なのかはわかんねぇけど。
「北の方、とか。荒地の近く、とかもあるけど。まぁ、何でもいいだろ。マーリさんとこ行くぞ」
「分かんのか?」
「仕事に行ってなかったら、お化け辺りと談笑してると思う。多分、きっと、そうであったらいいな」
「滅茶苦茶不安だな!」
「マーリさんの行動パターンなんか読めるわけねぇだろ」
「俺が知るわけねぇだろ!」
さっさと歩くジンの後ろをついて行く。
何にもねぇな、この辺。少し空気も冷てぇし。
「取り敢えず、仕事に行ってるかそうでないかだけでも確認しとくか」
「……兄ちゃん、これ何?」
「隊舎。俺の住んでるトコその二。駄弁ったり仕事したり雑談したり泊まったりゲームしたり仕事貰ったりもする所」
「半分は遊んでるくね?」
「なにか悪いか?」
開き直んな。
「で、なんでそういう所が日本風の家なんだ?」
「建てた人の趣味じゃねぇのか。俺が知ってるわけねぇだろ」
「中はやっぱ畳なのか?」
「あぁ。部屋によっては土間もある。調理場は何故か最新式のシステムキッチン入ってるけど」
「バランス悪いなおい!」
「俺に言うなって」
ジンが言いながら引き戸を開けて、中に入る。慌てて追いかけたら、何かが入った皿をのせたお盆持った、優しそうな女の人が板張りの廊下を歩いていた。
「あら。ジンちゃん、お帰りなさい」
「…………ただいま戻りました。タド、良かったな。探す手間が省けたぞ」
この人がマーリさんか。分かりやすいな。
三十は超えてそうだけど、でも何か若い。そこそこ美人。声優しい。しかも裏に黒いモノが見えない。
「その子は? 弟ちゃん?」
「はい。タラッド‐タドと言います」
「え、あ、初めまして」
視線で促されて、慌てて挨拶をする。
「ふふ、初めまして。クッカ・マーリア・アハティラ‐マーリです。どうぞ愛称で呼んでくださいな」
うっわぁ、雰囲気優しっ。今まで見た事ねぇよこんな人!
「タドちゃんは、ピリレン玉お好きかしら?」
「食わせてみれば分かりますよ」
「ピリレン玉?」
「菓子。食感が面白れぇぞ。食ってみろ」
ふぅん?
中に上がらせてもらって、部屋の一つに入れてもらった。畳の匂い……。霊界で嗅ぐとは思わなかった。
座卓の上に置かれたのは、ビー玉そっくりのカラフルなナニか。菓子ってことは、食えるんだよな。
「どうぞ、召し上がれ」
お言葉に甘えて、一つ口に入れてみる。
冷たいな。
硬いな。
味、しねぇな……って、
「ビー玉っすよねこれ!」
「あら、ガラス玉を食べたのですか? 危ないから止めた方がいいですよ」
「いや、なんでそれとピリレン玉とを同じ皿に入れてるんですか!」
「コレはそういう風に盛り付けるモンだそうだ。まぁ、ガラス玉には気を付けろよ」
…………えぇー。
「見分け方とかねぇのかよ?」
「光にすかして見ると、中に粒がある。みかんみたいな」
「先に言ってくれよ!」
青いのを一個とって、光にすかして見ると、……あぁ、たしかに。みかんの粒っぽいモノがぎっしり詰まってた。
食ってみたら、初めは普通の飴みたいにころころ行ってるんだけど、だんだん解けて来て……。舌で押し潰したら、中の粒々が一気に出てきた!
みかんをバラバラにして食ったらこんな感じなのか? 口の中に粒々がいっぱい……。潰したら、何とも言えない不思議な味の汁が出て来る。旨いとも不味いとも言えない……。
「な、食感は面白れぇだろ」
「すげぇ不思議な味するんだけど」
「な。俺もあんまり食わねぇや」
んだから、先に言えってのに!




