6 掃除は自分で
よし、今日こそ掃除する。
四日前に延期って言ったまま、結局掃除できてなかったんだよなー。
岳だ。
今度こそ、絶対掃除する! ……と、今やる気になってんだから今やんなきゃな。
じゃあまずは……あ、どうせなら押し入れん中もやっとこ。
上の段の左には布団が二組。右側は夏物が入った衣装ケースと、何が入ってんだか分かんない箱。多分幼稚園や小学校の時の産物じゃねぇかなぁ……。なんでここに入ってんだ。場所が無かったからか、たまたまいい具合にここが空いてたからか。
取り敢えずこの箱は開けねぇ方がいいな。キッチリ閉まってるからそうそう埃なんか入んねぇだろ。
第一、上の段掃除するのは大掃除の時だけでよくねぇか。いいよな。よし、下の段。
下の段の左側はほとんど玩具だな。ダーツにお手玉、ビー玉おはじき、その他諸々。勿論ちゃんと箱や缶に入ってるけど、何回も開けたから大体分かる。……多分!
右側は大きいけど結局玩具。人生ゲームとか、箱がでかい物。と、折り畳みテーブルとか座布団とか。
よし、まずはここからだな。押し入れの舌の段は全部出そう。
そういや、最近暇だと思ってたらこの辺の玩具で全然遊んでねぇな。何にはまってたっけ、俺。
……百マス計算とダーツだ。掃除終わったら久しぶりにやろ。
このぬいぐるみの軍団は光のだな。窓の外でお手玉と一緒に叩くか。大体出し終わったし。
さて、押し入れの下に入ってた物は出して、布のモノは外で叩いた。
普通ならこれで空っぽの四角い空間が出て来るはずなのに……家の場合は違うんだな。
どうしても一個だけ残るんだ。
クリーム色の、馬鹿でかいぬいぐるみが。
……もっと詳しく言うと、左胸に当たる部分が真っ赤に染まっている以外はクリーム色で、冷蔵庫と同じくらいの、少しクマに似たゆるキャラ『なめっこ』のぬいぐるみだ。昔、父さんが懸賞で当てたらしい。
左胸が赤いのはケチャップの汚れな。開封したてのケチャップを思いっきり握り締めたせいって姉ちゃんが言ってた。……なんでぬいぐるみのそばに開封したてのケチャップがあったのかは知らねぇけど。
そんなぬいぐるみの名前は『ニンジンとサツマイモの甘煮』母さんが作るお弁当によく入ってる一品の名前でもある。なんでそんな名前になったのかは、小さい頃の兄ちゃん姉ちゃんとその幼馴染に聞いてくれ。多分『覚えてるわけ無いでしょ』って帰って来る。
で、コイツはもうでかくて重くて、はたくどころか出す事も一人じゃできねぇから、直接掃除機を。
…………見てて痛ぇんだけど。悲鳴聞こえてきそう。俺だけかなぁ……。
もういいや、さっさと掃除機かけて、元通りに放り込んで!
よし。
……いや、まだ押入れ掃除しただけじゃん。
本棚や机の上なんかの埃をはたいて、雑巾は……後でいっか。掃除機をがーっと床にかけて、クックルワイパーで拭いて。
よし。
こんどこそ、よし。
終わった!
「岳。……掃除したのか? 自分から? めっずらしぃ」
「『掃除したのか、めっずらしぃ』なら許すけどさ、なんで『自分から』をはさんだんだ!?」
「俺はいっつも母さんに言われてやるからさぁ……」
いや、今の言い方だと俺が自発的に掃除することが珍しいようにしか聞こえねぇ! なっくん笑ってるし!
えぇと、今入ってきた背の高いおにーさん。
幼馴染で隣に住んでる、兄ちゃんと姉ちゃんの同級生。特技は笑う事と物を失くす事だな。名前は海中夏。だからなっくん。
妹が居るけど、俺の同級生じゃなくて光の同級生! なんで海中家には俺と同い年の奴が居ねぇんだ。特別不満な訳じゃねぇけどさ。
「その調子でさ、俺の部屋も。今、母さんに怒られるギリギリラインなんだよ」
「絶対嫌だ」
自分でやれよ!