54 宿題は忘れずに
宿題なんか燃えてしまえ。……本当に燃してやろうか。
岳だ。宿題がやったらたくさん出て、めんどくさいからすごくイライラしてる。燃すぞこら。もうちょっと減れ。宿題に言ってもしょうがねぇけどさぁ。
タラッドだ。もしくはタド。
岳は俺の中に居る奴及び俺に体を貸してくれてる優しい奴――って言ったら、アイツ怒るけど。『お前が勝手に乗っ取ったんだろうが!』って。どうやら岳ってのは短気らしい。
「岳ー、宿題やって」
呟いてみるも返事は無し。まぁそうだろうな。滅茶苦茶集中しねぇと岳の声は聞こえねぇし。
「岳はお前だろ。中身に言ってんのか?」
「あ、兄ちゃんお帰り。意外と早かったな」
「急いだ」
なんて分かりやすい、でもって簡単な理由。
「仕事やんのって、急いだりできんのか?」
「面倒なところを飛ばしながらやれば、かなり時間短縮できる」
「……飛ばしていいのか?」
飛ばすって事は、要するに適当になるんだろ? 未練聞いて冥界に送ってーってしてるところに飛ばせるとこって……。
あ。未練聞いて、未練無くさせるのって大分面倒じゃね? しかも忘れてる事や無いことだってあるんだし……。
「結局は冥界に行くんだから同じ事さ」
「えぇー」
「未練なんか、次の人生に引っ張っていくほどの事じゃねぇだろ」
「言い切ったな」
自分じゃ分かんねぇくせして、言い切ったな。
「実際、昔は死神様一人で全部の霊狩ってたんだから。未練なんか聞く暇もなかったってよ」
「本人から聞いたような口調だな」
「聞いたんだよ」
「は!? え、死神様ってあれだろ? 俺達の事を異質だから均衡を崩しかねないのなんのとか言っといて、最終的には『その世界の『普通』に従っとけ』って投げやりな事言ってた」
そうそう会えるような人じゃねぇだろ。
「その方」
……っつか、『死者が死神になる事が出来るようになる前、死神の仕事を一人でやっていた』っていう死神様は、今何やってんだ。
「死者を死神にする事が可能になってから、色んな世界ぶらぶらしてたらしい……てか、多分今もしてるな。似非死神じゃ出来ねぇような事があった時だけ、頼りに行く」
似非って言った……。自分含め、ちゃんと勉強してから死神になった死神を似非っつった……。
「で、俺はどうやらその『出来ねぇような事』に入ったらしい」
「なんでだ!? いや、違うな。何した!?」
「別に。教えられたとおりにやってるのに、全然伸びなかった。そんだけ」
うわぁ。何かまともだった。でもってあんまり聞かねぇような事だった
……叩かれた。心読むな。
「でも実践演習では、勝ち負けで見るなら勝った事しかなかった」
「自慢け?」
「そう」
認めやがった。
「で、俺の成績をどうつければいいのか困った教師陣が、死神様の方に俺を押し付けた」
「邪魔モンか」
「ハッキリ言うな」
はーいはい。
「お陰であちこち旅もできたし、言語も覚えられたし。だから俺は、もしお前が死校に入学したらお前もそう出来るように教師陣に掛け合ってみるかなとか思ってるけど、どうだ? ……あぁ。まだ受けるかどうかも決めてなかったか」
……決めてなかった。最近じゃ考える事すら放置してたような気も……。
「受けようかな。何か楽しそうだ」
「ん? なんだかんだ悩んでたのは?」
「いや、自分が元々この世界のモンじゃねぇって分かった途端、どうでもよくなった」
「そうか。じゃあ推薦を……」
あぁ、推薦必要だったっけ。確か現役五年以上の死神が出すって奴。
「出してもらえるように頼んでみるか」
「兄ちゃんじゃねぇのかよ!」
「馬鹿。俺が死神やってる期間はまだ二年と半分だ」
あぁ……あと、それと同じだけか。
「狙い目はマーリさんかな。あの人なら即出すだろ。今度会いに行くか?」
「マーリさんって人に?」
「本名はクッカ・マーリア・アハティラな」
「長っ!」
「で、そこからマーリを取ってマーリさん」
「なんでそこだよ!? もっと他に無かったのか!?」
「そうだな」
同意された。兄ちゃんも知らねぇのかよ。
「第十三部隊七不思議の一つだ」
「なんだよ、それ」
「第十三部隊は俺の所属部隊、七不思議は分かるだろ」
「いや、それは分かるけど。他の六つは何?」
第十三部隊ってのもおぼろげに知ってたし。確か、他の部隊で手に負えなくなった仕事を扱ってるとこだったっけ。
「二、部隊長が、朝起きてから寝るまでずっと同じ場所に座ってる。または寝てる」
「うわぁー。その人、怠け者なのか?」
「置物だ」
完全に部下になめられてんぞ、部隊長ー。
「三、頭脳派率が滅茶苦茶低い」
「何パーセントくらい?」
「五パーセントから十パーセント、かな」
少なぁ!?
「戦闘タイプばっかりが集まってるらしい」
「ちなみに、滅茶苦茶少ない頭脳派ってどんな人だ?」
「マーリさん」
マーリさんまた来た!?
「だけ、かな」
少なぁ!? 一人!?
「四は?」
「馬鹿しか居ない」
「兄ちゃんも!?」
「…………ん、俺は除いとけ」
あ、自分は馬鹿じゃないってか。
「マーリさんは?」
「親じゃないのに親馬鹿」
「訳分からん」
「第十三部隊の奴は皆マーリさんの子だそうだ。マーリさん曰く」
部隊全員子供って子だくさんだなマーリさん。もちろんそう思ってるってだけだろうけど。
「五は」
「無い」
……うん?
「ここまでしか無い」
「ねぇのかよ! んじゃ七不思議って言うな!」
「なんとなく七不思議って言っただけなのに、他の六つを聞くから」
人のせいにすんな!
……あれ?
一階の方から、女の人の声がいっぱい……?
「兄ちゃん、誰か来たけど誰だろ」
「さっき忍がどっか行こうとしてたけど。誰か連れてきたのか?」
あぁ、姉ちゃんの友達か。高校の友達なんか俺全然知らねぇや。見てこようかな。
……………………あ、宿題。




