52 写真だけだと顔って重要
「忍ー。アンタも隅に置けないよねぇ」
「隅っこって居心地いいじゃん」
あたし、ソファで本読むときいっつも隅っこに縮こまってるよ?
「は? …………いや、そういう事言ってるんじゃないの」
忍でーす。
いまだに高校生の自覚持てません。だって中学校より近いんだもん。小学生の頃通ってた道使ってんだもん。
朝来て、カバン置いて、そういや宿題あったなーって数学の問題をしてました。数秒前まで。
高校になって出来た友達の一人、莉子が後ろから抱き着いてきました。重い。スリムとは言い難いだけある。今の聞かなかった事にしといてね。
「で、何? なんで隅に置いてくれないの?」
「置いてほしいの!?」
「横と背後に壁がある方が安心感あるんだもん」
「そう言う事じゃ無いって!」
はいはい、分かってまーす。分かってますから、背中を押すのやめてくれない? 凄い痛い。
「で、何さ」
「アンタも隅に置けないねって」
「はぁ。なんで?」
「すっごいカッコいい彼氏いるでしょ!」
……………………ぱーどぅん?
あれ、パードゥンってどんな綴りだったっけ。pardon……こうかな? 机に書いてみたけど。
「……ねぇ、もうちょっと違った反応ないの」
「え?」
「『彼氏いるでしょ!』って言われて、机にpardonって書く女子居る?」
ここに居るじゃん。目の前に。
「え、何、忍ちゃん彼氏いるの!?」
「カッコいい彼氏!?」
「写真ある?」
あのねー。なんでそんな集まるの?
しかもねー。あたし、彼氏がいた事なんて十五年生きてきて一回たりとも無いんだよ。
「見せて見せて!」
「何を?」
「彼氏の写真!」
無いし。あたしの携帯に入ってる写真は、家の白い壁紙とお父さんお母さん純兄だけだよ。ちなみに家族の写真はアドレス帳に張るための物。なんとなく貼ってみたかった。
「そもそもあたし彼氏居ないよ?」
『えぇ!?』
やたら驚かれたよ。ほら、そこの男子がびっくりして振返ってたよ。
「ウソ言わないでよ、昨日学校の近くを一緒に歩いてたカッコいい人誰よ!? 白状しなさい!」
白状してるでしょ。居ないんだってば。そして莉子、それ何のキャラ?
「忍ちゃん美人だから、彼氏の一人や二人や三人……」
「すごい嫌な女だねあたし。彼氏が二人も三人も居てどうすんのさ」
「でも一人はいるんでしょ?」
「そんなにあたしに彼氏作ってほしいのかアンタ等は」
「またまた、いるんでしょ?」
人の話を聞け! 莉子含め女子三人!
「じゃあ取り敢えず、事実から攻めよう。昨日、暗くなってから学校の近くを一緒に歩いてたカッコいい人誰? 部活の帰りに見ちゃったんだ~」
あぁ、莉子はバトミントン部だっけ。バト部は大会近いとかなんとかで遅くまでやってるんだよね。
「夜のデート?」
「ないない。夜は家に居るよ。大抵」
「大抵、以外は!?」
ここぞとばかりに責めて来るね、藍子。
「昨日くらいしか行ってないけど、散歩とか。星見に行ったりとか」
「彼氏と星を!? ロマンチックー」
「家族とだよ」
『えぇー』
『えぇー』じゃない。
「昨日、あたしが見たのは散歩してたの?」
「うん」
「あのカッコいい人と!」
「うん」
『認めた!?』
事実だもん。聞いといて驚くなよ。あたしはちっとも嘘ついてないからね! 事実否定したりなんかしないからね! 現実逃避以外では。
「え、じゃああの人誰?」
「兄さん」
『あぁあああー……』
うなだれるな。
「あたしが感じたあの愛は」
アンタには愛情感知センサーでもついてんのか。
「強いて言うなら兄妹愛、家族愛でしょ」
あるかどうかはともかくとしてね。
「そっか……。忍のお兄ちゃんならカッコよくて当たり前か……。その血ちょっと分けろ」
無茶言うな、莉子。大体あれだよ、十何個かの生物ごちゃ混ぜの血だよ。鬼とか正体不明の化物とか入ってるよ。
「というかそもそも、お兄さん居るんだぁー。いくつ違い?」
いくつ、って言ったら学年的に何個違いかって事だよね。純兄とは学年同じなんだけど。
「えぇと、364日違い」
「一つ違い?」
「ううん。あたし4月1日生まれで、兄さん4月2日生まれだから、学年は同じ」
「あ、じゃあ、あたし等とも同い年じゃん! 紹介してよ!」
……積極的だね。
「ねぇ、お兄さんの写真ある?」
「あたしも見たーい!」
「あるよ」
『あるんだ!?』
だから、なんで期待して期待通りにいくと驚くんだ!
「アドレス帳に張ろうと思って、取らせてもらった」
「へー。……まさか隠し撮り?」
「隠れように隠れられない。すぐ気付くんだよ。どう思う?」
「愛の力」
「嫌だな」
純兄はそれなりに好きだけど、あくまで兄さんとしてだし。でもって好きと怖いのシーソーゲーム。
「あ、あった。これ」
純兄の画像。一瞬呼吸止めて、
『カッコいー!』
それほどでも。……なんか他の子も集まって来たよ。
「えぇー! 嘘、お兄さん!?」
「似てるー」
「カッコいー」
似てる三割、カッコいい七割。聞いた分にはそんな感じ。似てるについては全力で否定させてもらうけど。
「高山ちゃんも美人だしねー」
「いいなー。同じ家にこんなかっこいい人住んでるとか」
「いや、同じ家じゃないんだけど」
今朝までいたけど、今は仕事に。大変だねー。
「あぁ、学校遠いの?」
「全寮制とか?」
「違うよ。仕事してんの」
『マジか』
マジだ。なんで声をそろえるの。不気味だよ。凄く怖かったよ、今の『マジか』
「学校行ってないんだ……」
「あ、いや、そんなお金ないとか暗い理由じゃないから。学力足りないとかいう訳でも無いし」
むしろいいくらいだったからね。一応高認受けとくとか言ってたからね。
「あ、そうなんだ。凄いなー、社会人かー」
まぁ、たしかに凄いね。普通に自分で生活費稼いでるからね。
「やっぱり忙しい? 紹介してもらうの無理かー」
「そうでもないよ。昨日は帰って来てたんだし。今ある仕事終わらせたら何日か帰ることにするって、今朝言ってた」
「……そんな事できんの」
「ちょっと仕事が特殊だから」
ちょっとじゃないよな。滅茶苦茶特殊だよな。
「深くは聞かないことにしとくよ……」
おーい、莉子、何を想像した!
「紹介できるかメールしてみようか?」
「あ、あたしはいいよ」
莉子、ほんとに何を想像した!
「私会ってみたい! 人の家族見るの好きなのー」
どんな趣味だよ。まぁいいや。藍子は会うのね。合いたいって子が居るーってのだけ送っとこ。
「藍子、やめときなよ! 内臓売り飛ばされるよ!」
莉子、ほんっと何想像した!? あたしの兄さん犯罪者!? マフィア!?
……やろうと思えば出来そうだけど。
「そんな馬鹿なー。大丈夫だよ」
「あ、ウチも会いたいなー」
「え、じゃああたしも」
流石日本人。莉子も周りに流されてるし。
あ、純兄から帰って来た。……珍しっ! 早っ! いっつも一時間くらい遅れて帰って来るのに。仕事にひと段落付いたと子だったのかな? 今日は結構ついてんじゃない? あたし。
『面倒』
短っ! Cメールだった訳だ。
「めんどくさいって」
『えぇー』
ブーイングがうるさいです、っと。送信。ちょっとしたら帰って来た。
『知るか』
冷たいなー。
「えぇー、絶対だめ?」
「説得、できるかなぁ?」
「頑張って!」
自分で直接やったらどうだとか思うけど。
…………直接。あ。
『応じなかったら誰かにメアド教えるよ?』
帰ってきた答えは
『そうなったら、メアド変えてお前に教えなければ済む』
済まさないでくれ。ごめんなさい。許してくれた。
一回脅しっぽいの使ったんなら、もう頼めないなー……。
「あ、純兄が家に帰って来た時、家に来る?」
『行く!』
よし。これなら大丈夫。
…………後で怒られやしないかな。




