51 地図を見つつ
「あれ、兄ちゃん何やってんだ?」
「見てから聞け。今忙しい」
返事する余裕はあるんだな。
岳だ。
……もしくは、タドことタラッド。どう名乗るべきだ?
学校から帰ってきて自分と兄ちゃんの部屋に入ったら、兄ちゃんが机に向かって何かしてた。
机に向かって……とは言っても、何故か立ってるけど。
机の上を覗き込んでみた。
デカい地図が一枚と、小さい地図が一枚広げられてる。右奥には畳まれた地図が何枚かと、黒いカバーがかかった本が二冊。
「何処の地図だよ、これ?」
見た事の無い大陸が浮かんだ、多分世界地図。書かれてる字もさっぱり読めない。というか見た事すらねぇ。
「異世界」
「わかってんだよ、そんくらい」
「トートン界」
「何処だよ」
「キキワ界属界」
「わかんねぇよ」
「じゃ聞くな」
「えぇー。そりゃねぇだろ」
………………何の反応も無かった。俺の言葉は左耳から右耳へ流れてるらしい。流すな。
とりあえず兄ちゃんの左手にあるペンと、地図との接点を見ておく。……見にくかった。左側から見たらな、そりゃそうだよな。右側に移動。
ちょうど兄ちゃんの手が動いた。蛍光ペンで、地図に書かれた文字上からなぞる。
なぞられたのは島の名前か? もう一本。こっちは海。さらにもう一本……は、ちょんって大陸の隅っこに点を打っただけだった。
「……あれ、兄ちゃん、左利きだったか?」
「文字を書くための物は両利き」
「ふーん? そうだったっけ」
「頑張った」
「納得した」
俺もやった。小学んとき、両利きってかっけー、とか思ってやった。書けるけど字が汚くなるな、流石に。
線と点とを書いた後、兄ちゃんはなにか考え込む。
「……で、そこが何?」
「今忙しい。自分で考えろ」
考えて分かるモンか!?
兄ちゃん何もしてねぇじゃん……とか言いてぇけど、頭ん中が忙しいんだろうな。
地図に書かれた文字は読めねぇからなぁ……どう考えろと。自分で考えろっつったって事は考えりゃ分かるんだろうけど。
島と、地図上ではその右側に広がる海。そのさらに右側には大陸。
島と、海と、大陸。
ひいが三つ付く祖母ちゃん人魚の住んでた海と、ひいが三つ付く祖父ちゃん鬼の住んでた島か? で、この大陸が、ひいの二つ付く祖父ちゃん化物の出身地……と言っていいのかはともかく、生まれた場所。
そういや、父さん達に先祖の話するよう頼んだのって、兄ちゃんだったっけ。
……あれ、兄ちゃん、前に父さんは八分の一、母さんは十六分の一、色んな血が混ざってるのなんの言ってなかったっけ。あの時は出まかせだーって言ってたから別もんなのか? 悪魔の血ぃなんてどっこにも入って無かったもんな。
母さんに至っては、霊体の生物達をごちゃ混ぜにした新たな生き物ー……らしいし。うわー、ホント滅茶苦茶に混ざってんな。
で、兄ちゃんが線引いて目立たせたのがご先祖さんの居た……かもしれない場所って事は、前言ってたみたいにご先祖に会おう旅本当にするつもりなのか?
「兄ちゃん、そこ、ご先祖さんの人魚が居たとこか?」
「ん。多分」
「……多分?」
「父さんの話しか情報がねぇから」
あぁー。そっか。情報少なすぎるな。
「人魚の住む海、額と脳天の間に二本の角がある鬼が住む島、その近くには大陸」
意外に多くね?
「人魚が居るって時点で世界はそれなりに絞れた」
「鬼については?」
「それもある程度」
「ちなみに、それが居るって事が分かってたのはなんでだ?」
「前この世界に行ったときに会った人に聞いた」
うわぁ。そんなん覚えてたのか。
「鬼が最低でも三種類以上生息してる世界だから、二つは外れて、鬼と人魚がすぐ近くに居て、地形も話に合う所を探したらここに着いた。それっぽい所が他にもあるんだけどな……」
めんどくせぇな……。
「これ以上調べられないとこまで行ったら、しらみつぶしに行ってみるか」
……何十個もあったらどうするんだ?




