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ただいま迷走中!?  作者: 呪理阿
三月 春休みからもう迷走
5/102

5 父、語ります

「あ、そうだ。お父さん何かお話して」

「……忍からのリクエストは久し振りだな」

 たいてい、父さんに話せがむのは光だもんなー。たまに自分からも話してくれるけど。

 岳だ!

 今日の晩飯は唐揚げ。旨い。鳥の皮ふにゃふにゃはあんまり好きじゃねぇけど。コレは光か姉ちゃんにやろう。

 その晩飯中、姉ちゃんが突然話せがんだんだ。俺の斜め隣りにして、姉ちゃんから見れば向かい側に座ってる父さんに。

「どれくらい久しぶりだろ。一年か二年ぶりじゃないか?」

「分かんないよ。それよりお話。『昔々、まっちゃんという……』で始まる奴ね」

「なんで!?」

 登場人物決められてるし。昔話限定になってるし。

「んとね……。ちょっと待ってて」

 おーい姉ちゃん、どこ行くんだよ。ご飯中だろー。

 階段上がって行く音がするから、自分の部屋行ったな。何持ってくるんだ? 今度は下りてくる音。

「ほら、これ」

 何だそりゃ。布袋? 四角くて黄色いフェルトの上の方に茶色い紐が通してある。手作りのお守りみてぇだな。

「何これ? お守り?」

「うん。一般入試の前日にね、クラスの先に決まった組が作って渡してくれたの」

 へぇ、仲良かったんだな。そういや、体育大会だの文化祭だのでは毎回賞取ってたとか言ってたっけ。

「その中にメッセージが入ってるから、最後から二枚目見て」

 父さんがそこ見た。なんか苦笑した。

「見せて~!」

「はい」

 あ、光ズルイ。

 覗き込もうにも、俺の席のまん前だから見れねぇし! 母さんに見せてねぇで俺にも見せろよ!

「光、俺にも貸せよ」

「は~い」

 何?

『TO 高山忍

 昔々、松ちゃんという……受かったら父さんが続きを話してくれるだろう。 兄』

 兄ちゃん、これから受験受ける妹宛てにどんなメッセージ書いてんだ!?

 ……あぁ、兄ちゃんが姉ちゃんと同い年なのは、双子だからじゃねぇからな。

 姉ちゃんは四月の一日生まれで、ギリギリ新高校生。兄ちゃんはその一年前の四月二日生まれなんだ。ギリギリ同い年なんだよ。誕生日が逆だったら二つ学年違ったのにな。奇跡ってすげぇ。

「ね、だから話して」

「おとーさん関係なくないか?」

 兄ちゃんが勝手に書いたことだもんなぁ……。

「ここに『父さんが』って書いてあるでしょ? 関係あるじゃん」

「しょうがないなぁ」

 父さん、『しょうがない』とか言いつつ嬉しそうだけどな。

「昔々、松ちゃんというお姫様がおりました」

「松ちゃん女なの!?」

 姉ちゃん……、女の松ちゃんは居るだろ。確かに俺等の知ってる『まっちゃん』は男の人ばっかりだけど。父さんの高校生の時からの友達とか、小学校の登校班が一緒だった子とか。

「そのお姫様は松が好きで好きで大好きでしょうがなかったので、お城……お城って言うか、お屋敷か。寝殿造りの」

 あぁ、昔々って平安時代?

「寝殿造りって何~?」

「むか~しの日本でね~、すごく偉いって言われてた人が住んでた大きなお屋敷よ~」

 そっか、光は次で小五か。歴史はまだだった。母さんのアバウトな説明で光は納得。

「で、松ちゃんはお屋敷の敷地内にたくさん、たくさん、松の木を植えました。

 クロマツ、アカマツ、リュウキュウマツにヒメコマツ、キタゴヨウやヤクタネゴヨウ、チョウセンゴヨウまで、ありとあらゆる種類のマツをとにかく植えて植えて植えまくりました」

 大変だっただろうなぁ、使われる人。

「自分一人で」

 すげぇな松ちゃん!? どうやったんだ!?

「庭全部を松で埋めた後、困った事が起こりました。洗濯物が乾かないのです」

 っつーか、庭全部松で埋まってんなら、洗濯物は何処で干してんだ?

「しかも、松ちゃんは常に松の木の下に佇んでいたので、松花粉症になってしまいました」

 その時代って花粉症あったのか?

「怒った松ちゃんのお父さんは、松を全部引っこ抜けと命令しました。しかし、松ちゃんは松と離れるのがイヤだったので、引っこ抜いた松を着物やナンヤカンヤで包んで背負うと、屋敷を出て行きました」

 勇気あんなぁ、松ちゃん。……いや、ちょっと待て、引っこ抜いた松全部背負ったのか!? 怪力にも程があるだろ! 着物とナンヤカンヤもよく破れなかったな!

「屋敷には、松を引っこ抜いた跡が残って、大変な事になりましたとさ、お終い」

「え~、終わり~?」

 意外と短かったな。

「……松を引っこ抜いた後に、池の水が浸食してきて地盤が緩んだりとかしちゃったりして大変なことになりましたとさ、お終い」

 誰がいつ、何故大変になったのかを聞いた。

「引っこ抜いた松と松ちゃんは、結婚して幸せに暮らせましたとさ、お終い」

 待たんか!

「どうやって松と人間が結婚するんだよ!」

「鬼と人魚が結婚できるんだからできるはずだ!」

「何処の話だ!?」「何処の国のおとぎ話!?」「何処の童話~?」

「知るか! 俺が聞きたい!」

 逆切れか! 自分で言ったくせに!

「きっとな! 鬼は美男子にでも化けてて、人魚がそれにコロッと騙されたんだ! 鬼は鬼で、人魚の歌声のせいで難破したんだよ! なんだかんだ色々あったけど、最終的に二人はハッピーエンドにたどり着いたんだ! 知らんけど!」

 良かったな! ……んだから、俺だって知るか!

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