4 成仏、手伝います
「こんにちはぁ」
「……こんにちは」
「暇ですかぁ?」
「暇ですよ」
「遊んでー」
「……何して?」
「憑依ごっことかどうかなぁ?」
「帰れ。もしくは成仏しろ」
岳だー。
ベランダに出たら、先客がいた。
姉ちゃんでも光でもプランター弄ってる父さんでもなくて、女の子の幽霊が。
たまに居るんだよなぁ……家のベランダに幽霊ホイホイなんてあったっけ。
「成仏したくなぁーい」
「成仏しなかったら死神来んぞ?」
「死神なんか怖くないもん! ……お兄ちゃん、ひょっとして怖いのぉ?」
……ムカつくガキだな。いや、俺もガキだけど、コイツの方がもっとガキだからガキでいいだろ!
「あー怖いよ。知らねぇのか、死神ってな、死んだ奴をもっかい殺しに来るんだぜ?」
「ぷぷー、怖いんだぁ。そんなにおっきのに怖いんだぁ!」
おい、なんで最初しか聞いてねぇんだコイツ。
「後半部分聞いてたか、お前」
「聞いてたよぉ。でも、マキはそんな薄っぺらい嘘、信じないもんねー!」
ホンットにムカつくなコイツ! 幼稚園児くらいの大きさのくせして、口もやたら達者だし。
「おにーちゃん、マキが怖がらないから悔しいんでしょー!」
「幼稚園児に悔しがらされるわけねぇだろ」
悔しい、と言うよりもムカついてんだ。
「……誰が幼稚園児?」
「は? お前だろ」
「マキは小学校の五年生ですぅ!」
「サバ読むな。どうせならもっと現実味のある嘘吐けよ! 小学校低学年とか!」
「本当にだもん! あの時川に流されなかったら、華の女子小生やってたもん!」
知らねぇよ! 死んだ後の年齢重ねんな! その前に『華の女子小生』ってなんだ!? どこが華!?
「…………お前、何年幽霊やってんだ?」
「んと、んと、七か月?」
あ、思ったより短かったな……。一年経ってねぇんだ。
「その間、一回も死神に会わなかったのか?」
「会ってないよ! 会ったのはね、優しい黒い服のおじちゃんだけ!」
『優しい黒い服のおじちゃん』? 滅茶苦茶怪しいじゃん。
「どんな奴?」
「んとね、マスクしてね、サングラスしてね、真っ黒い服着てね、『飴ちゃんあげるからおいでー』って……」
怪しさ百パーセントじゃねぇか! 居たのか? 『飴ちゃんあげるからおいでー』とか言う奴!
「でもマキは要らないよーって言ったの! 怪しい奴だもんね!」
怪しい奴だって分かってんじゃねぇか! なんで初めに『優しい』って言ったんだよ!?
「でね、その人ね、マキが山に入って振返ってみたらね、刀持ったおにーちゃんに追いかけられてたよー! 悪い奴だもんね!」
……いや、『刀持ったおにーちゃん』の方が明らかに悪い奴だろ。
「そのおにーちゃんが刀振ったらね、なんとそのおじちゃん、消えちゃったんだよ! ふわって!」
……あれ?
「そのおじちゃんって幽霊か?」
「決まってるでしょー。だってマキ、普通の人には見えないんだもん! ……あれ、おにーちゃん、なんで見えてるの?」
今更な質問だな! 見えるもんは見えるんだよ!
「見えちゃ悪いか?」
「マキの相手してくれるからいいよー」
テメェ中心か!?
「その後ね、刀のおにーちゃんね、マキの方に寄って来たの」
うん? その『刀のおにーちゃん』って、聞いた限りじゃ死神なんだけどな……。なんでこいつ、ここに居るんだ?
「刀のおにーちゃんが寄ってくるときね、マキ、何されたのか分からなかったけど、動けなかったの」
……それ、怖くて体が強張ってたんじゃねぇのか?
「刀のおにーちゃんもね、黒い服着てたの。そのおにーちゃんね、マキの前に立ってね、マキ見下ろしてくるの」
……黒い服? やっぱりそいつ死神だろ。怖くても馬鹿にはしねぇよ。だからちゃんと素直に自分が怖がってたこと認めろ。
「でね……そのおにーちゃん、マキにこう言ったの。『残業代、出ると思う?』って」
は!? 残業代!? 死神に!?
「『今回はあの元誘拐犯だけが標的だったんだけど』って。『指令無しの奴を冥界に送った事、ねぇんだ。給料出ねぇんなら、今日は乗り気じゃねぇしめんどくせぇし、帰ろうかな』とも言ってたよ!」
……ケチと言うか、気まぐれな奴と言うか、やっぱケチと言うか……。
っつーかこいつ、よく覚えてるな。記憶力凄すぎるだろ。
「で、本当に帰っちゃった!」
有言実行、てか。
「お前な、それ、死神だぞ」
「……え」
「運よくそいつがケチだったから見逃してもらえたけど、本来なら誘拐犯の二の舞だったぜ?」
っつーか、ケチな死神ってどうなんだよ。
「じゃあ、え? 本当に死神って居るのー!?」
「居るっつったろうが!」
勝手にテメェが嘘って決めつけたんだろ!
「……どうしよぉ」
やっぱ死神怖いんじゃねぇか。
「自分で成仏すればいんじゃね? 霊界ってトコに言って、冥界行特急に乗ったらいいらしいし」
見た事ねぇけどな。冥界行特急。電車?
「霊界って怖いのかな……」
「お前やっぱ怖がりじゃねぇか!」
「別に怖くなんかないもん!」
「へー。じゃあ行けば?」
「あぅうううう」
……ちょっと可哀想になって来たな。しかもなんか、俺がいじめたみてぇじゃん。……あ、俺がいじめたのか。
「大丈夫だって、霊界って、お化けとか死神とかいっぱい居るらしいぜ?」
「おにーちゃんのいじわるぅうううう!」
あ、怖いの煽っちまった?
「えぇっと、大丈夫だってば。皆フレンドリーっぽいしさ。ほら……お菊さんってお化けはな、うちの妹に料理教えてくれたことだってあんだぜ!」
「……ほんと?」
「ほんとだってば。死神だってな、黙って成仏すりゃ何も文句言わねぇんだよ」
「ふーん……じゃあマキ、霊界行く!」
よし! どうやって行くのか知らんが、マキが行く気になった! 単純だなコイツ。
「じゃあね、おにーちゃん!」
「おー」
ベランダから降りて、何故か走ってった。……飛べよ。