31 大量出血しても普通にしゃべる超人の話
「…………ん」
何か、降って来た。
雨じゃねぇし、当然ながら雪でもない。桜の花びらほど小っちゃい物でなければ、宇宙船ほどでかいモンでもない。
細長い。先っぽに丸いのがくっ付いてる。……って、よく見たら人だ!? 人がパラシュートも付けずに落っこちてくる!?
岳だ!
橙と桃色が使われた着物を着た人間……着物の形から女か、それが落っこちてくる。と言うか、もう落ちた。頭から着地した。
……救急車か? 警察か? それとも葬儀屋か?
「ふう、着地成功」
「何処がだよ!?」
真っ黒な髪の間から血ぃドパドバ流しといてよく言えたな! 噴水みたいになってんぞ! っつーか大丈夫か!? おーい、救急車ー!
落ち着け、俺。一番慌てるなり不安になるなりしなきゃならん奴が冷静に額の汗を拭う仕草してるんだ。拭ってんのは血ぃだけど。まぁ、そんな余裕があるんなら大丈夫なんだろ。……って事にしといてくれ。頼むから。
「何だか軽くめまいを感じるな」
……軽く。軽く、で済むか? 血、噴水みてぇになってんだけど。
「貧血か。鉄分を取らねば。今日の夕餉は晩飯だな」
「夕餉が晩飯ってなんだよ。同じモンだろ」
「あっ! 間違えた。今日の夕餉は魚だな」
あぁ、魚って言いたかったのな。
…………しばらく沈黙。
「……君は?」
「岳ですけど。アンタは?」
「名前を聞いてるのではなくて……」
「じゃ、通りすがりT。アンタは?」
「蕾だ。……あっ」
うん? どうした? こほんっと咳払いして、
「通りすがりρだ」
何だよ、ローって。第一通りすがんねぇよこんな奴! っつか通すがってねぇよな! 落ちてきたよな!
「で、何者だ? 妖怪か、服装からして大道芸人か?」
なんで服装が大道芸人なんだよ! 学校の制服だ! 学ランだ!
「変わった服だな……」
恐る恐る襟のところ触ろうとしてんじゃねぇよ!
「つか、なんで妖怪が真っ先に出て来るんだよ」
「髪の色が人間としてあり得ない」
失礼な奴だな! 栗色は元からだからな! 染めてねぇからな! 茶髪じゃなくて栗毛だー、ってのは小っさな拘り。
「黒髪でなきゃ人間じゃねぇってか?」
「いや、人間は黒、灰色、銀、白だ。だんだん色が落ちていくから」
さよけ。
「海の向こうには赤い髪の人間もいるそうだぞ。髪に金を持つ人間も……」
あぁ、居るな。海の向こうでなくとも居るな。水中のALTの先生は金髪だ。
「…………はっ! なに妖怪としゃべっているんだ! 退治せねば!」
「ちげぇっつってんだろ!」
つーか、俺から見たら妖怪お前! 顔の半分は真っ赤じゃねぇか!
「…………ぶつぶつぶつぶつ」
何か唱え始めた! なんだよコイツ、色んな意味で怖ぇよ!
「滅!」
『滅!』じゃねぇよ! 滅すんな!
「もうお前帰れよ! 俺も帰るから!」
「なに!? 妖怪に巣があるのか!」
巣って言うな!
「行かねば」
「来るな! 帰れ!」
「普段から色んなところを渡り歩いているから家がない」
「じゃあ元居た場所まで一回戻れ!」
「どうやって?」
知るか! 俺は帰る。
…………当然のように付いて来るな!




