3 勝手知っててもマナーは守りましょう
「よー、修也ちゃん。……うん? 一人?」
「誰が修也ちゃんだ。たけ……」
「誰が竹だ!」
「人の言葉を勝手に遮っといて勝手に怒るな!」
からかってるだけだろーが。怒んなよ。
岳だ。
今、家に入って来たのは友達の一人で風上修也。顔はそこそこ良いし、勉強、スポーツ、全部同じくらいにできる奴。ま、俺には敵わねーけど? ……ほんとだかんな。水泳とペーランと20メートルシャトルランと球技とついでに視力以外は全部俺が上だからな。……あれ、まさか平均したら同レベル? いやいやいや。
前は一匹狼気取ってた、大して面白くもなんともねぇのに、何故か女子に大変おモテになるお方。ただし彼女持ち。きっと人気は下がって来てるな、うん。
コイツの他にあと二人来るはずなんだけど……まあ、そのうち来るか。
「お邪魔します。……何する、岳? 雨だから外で遊べねぇし……」
「そういや、俺さぁ。昨日、曇れーって祈りながらフレフレ坊主作ってたんだ。効きすぎたな」
「……お前、何気に子供だよな」
あぁん?
「小学生はれっきとした子供だろうがー。それも分かんねぇか、修也ちゃんよぉ」
「間もなく中学生だろ! 精神年齢が幼いっつったんだ、俺は! ……あと、誰が修也ちゃんだって?」
精神年齢が幼いだぁ?
「春休みの俺の生活の暇さを知らねぇくせに! フレフレ坊主量産してティシュ無くなって俺が取り替えなきゃなんなくなるほどに暇だったんだよ!」
「威張んな! 勉強しろよ!」
「しなくてもできるし!」
「自慢か!」
「そうだ!」
「言い切るな!」
ふー、疲れた。ちょっと休憩。お茶飲もう。
「修也、お茶飲むか?」
「急にやめんなよ! ……飲む」
ほいほい、コップ二つ、と。
「あい。そこ座っていいぜ」
「ん? あぁ、どうも……」
人ん家で、友達だけの物じゃないのに触れるのは遠慮がちなんだよなぁ。俺の物には対して遠慮しねぇくせに。
「苦いな、これ。何の茶?」
「雑草」
「雑草!?」
コイツ今、口ん中にお茶入れてたら吹いてたな。
「雑草っつっても、野草だからな? ヨモギ。あと、スギナとかビワの葉とか入れたって言ってたな」
「……入れた? 売ってるもんじゃなくてか?」
「水道代と灯油代以外、金使ってねぇからな。父さんが河原から採ってきて、家で作るんだ」
最近はよくカラシナのお浸しが晩飯で出るし。これも殆どタダ。ただし苦い。父さんも母さんも、始めは苦いって言ってた姉ちゃんまで『美味しい』って言うけどな。
「灯油代って? ガス代じゃないのか?」
「石油ストーブの上で作るから、灯油台。部屋も暖かくなって一石二鳥だぜ!」
「本来の使い方と逆じゃないか?」
どっちでもいいだろー。ほら、英語じゃストーブは調理器具だって姉ちゃんが言ってたし。英語の長文読解の問題で出てきたんだってさ。
ん? インターホンが鳴った。翔か奈那子さんが来たな。
フルネームは中谷翔と古閑奈那子。修也以外に来るはずの二人な。奈那子さんは修也の彼女で、『彼氏以外に呼び捨てにされたくねぇだろー?』っていう、からかい百パーセントの意味で『さん』付けなんだ。
「ちょっと出て来る」
「俺も行くよ」
「奈那子さんかもしんねぇから?」
「殴るぞ?」
おっと。
「そういうのってさ、普通殴る前に言わね?」
「どうせ避けるんだろ」
殴られそうになって避けない奴、居るか?
あ、それよりもインターホン、待たせっぱなしじゃん。
「はーい?」
『中谷です』
『古閑でーす!』
「あれ、一緒に来たのか? 家反対側たろ?」
修也、うっすら機嫌悪そうになるのやめろよ。
『丁度同じ時に着いたの!』
「あーそう。良かったな、修也ちゃん」
「誰が修也ちゃんだ!」
「あっ! 修也、もう来てたの!?」
……俺、入っていいってちらっとでも言ったっけ。なに勝手に入って来てんだこいつ等。