19 車の中で
「ぬぁっ」
「ん? どした、姉ちゃん」
「美術館行くの忘れてた」
「美術館? なんか用事あったのか?」
「無いよ。でもあそこ、中学生まではタダなんだよ……。タダの内に行っとこうと思ってたのになー」
美術品には興味無しか!?
岳だ。
光は明日から学校、姉ちゃんは明日高校の入学式。俺は明後日が入学式。
要るモン揃えてなかったから買いに行こうってことで、車に揺られてどんぶらこー……は違うか。まあとにかく車に乗ってる。
線路沿いの道を走ってる時に、姉ちゃんがあんまり残念そうじゃねぇ顔で、美術館の話をし始めた。
「あーあ。あっこ、高校生になった途端、中学生以下の一億倍してもまだ足りないくらいのお金取るんだよー」
そりゃ、ゼロの一億倍はゼロだからな。確か高校生以上四百円だったっけ。
「じゃあ私が行って写真撮ってきてあげようか~?」
「美術館で写真撮るのは駄目だろ」
「子供の過ちって見逃してくれるよ~」
「無理じゃね?」
こんな腹黒い子供見逃してくれるわけねぇじゃん。あ、でも猫かぶれば……。いやいや。
「そうよ~、光~」
あ、母さんが入って来た。
「どうせ撮るなら、気付かれないように撮りなさ~い」
「は~い!」
いい返事だけど『は~い』じゃねぇよ!
「いやいや」
良かった、父さんは常識人か。
「どうせなら黒装束で忍び込んでだな」
「それ犯罪!」
「忍、まだ忍び込むとしか言ってないぞ」
いや、それ十分犯罪じゃね? 入口って書いてあるところ以外から入っちゃ駄目だろ。
「…………続きは」
「忍び込んでだな、ル○ンのごとく鮮やかな手つきで警備をかいくぐり」
泥棒の名前出てきてるし。完全に犯罪じゃねぇかよ。
「で、写真を撮ってくるんだ」
「そんだけ大げさな事やっといて結局写真!?」
「黒い服来て普通に入って普通に写真撮るだけだ」
「普通に写真撮るの駄目なんだってば!」
「あ」
あ? どした、父さん。
「もー、忍が大きな声出すから踏切が閉まっちゃったじゃないか」
「あたしのせいか!?」
違うだろ。
目の前にはでっかい踏切。線路が四本通ってる。一旦閉まるとなっかなか開かないし、開いてもすぐ閉まるから『開かずの踏切』……って、少なくとも家の中じゃ呼ばれてる。
「あら~、誰か亡くなったのかしら~……。お花」
ん? ほんとだ。踏切の側に小さい花束が。
「ここ、よく人死んでるからね。気を付けろよ、子供等」
『はーい』
……いや『よく』ではねぇだろ。少なくとも俺はここで死んだ人の話聞いた事ねぇぞ。
「あ~! あそこに幽霊居る~!」
「あら、本当~」
光が指してる方は……? 踏切のど真ん中、黒いセーラー服の女学生? この変にセーラー服が制服の学校あったっけ。
あ、電車が来た。あれ? なんで女の子走り出して……。
「電車と駆けっこしてる……」
やっぱり? 父さんも同じ意見?
「負けたよ」
「がっかりしてる~」
二本目、三本目の電車とも同じことして、全敗。そりゃそうだろ!
踏切が開いて、幽霊の側をすり抜けて踏切挟んだ反対側へ。幽霊ー、成仏しろよー。
「前の車、呪われでもしてるのかな。お札だらけ」
父さんに言われて前の黒い車を見てみた。黄色いお札のステッカーが大量にペタペタ貼ってある。
怖ぇなおい!
「あれ、ホントに呪われてない? ぼろっぼろの服着た幽霊とりついてない? ほら、屋根の上」
……居たー。姉ちゃんに言われて気が付いた。屋根の上、腰から上だけ突き出た格好で酒喰らってる。
「あっ! 純が来た」
『えっ!?』
ホントだ。屋根の上の幽霊に何か話しかけてる。けど、幽霊の方は手振りを見る限りそれを遮ったか? 兄ちゃんに座るよう促して、素直に座った兄ちゃんにお猪口出して酒を注ぐ。……家か! 自分家か! そこ、車の上だからな!? しかも走行中の!
「あら~、親の前でお酒飲もうなんていい度胸じゃな~い」
「お母さん、純兄まだ一口も飲んでないよ」
「いいなー、酒」
「お父さん!? 飲酒運転は駄目だよ」
姉ちゃん、父さんは『いいなー』っつっただけで飲もうとすらしてねぇよ。
兄ちゃんはどうしたかな……あ、酒の瓶ひっくり返して、中身全部ぶちまけてる。怒って何か怒鳴ってる幽霊の頭を空になった瓶で殴って……って、酷ぇなおい。
さらに支持出して、幽霊はどっかに行った。……あれ、お札効果無し?
幽霊はすぐに戻って来て、兄ちゃんに何か渡す。
「あ~! アイス~! いいな~」
パ○コいいなー。
「ちゃっかりしてるなあ」
開封してそれを食いながら幽霊とちょっとだけ会話して、二人そろってこっちに向かって跳んで来た!? そのままどっかに去ってった。
「ちゃんと仕事してるみたいね~」
「安心安心」
いや、なんか安心しちゃダメな行動してなかったか? 酒瓶で人……もとい幽霊殴ってただろ? パシってアイス持ってこさせたりしてただろ? どこがちゃんと仕事してる!? どこが安心!?
「あ~! 見てみて~! 空を一反木綿が飛んでるよ~!」
「あら、こんな真昼間から~?」
どこだどこだ? っつーか、今日やたら幽霊だのお化けだの見るな。
「……光~、アレはシーツって言うのよ~」
「あはは~、間違えた~」
一反木綿とシーツ。
……いや、長さ全然違うだろ!




