18 畑にて
「……誰だー、今日寒いって言ったの!」
「朝は寒かっただろ、忍?」
「しーちゃん、今は? 今暑いもん」
動いてるせいでもなくてか。
岳だ。
なっくん家の怖い母さん、秋ちゃんに連れられて、ボランティアで畑を耕してる。毎年五年生がトマトとかキュウリとかの野菜植えるんだ。その準備。今年は光もやるんだっけか。
人手不足だから-って、海中兄妹はもちろん、俺と姉ちゃん、光に、他のボランティアの人んトコの子達、小学校も違って、全く関係ねぇのに姉ちゃんの友達も一人巻き込まれてる。まぁ、姉ちゃんの友達のしーちゃんこと篠ちゃんは、高校が農業する科になったらしいから、こういうの好きらしいけど。
ちなみに、俺も修也、翔、奈那子さんの三人巻き込んだ。こいつ等は好きでもなく嫌いでもなく、ある意味遊びの一環として? やってるけどな。
「落ちてる土を盛り上げるの、肥料の上からでいいからね。耕すのは耕運機がやってくれるから」
『はーい』
…………あ、ミミズ。スコップやくわに気ぃ付けろよー。千切れんぞ。
「しーちゃん、ミミズ居た」
ん? 姉ちゃん達んトコにもか。
「土ん中に戻しとけば」
「いや、千切れてる」
……あっちはすでに千切れた後。おーいミミズー、ホント気ぃ付けろよ。
「……土ん中に戻しとけってば。肥料肥料」
南無阿弥陀仏。
「あ、しーちゃん」
「今度は何!」
「ゴキ」
「潰しとけ!」
ゴキブリには容赦ねぇのな!
「あーい。おーいゴキ、こっちこーい」
姉ちゃんも従うのかよ!
「あ、アレの前に置いといたらいい肥料になるかな?」
スコップに入れたゴキを耕運機の前に。
「おい岳、サボってんじゃねぇーぞっ」
「なっくんもな!」
俺に土かけんじゃねぇよ! 肥料の上にかけろ!
やられたらやり返せ。兄ちゃんと、ここに引っ越す前は近所に住んでた幼馴染、皐月姉の言葉!
「あ、やったなコラ」
「夏!」
「はぁい」
……流石秋ちゃん。なっくんがあっさり戻ってった。
「夏の弱点はお母さんか」
ふむふむって。しーちゃん、何頷いてんだよ。
「何に悪用するつもりだ!」
「悪用って決めつけんな笑い上戸!」
イラついたからってスコップ振り上げんな!
「危ねぇなぁ、おい。当たったらどうするんだよ」
「当てないよ」
と言うか、なっくんなら避けれるなり受けるなり出来るんじゃね。
「岳、テニスボール拾ったー」
ん? 翔がすげぇ汚れた黄緑色のテニスボール持ってきた。
「何処で拾ったんだよ?」
「あっち」
「せめて指差すくらいしろよ! 分かるか!」
「畑の奥」
ふーん……。あれ、なんで修也と奈那子さんも来てるんだ? 作業どこ行ったよ。
「埋めとけ」
「えぇええ!? 畑に!?」
「それ埋めたところの上に植えた植物にな、テニスボールの形した実が生るんだよ」
「へぇっ!」「すっごぉい!」
おい翔、奈那子さん、反応が明らか間違ってんぞ!
「ンなわけねぇだろ!」
修也が叩いた。……こいつが居て良かったー。いや、今なら本気で思えるわ。
「悪かったな、翔、奈那子さん、お前等がそこまで馬鹿だとは……」
『冗談だよ!』
怒鳴られた。
「ほんとかぁ?」
「なんだよその疑わしげな目! 岳の冗談に乗っかったんじゃないか!」
「そうだよ! テニスボールの上に植えたからって、なんでテニスボールの実が生るのっ!」
そうかよ。それならよかった。
「岳、何その残念そうな顔」
「思ったよりは賢いんだなって」
「岳くんの中であたし達はどれだけ馬鹿なの!?」
冗談だ。
「でも、テニスボールの実があったらどんな味なんだろうなー」
翔がなんか考え始めたから、さっさと終わらせるべく教えてやろう。
「すげぇ旨いぜ」
もちろん俺も知らねぇけどさ。
「ほんと? どんな味だろ」
「トマトとキュウリとカボチャを合わせたような味だ」
……一瞬の沈黙。
『不味そー』
俺も思ったよ。俺も言ったよ!
「好きなモン合わせたからって旨ぇモンにはなんないだろ」
修也、その馬鹿にしたような目やめろ。適当に言ったらこうなったんだよ!
「俺、別にキュウリもカボチャも好きじゃねぇんだけど」
トマトは好きだけどな。
えぇ……っとな。
「きっとなぁ、触感はキュウリで、中の汁の味はトマトで、果肉部分の味はカボチャだ」
「結局美味しそうじゃないんだけどー」
るっせーな、奈那子さん。
「カボチャは生で食わねぇもんな。天ぷらにすれば……」
「あ、それならおいしそう」
食感はキュウリだけどな。加熱したらぐにってなるか? ひょっとして。
……何で俺は『テニスボールの実はどんな味がするか』について考察してるんだ。




