12 だってエイプリルフールだもん
「岳、2+7って答え何だっけ?」
「……修也、奈那子さん。馬鹿を治す薬ってあると思うか?」
翔が馬鹿になった。
……うーんと、前からちょっと馬鹿だったけど、さらに馬鹿になった。
「あ……」
「無いだろ」
「無いと思うなっ!」
奈那子さん、一々修也に合わせるの止めろよ。この四人で多数決したら、ほぼ確実に修也の意見が通っちまうだろうが。やったことねぇけど。
岳だ。
俺ん家のリビングに、修也と翔、奈那子さんが集まってる。そして翔が小学一年生でも解ける問題の答えを聞いてきた。
「何だよー、その冷たいリアクション。今日何の日か分かってる?」
今日? 四月一日だろー。
「姉ちゃんの誕生日だ」
だから、光が今台所を占領して何かお菓子作ってるわけで。
「あ、そうなの……って、去年もそう言って、俺の言って欲しい答え言ってくれなかったよな!」
「2+7も解けない馬鹿なのに去年の事は覚えてんのか!」
びっくりだぜー。確かに言ってた。一昨年も言ってた。三年前も言ってた。四年前はまだ友達じゃなった。
「やめてくんない、馬鹿って言うの!」
「馬鹿に馬鹿って言ってなにが悪い!」
「余計に馬鹿になるでしょ!」
……『余計に』ってことは、今馬鹿だという事は認めるんだな?
「二人とも、喧嘩はダメだよ!」
「違うぜ、奈那子さん。これはな、『言い争い』って言うんだ。喧嘩じゃねぇ」
「そっか! じゃあダメじゃないんだね!」
自分で言っといてなんだけど、信じるなよ! 喧嘩じゃなきゃいいのかよ!
「奈那子……言い方変えただけで、やってる事は同じだからな」
「え、あ、そうなの? えぇと、じゃあやっぱりダメ!」
修也ぁ、なんで言うんだよ!
「で、もう一回聞くよ、今日は何の日?」
「姉ちゃ……」
「忍ちゃんの誕生日は無し!」
はいはい、そこまで必死にならなくてもちゃんと言ってやんよ。
「馬鹿が大量発生する日だろ」
「何その言い方!?」
こないだ立ち読みした本でちらっと見かけた。
「エイプリルフールって言えよ」
あのな修也。俺は今、翔の言って欲しい通りに言うの、なんか嫌だったんだ。特に理由はねぇけどな!
「そうだよ、四月馬鹿!」
もう何が言いたいのは分かった。こっち見てこなくても茶々入れないでやるよ。はい、どうぞ。
「四月馬鹿だから、馬鹿になった!」
……………………だろうと思った!
ん? 階段から音が。姉ちゃんかな。
トトトって軽やかな足音が、急にドタッつって、ドドッつって、ドドドガガガッ! は!?
家の階段は急だから、滑り落ちるのはたまにあるけど……そんな音じゃなかったよなぁ。
あ、修也が先に階段の方行った。リビングの扉開けて、左側。
「忍さん!? 大丈夫ですか?」
やっぱ姉ちゃんか……。
「ぃいったぁー! 階段気をつけてよ? 転げ落ちると痛いからね?」
転げ落ちたのかよ!
『気をつけてよ?』は、お前が言うなって感じだけど、『痛いからね?』はすげぇ説得力が……。
「手ぇなんかもう、焼けそう」
手すり掴んだせいか。摩擦で……。俺もやったことある。
「で、足の薬指挫いた」
器用だな!? 小指や親指ならともかく、なんで薬指だけ挫けるんだ!?
「うんうん、いくらね、できるからってダッシュで下りちゃいけないよねぇ」
姉ちゃんがゆっくり歩いて階段下りる所、家ではめったにねぇけどな。俺もだけど。
「……とりあえず、部屋入ろうか。わざわざ来てくれてありがとうだけど」
扉から顔覗かせてた翔と奈那子さんをリビングに押し込みながら、俺等も入る。
あ、そうだ。ちょっと姉ちゃんにも聞きたかったんだ。
「姉ちゃん、馬鹿を治す薬ってあると思うか?」
「ん? なんで?」
翔がなんか、『またそれ!?』とか言ってるけど気にしない。
「翔がさぁ、四月馬鹿だから馬鹿になったーとか言うんだよ」
「ふーん。ま、宇宙は広いから」
どっかにあるかもしれねぇと?
「無いかもね」
前後の文が繋がってねぇよ! なんで『宇宙は広いから』に『無いかもね』って続くんだよ!?
「あぁでも、異世界ってのはあるから」
『結局、無いかもねぇ』って続くんだろ。
「どっかの世界にゃあるかもね」
この天邪鬼がぁ!
「という、エイプリルフールの嘘でした」
ややこしいし。何処が嘘なのか分かんねぇよ。
「結局ねー、ここで考えたって、無いものは無いし、あるものはあるんでしょ」
思うかどうか聞いただけなんだけどな。
「という訳で、翔、探しといで」
「えぇ!? 俺!?」
「だってアンタに必要なんでしょ? 自分で探すのが普通でしょー。見つけたら教えてね」
要するに、あるのかどうか知りたいだけだな。
……いや、単に翔をいじめてるだけか?




