11 お寿司だお寿司だ?
「わ~い、お寿司~!」
「……なんで小声なんだよ」
「大声で言うの恥ずかしいじゃ~ん。子供みた~い」
小学生は子供だろー。電車だって子供料金じゃん。
岳だー。
寿司屋のテーブル席に座って、さー何取ろうって流れていく寿司を眺めてる。
『寿司が食べたい』って言ったら、意外にも『じゃあ行こうか』って流れになって今に至った。さー何食おう。全皿百円! 税抜きで。だから全皿百五円。
「岳お兄ちゃんもマグロ欲しい~?」
「ん。欲しい」
「じゃあ三皿~っと」
タッチパネルで注文。始めてコレみた時、光と姉ちゃんと俺で誰がタッチパネル操作するか揉めた。で、兄ちゃんに軽くはたかれて、冷たい表情で簡潔に叱られた。すげぇ怖かった……。母さんは笑って見てた。父さんはかっぱ巻食べてた。よく覚えてるな俺。
「あ、かっぱ巻~。食べる~」
「はい」
「ありがと~、お姉ちゃん」
……光、なんでかっぱ巻を両手で持って食べるんだ? リスか? ……本物を生で見たことはねぇけど、すげぇ似てる。はもはもはもはも。
俺何食おうかな……。注文してから来るまで時間かかるしなー。と、思った前で姉ちゃんが注文した納豆巻来てるけどさ。
かっぱ巻がまた流れて来たけど、キュウリは好かん。鉄火巻……マグロ頼んだし。納豆巻はなんか気分じゃねぇ。……っつか、なんでさっきから『~巻』ばっかりなんだよ。次は……あ、『注文の品』って書かれてた。でも音は鳴ってねぇから俺等んトコのじゃねぇな。って、あれ?
「ネタ乗ってねぇ!」
「え? うわ、ホントだ」
「ご飯だけだ~」
シャリな。
『なんで?』
俺に聞くな!
「きっと誰かがご飯だけ欲しくて注文したんだね~」
誰がだよ。
「いや、誰かが刺身だけ取ったのかも」
刺身……。
「注文した人どうしたのかな~」
「スルーしたでしょ。『頼んでない頼んでない頼んでない……』って。あ」
俺等の頼んだのが来た。マグロマグロ……ってぇ!
「今度は刺身かよ!」
ネタだけかよ!
「……ひょっとしてさー。さっき流れてきた奴、家のだったんじゃ」
「いやいやいやいや、違うだろ……。あ、おい光! 取るな!」
寿司じゃねぇのに百五円取られる!
「うぅ~。注文し直し~?」
「大丈夫。来たよ、マグロ軍団」
おぉ。姉ちゃんの言った通りだ。マグロが一皿二皿三皿四皿……ってぇ、何皿来るんだよ!?
「お兄ちゃ~ん、私のも取って~。二皿ね~」
え? さっき注文した三皿の内、二皿は光のだったのか!? 父さんか母さんが食べるのかと……。
「あ、岳~、お母さんの海老取ってくれる~?」
はいはい、母さんの海老? あぁ、流れてきた『注文の品』? ……いつ注文したんだ!?
「あ、父さんのツナマヨもー」
邪道だ。父さん好きだなぁ、マヨネーズ。俺はあんまり好きじゃねぇんだけど。
とりあえず、鮪食おう。……うん、フッツーの回転ずしの味だ。
「……あ」
「ん? どうした、光?」
またネタだけシャリだけで流れてきたかー?
……見てみた。ちゃんとネタもシャリもあった。ただし、ネタの上にシャリが乗ってた。
「大丈夫かここ!?」
「岳、そう言ってあげないのー。それ言うならさ、『大丈夫かここの店員さん』でしょ?」
いや、『でしょ?』って言われてもな……。『そう言ってあげないのー』そのまま返してやんよ。
「あれ、また変なの流れてきたよ!?」
「ん?」
姉ちゃんの言った方。ちゃんとネタもシャリもあって、シャリの上にネタが乗ってた。
ただし! こんどは皿がねぇ!
「誰も取らねぇよ!」
「いやいや~、お勘定に入らないよぉ~……取っちゃえ~!」
「光、お前食えよ!?」
「やっぱり取るなぁ~」
自分で食うの嫌なのかよ! じゃあ勧めんな!
流れて行くのを横目で見つつ、今度はホタテを。光にもっかいかっぱ巻を。……マグロとかっぱ巻以外も食えよ。
姉ちゃんはネギトロを取ろうかどうしようか迷ってるうちに、ネギトロが取れない所へ。
「あ……」
がっかりすんなら取っとけよ!
「……見てみて~、注文のお皿に注文のお皿が乗ってる~」
そりゃ、皿なんだから重ねられるだろ。気になるから光の言った方を見てみたら。
『注文の品』の皿の上に、もう一個のそれが、逆様に置いてあった。つまり、味噌汁とかのお椀で、蓋が付いてる奴みたいに。
「凄いね~」
いや光、感心するとこか?
「きっと場所が無かったんだよ」
左右ぎっちり詰まってるもんな。いや、だからってなんでこんな重ね方?
「……なんかさ、今更こんなの見ても驚けないよねー」
「そうだね~。お姉ちゃんに同じ~」
あぁ、俺も同じ。
………………麻痺してねぇか?




