102 旅中の旅立ち
「魔王はさっき勇者が倒してしもうた」
えー。ちゃんと用意しといてよ、魔王くらい。ゲームなんでしょ?
「そーゆーわけで、おぬしらには別の場所へと何かを倒しに行ってもらおう」
何かってなんだよ。ちゃんと依頼してよ。何そのアバウトすぎるお願い。
「魔法使い、チョコトースト!」
美味しそうな名前だね。食べてもいいですか。
忍です。
なんかもう滅茶苦茶だね、この世界。
ジト目で王様見てるうちに、チョコトーストの魔法でどこかに飛ばされるあたし達でしたとさ。
「全然ちげぇ」
「うん、ゲームの世界の中でも、『迷いの森』とか何とかそんな名前が付いてそうな場所だね」
王宮とはえらい違い。
「そうじゃねぇ。前来た時と全くちゃうっつってんでぃ!」
「そうなんだ~。ところでレィちゃんは何処に行ったの~?」
王宮に入った時点ですでに居なくなってたと思うけど。補助精霊のくせに。薄情者ー。
「ひっ! 魔物よー! 魔物が出たわー!」
ちょっと待て少女A。律儀に村へ教えに行かんでいいから、ちょっと待て。
「おい、魔物も何も、魔王は失せたんじゃねぇのか」
ちょっと待て龍城さん。丸腰の少女に大剣を突きつける勇者が居るか。
「キャァアアアア!」
ほら、少女Aが悲鳴あげちゃったでしょ。森全体に響きそうな声出しちゃったでしょ。
「なんだ!?」
「どうした!?」
ほら、何か屈強な男たち出てきちゃったでしょ。
「ぶち来よる。なんで?」
龍城さん、アンタの右手に握られたモノと、それを突きつけられてるモノをよく見なさい。そしたら分かるから。
『野生の猟師が現れた!』
野生ってなんだ。野生以外の猟師が居るのか。でもって何なんだ今の言葉は。
「よっしゃ、行くぜ!」
あぁ、完全にこっちが魔物だな。明らかにこっちが魔物だな。どっからどう見ても……くどい?
「うわぁあああ!」
『タツキのスペシャルグレートカット!』
名前ダサい。言っちゃ駄目?
『野生の猟師に989のダメージ! 野生の猟師は倒れた!』
あ、終わっちゃった。
「おい、金よこしな。襲ってきたんそっちじゃけぇ、文句ねぇだろ」
間違いないな、魔物こっち。
『タツキのカツアゲ!』
マンマっすね。何このショボそうな技名。さっきのと全然違くない?
『野生の領主の財布に1689のダメージ! 野生の猟師は倒れた!』
さっきから倒れてましたけど。
『野生の猟師はもう立ち上がれない』
可哀そうな事言ってやんなよ。
『野生の猟師はもう動けない』
やかましい。
『回復薬を使いますか?』
持ってない。ってか、なんで敵を回復させにゃならんのだ。
『警戒警報! 魔王が近付いて来ています!』
警戒警報出してくれるの? 親切だね。でもって魔王居るんだ。
『魔王と側近が現れた!』
……魔王、凄い神聖的な感じなんだけど。大天使みたいなんだけど。薄ら光放ってるんだけど。頭に天使の輪付いてるんだけど。
「誰が側近だ、おい」
「お主らに決まっておろう」
「絶対嫌だな。何があってもなりたくねぇな」
あれ? タドだ。
「あれ、なんでシルとヒアと龍城さんが?」
「家は暇だったんだ」
「大いに納得。龍城さんは?」
「ゲイム界行く言いよったけん、付いて来た」
「ジンに怒られんぞ」
「純かぁ……よし、こんどは逃げてやらぁ!」
龍城さん、燃えるところ間違ってる。
でもって、ホントに逃げ出すな。
『タツキが逃げ出した!』
分かってるよ! お前ちょっと黙っとけ!
『レィは黙らない』
解説してるのレィだったの!?
『シヴィルの賢さが2上がった』
やかましい!
「……どうする~?」
「ってか、あたし等変える方法分かんなくなったよね。急に飛ばされるから」
あの爺共め。
「ま、その内ジンが来るだろ。俺がここに居るの知ってっし。ちょっと仕事に行っただけだから」
「ね~、なんで私達置いてったの~? 酷くない~?」
「んあ? あー、ノリで来たからなぁ。学校途中で抜け出してさ。……あ」
あ?
「やっべ、学校サボりっぱなしだ」
「何を今更~」
「よし、俺決めた。もう帰らね。先祖のマネして、入試の時まで旅してよ」
何気に完璧主義だね。ちょっと学校サボったからって。
『タラッドは決心をした!』
「あたしもそうしよ」
もっと前からこうしてりゃよかった。家に居ても暇なんだから。霊界にはちょくちょく行ってたけど。
『シヴィルは決心をした!』
無視だ、反応するな。
『ヒルデガートは迷っている』
ん?
「どしたの?」
「旅はしたいし~、でもひーちゃんみーちゃんはーちゃんと別れたくないし~」
「……会おうと思ったらいつでも会いに行けるくない?」
「そうだね~!」
『シヴィルは正論(?)を放った!
ヒルデガートは決心をした!』
ちょっとまて、正論(?)って何?
『ヒルデガートの単純がレベルアップ! 超単純になった!』
他人の妹に向かって失礼な。
『ヒルデガートはすねた』
アンタのせいだろ!
「気にすんなって」
「むぅ~」
『ヒルデガートはすねている』
もういい。疲れる。
『魔王はすねている。
魔王のいじけがレベルアップ! いじけ+になった!』
へ?
「ブツブツブツブツ……」
魔王いじけてる! しゃがみこんで『の』の字書いてる!? 魔王形無し。天使ルックも台無し。
『どうしますか?
怒る
泣く
すねる
放置』
なんで『慰める』とか『なだめる』とか無いの?
『ジャイズンが現れた!
ジャイズンの振り落とし! 魔王に21984のダメージ!』
あ、我らが兄さんの金棒が魔王の頭の上に。
『魔王は倒れた』
あくまで倒れるだけなのね。しっかり息はしてるのね。
「何してるんだ?」
「遊びに来てみたら、ばったり会った」
「ふぅん」
『魔王はつつかれている』
「ヒア、やめとけ。きたねぇぞ」
『魔王の精神に99999のダメージ! 魔王の心が折れた!』
……もう何もつっこまない。
「ジン、ジン、あのさ、このままずっと旅してるのって、アリ?」
「ん? アリだけど。帰らなくていいのか?」
「ぶっちゃけこっちの方が楽しいし」
「あたしもー」
「私も~!」
『皆の心が一つになった!
パーティーのレベルが上がった! パーティーになった!』
何も変わって無いし。
「じゃあ、適当にぶらぶらするか」
『ジャイズンは少し嬉しい』
へーえ。
「…………」
『ジャイズンはレィを無視した! ジャイズンの無視はもう上がらない』
アンタどんだけ無視してきたんだ。
『ヒルデガートは楽しんでいる。ジャイズンの頭を振り回す攻撃!』
頭を手でがしっと掴んで、ぐるんぐるんぐるんぐるんと振り回す状態。荒すぎるなでなでととっても多分良し。
「痛い痛い痛い痛い~」
『タラッドは天使の輪を手に入れた!』
え?
「何か引っ張ってみたら取れた」
……魔王の頭の上に付いてたアレね。取れるんだ。
「街に行って売ろう。レアだから、大分高く売れるぞ」
『ジャイズンのがめつさはもう上がらない』
いつ終わるのコレ。
『パーティーは旅立った』
無理やりにでも話進めたいだけだろ、レィ?