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ただいま迷走中!?  作者: 呪理阿
三月 春休みからもう迷走
10/102

10 妖怪なんか怖くない

「山行かない? 暇だし」

 ……と、言う姉ちゃんの言葉で、姉ちゃんと光、俺は近所の山に登っている。

 別に大したのじゃねぇよ? 何回も登った山だし、手ぶらだし。……水くらい持ってけ? 荷物持つのが嫌なんだよ。

 岳だ。

 俺等が登ってるのは、どこの裏なのかは分からないのに裏山と呼ばれている山、連草山れんそうざん

 ハイキングコースなんてのもあるけど、俺等兄弟は基本的に獣道から上ってる。この道が一番近いんだよ。多少危険だけど。

 この道を通れば、早くて二十分で頂上まで行ける。問題は、細い道から足を踏み外したら、真っ逆様……ではないにしろ落っこちて怪我する事、山を下りるときに足を捻りやすい事の二つだな。気を付ければなんてこと無い。

「さー、休憩しよう」

「は~い」

 元々暇つぶしできたんだから、時間かけて登ろう。そういう訳で、これが登り始めて五回目の休憩。場所としては、三分の一あたりか?

「あっこ、座るのに丁度いい木があるよ」

 切られたのか折れたのか、長い木が横たわってたから、そこに三人並んで腰掛ける。

 俺が真ん中。姉ちゃんは俺の左側……頂上側。光は俺の右、あれ?

「早く来いよ、光ー」

「んしょ、来た~」

 ……わざわざでっかい木の裏を回ってくる必要はあったのか?

 ん? でっかい木の裏に、光より少し低い程度の灰色のモノが……。目ぇ悪いからイマイチよくわかんねぇけど。

「光、その灰色の何?」

「へ? キャァアアア~! 一つ目子ぞぉ~!」

「失礼な! 俺ぁ一つ目じゃなけりゃあ小僧でもねぇ! 食うぞ小娘! いや、元から食うつもりだったけどな!」

 ノリ突っ込み!? ……あ、突っ込むところここじゃねぇか。食うな!

「来るなぁ~! 食うなぁ~!」

 光が左膝を上げて……前蹴り!

「痛っ!」

 さらに左手で突き!

「あちっ!?」

 さらに右手でも突き!

「けぽっ!」

 右足による横蹴りでフィニッシュ!

「ぐぁっ」

「お姉ちゃぁ~ん! お兄ちゃぁ~ん!」

 ……光、お前も怖かっただろうけどさ、俺はあの灰色のお化けの方がもっと怖かったと思うな……。倒れ伏してんじゃん。

「んー……と、お見事? お疲れ様? 手加減してあげようよ?」

 姉ちゃん、全部言ってやれ。

「テメー等……終いにゃ怒るぞ!」

「もう怒ってんじゃん。……あの、声のボリューム少し下げてくれない?」

 ……五月蝿ぇもんなぁ。どっから出てるんだ、この声。山中に響いてんじゃねぇのか。耳ふさいだくらいじゃ全然意味ねぇ。

「ふん、俺の大声に勝てるか? 銃声に頼るんじゃねぇぞ。大声比べを……」

「勘弁してよ。鼓膜が破れる」

「そうだろう、そうだろう。俺の大声に何人が鼓膜を破られたか!」

「そんな大声に勝てるようなの、人間が出せるわけないでしょうがぁ!」

 そーだそーだー。姉ちゃんの言うとおり。

「……ねえ~、私さっき襲われたんだけど~」

『私が襲った』の間違いじゃねぇか? 少なくともあちらさんは何もしてなかったぜ。『食う』って言っただけだ。

 えぇと、二メートルくらい離れた所から一っ跳びで来た、小さい灰色の爺さん。足は一本しかなくて、目もでっかいのが一個。……あれ、よく見たら小さい目がもう一個? あぁ、一つ目じゃないって言ってたもんな。

 なんだっけ、こんな妖怪、こないだパソコンで見かけたんだけど……。あ。

「山爺だ!」

「お、こっちの小僧はよぉく分かってんじゃぁねぇか」

 満足そうだな。

「そりゃぁな!」

 あれ? 今俺、声に出してねぇのに、なんで返事が帰って来るんだ?

「俺ぁ人の心が読めるのさ」

 腕組んで、『えへん』と胸を張る。張りすぎて後ろにこけるか? ……こけなかった。

「何を期待しとるんだ、テメーは」

 教育番組のアニメで見かけた、胸張ったせいで後ろにひっくり返ってこけるマヌケを期待してた。

「ねーねー、人の心読めるんならさ、あたし今何考えてるか当てて」

 楽しんでんなー、姉ちゃん。

「家の鍵閉めてきたっけ」

「おぉー! 当たった。で、ホント、閉めてきたっけ?」

 …………忘れたのかよ!

「えぇ~、私、お姉ちゃん達が出てくる前にさっさと出ちゃったから~」

「自信ねぇ。ちょっと待って、今思い出す」

 俺の目には録画昨日が付いてるんだ! なんてな。えぇっと……。

「ロクガキノウってなんだ。ロクが昨日どうしたんだ?」

「人の心勝手に読んで勝手にお話作ってんじゃねぇよ!」

 スパーン。と、平手打ち。

「いってぇ!」

 よし。えぇっとー、出る前に鍵……。

「あ、そういえば閉めたや」「閉めてたぜ」

 ……人に聞いといて思い出すなよなー。

「ね、もっかいやって」

 何考えてるかー、か?

「ヒカリもタケルもコレ殴ったのに、あたしだけまだ殴ってないよなー……ってぇ、『コレ』ってのぁ俺のことか!?」

「ピンポン」

 ドスっと一発。

「ぐぁっ」

 ……哀れだな、山爺。

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