伯爵家の人々
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セラーレ伯爵家の人間は、明るい色彩を持つ人間の多いこの王国の貴族の中では少数派の黒目黒髪の人間ばかりだ。
時偶、セラーレの家名を名乗ってはいても、明るい色彩を持つ人間がいれば「ああ、この人はセラーレの家に嫁いだ(あるいは婿入りした)のだな」と即座にバレる程、セラーレの血を引く者は黒目黒髪を持って生まれて来た。
そして伯爵家の者達も少数派である自らの暗い色彩を貶める事はせず、寧ろ黒目黒髪で生まれて来た事に誇りを持つ。
その誇りは、セラーレの者が成人する際、一族の者から認められれば『黒』を冠した自らの“名”を堂々と名乗る事を許されるという事例からも明らかだった。
* * * *
「――――少々、お時間を頂けますか? お父様、お兄様」
一家団欒の時間。
夕餉の席で、エステルは銀の匙を置くと、目の前で優雅に食後のパンナコッタに舌鼓を打つ家族達へと声をかけた。
「なんだい、エステル? 何を改まっているんだい?」
目を細め、柔和な微笑みで答えたのは次期当主であるエステルの兄・イサク。
伯爵家の証とも言える黒髪を白のリボンで後ろに括り、朔の夜を思わせる黒い瞳の青年である。
「まぁまぁ。その話にお母様は必要ないのかしらん?」
おっとりと、息子そっくりな優し気な微笑みを浮かべ、悲しそうに頬に手を当てたのはエステルの母であり、伯爵夫人であるマリア。
華やかに結い上げられた赤茶色の髪に深い翠玉の瞳。
彼女は他所からセラーレ伯爵家に嫁いで来たため、その身に黒を宿していない。
「…………それで? 何の用だ、我が娘よ」
重厚な響きを宿すゆったりとした抑揚の声で応じたのは、伯爵家当主であり、父のアベル。
切れ長の少々吊り上がり気味の漆黒の瞳は真っ直ぐに、娘の姿を映していた。
「申し訳ありません、お母様。今回の事は『黒』に関わる事でして」
「あら。それなら仕方ないわね」
軽く頭を下げて謝罪した娘に、母は目を何度も瞬かせる。
同時にそれを聞いた兄と父親が、揃って視線を険しくした。
「――――心意気は立派だけどね。お前にはまだ、早いのでは?」
「イサクの言う通りだ。――すまん、マリア。少し下がってはくれないか?」
「もう。折角面白くなって来たというのに。こういう時、いっつも私は仲間はずれなのだから」
口では不満を口にしながらも、マリアは逆らう事無く召使い達を連れて部屋から退出する。
母が出て行き、自分達の他には誰もいなくなった室内で、再びエステルが口を開いた。
「親友のサラが面白い話を持って来てくれましたの。聞いて頂けます? お父様、お兄様?」
「ふぅん。サラちゃんがねぇ……。ボクの想像通りなら、中々愉快な事になりそうだね」
「そうだな。話してみると良い、エステル」
――――エステルの言葉に、兄は口角を持ち上げ、父は獰猛に笑ってみせた。
お気づきの方はおられるでしょうか?
実はこの作品の登場人物の名前は、とある書物に登場する人物から取られています。