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黒猫令嬢の気まぐれ  作者: 鈍色満月
玉の輿のその実態
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選択肢は……?

 背の半ばまでのある長さの、艶めく濡れ羽色の髪。

 煙る様な長い睫毛に覆われた、晴れ渡った夜空の色の瞳。

 何処か神秘的で気怠気な雰囲気を纏い、周囲を困惑させる事の多い彼女は『黒猫令嬢』と囁かれる。

 ――――それがエステル・セラーレである。


* * * *


「……つまり、これまでの話を纏めると、あんたは昨夜の舞踏会でこの国の王子に求婚された。それも第二王子に――王太子の方に」


 この王国には二人の王子がいて、次の国王は兄王子ではなく弟王子に譲られる事が決まっている。

 何故、兄王子の方ではなく弟の方に王位が譲られるのかについては王子達の母親の身分やら何やらと、色々と複雑な事情があるので今回は割愛しておく。


「取り敢えず、舞踏会の返事自体は保留という事で先延ばしにする事が出来たのだが、近いうちに返事をしなければならないという事実は変わらない、と」

「うん、うん。そうなの」


 ふわ、と小さな欠伸をした後、眠そうな眼差しでエステルはサラを見つめる。

 寝間着から普段着に着替えたというのに、彼女の纏う眠そうな雰囲気は変わらない。


「今後のあんたの選択肢を述べるわよ。一つ、このまま王子の求婚を受け入れ、見事王太子妃と言う玉の輿に乗る」

「それだけは絶対に嫌!」


 ぶるぶる、と高速で首を振るサラにエステルが面倒くさそうな表情になる。

 『金の妖精姫』なんて、彼女が外向き用に作った分厚い猫の皮であるとよく解る姿だ。


「二つ、玉砕覚悟で王子の求婚を断り、国中から総スカンをくらう」

「それも嫌!」

「わがままだね、サラ」

「そういう問題じゃない!」


 基本的に、身分が下の者が上の者(この場合は王子)の要求を断る事は、その要求の内容がよっぽどの物でない限り誉められる行為ではない。


「まぁ、そんな事したら後々大変な事になるよね。なら、三つ目。邪道としてはこの上無く邪道だけど、王太子に不慮の事故か何かに遭ってもらって表舞台から退場してもらう」

「邪道過ぎるわ! それって要するに、こう! 言う事じゃないの!」


 こう! のところで、くいっと右手の親指で自身の首をかき切る仕草をしてみせたサラに、エステルは舌打する。


「……普通の貴族のお嬢様はそんな仕草知らないのに」

「うるさい! どうせ『妖精姫』なんて他人が勝手に作った幻想よ!」


 春の空と同じ色の瞳が見る見る内に涙で潤む。

 社交界での彼女の姿しか知らない者達が、今の彼女の姿を目にしたら目を剥く事間違い無しだ。

 誰が知っているだろうか。「可憐」だの「儚い」だの言われているサラ・フィオーレが、とある一人のためだけに作られたサラ自身の努力の結果であると。


「私が『金の妖精姫』とか恥ずかしい渾名で呼ばれるまで、淑女として努力したのは少しでも“あの人”の側に立っても相応しい相手になるためなのよ! それなのに、それなのに“あの人”でもない相手に、例え王子様だからって求婚されたって全然嬉しくないっ!!」

「あ。恥ずかしいとか思ってたんだ」

「当たり前よ! 自分が妖精とかいうキャラじゃないのは私が一番知っているものっ!!」


 その台詞は、この場所が入念に人払いされた場所であるからこそサラが言える本音だろう。

 儚さとかそう言った物が綺麗に消え失せた表情でサラが唸る様に呟く。


「私としてはなんであんたがそこまでアレに夢中になれるのかが知りたい所だけど……。いっその事、思い切ってアレに告白でも何でもしてみれば? もしかしたら駆け落ちでもしてくれるかもよ?」

「……そんな事、出来ないわよ。お父様やお母様に迷惑になる上に、私にはそれほどの力はないもの……」


 選択肢四は、ロマンチックでこそあるが、現実的に考えても実現不可能だ。

 生まれた時からかしずかれて生きて来た貴族の令嬢が、それまでの生活を捨てて庶民の暮らしに馴染める筈が無い。それこそ、よっぽど特殊な環境下で育っていない限り。

 サラは強いが、そう言った逞しさとは無縁な娘であると知っているからこそ、エステルはそれ以上何も言わなかった。


「ならこれしかないね。――王子の方から、今回の件は断ってもらう」


 涙で濡れた春の空の瞳が、不思議そうに瞬いた。

サラ嬢は努力の人。

ほんとは『妖精姫』とかいうキャラじゃない。

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