贈り物、そして…
更新遅くなりました。
もうちょい早くに更新したかったんですけど……
……今思い起こしても、あれは一生分の醜態だったとエステルは思っている。
あの夜会の際に起こった王太子である第二王子を狙った暗殺未遂事件。その際に矢傷を負ったサラの姿にエステルはこれ以上なく無様な姿を晒してしまった。
「……愚兄には馬鹿にされるし、最悪だ」
「どうしたの、エステル?」
安静にしておきなさいとの医師の言い付け通り、寝台の上で大人しくしてるサラが不思議そうに見上げてくるが、黙殺する。
あのとき、叔母であるエバが声をかけてくれなかったら、茫然自失のままサラの姿を見つめ続けていたことだろう。
「……叔母様には頭が上がらないわね」
「ねぇ、だから一体何の話なの?」
怪訝そうな春の空の瞳を目を合わせることなく、エステルはクッションに凭れて身を起こしているサラの腕、包帯の巻かれた左の二の腕を凝視する。
矢傷自体は大した物ではなかったが、塗られていた毒物のせいで丸一日サラは寝台の上から起き上がることが出来なかったのだ。
――つい、と指先を伸ばして包帯を優しくなぞる。
くすぐったそうにサラが肩をすくめ、春の空の瞳が瞼の奥に隠された。
「くすぐったいよ、エステル」
「…………そう」
あの後、夜会は中断とされた。
怪我をしたのは第二王子ではなかったとはいえ、狙われたのは紛れもない事実である。
サラの怪我は王子を庇って出来たため、名誉の負傷として扱われて、どうにも責任を感じている王宮側から離宮の一室を貸し出された状態で治療を受けていた。
「面倒なことになったわね……」
「――う。そ、そうね」
エステルは大きな溜め息を吐くと、寝台の上のサラが申し訳無さそうな顔になる。
それもそのはず。寝台の上のサラとその側に座っているエステルを囲む様にして、無数の花々が花瓶に生けられた状態で室内を華やかに彩っていたのだ。
「――第二王子、頭でも打ったのかしら?」
「思っても言ったらダメよ、エステル。不敬罪で牢屋に入れてしまうわ」
なにげに失礼なことを口にしているサラと同時に溜め息を吐く。
あの夜会の夜から約二日。サラが毒のせいで眠っている時からせっせと運ばれて来た無数の花々は全て第二王子からの贈り物であった。
半ば一時間に一度の割合で新しい花が送られている現状に理解が出来ず、エステルは苦い表情で額を抱える。
「サラ。かなり困った事を思いついてしまったのだけど……」
「え? やめてよ、エステル。縁起でもないわ」
――――少女達が戯れている中、控えめなノックが二人の耳に届いた。