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黒猫令嬢の気まぐれ  作者: 鈍色満月
目標は現状維持
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舞台急変

お久しぶりです。

今年もどうぞよろしくお願いします。

 王子殿下がサラにお話があると言う事。

 雰囲気と言い、態度と言い、どう考えてもエステルはお呼びではない様子なので、静かに頭を下げて一礼をすると、エステルは夜風の当たるベランダから人々の熱気と香水の匂いのこもる大広間へと戻る事にした。


「エステル……」

「大丈夫よ、サラ。散々特訓したでしょう?」


 不安そうと言うよりも、寧ろ王子と二人きりに成る事に心底厭そうなサラの耳元に囁きを落す。

 細い肩が囁きを受けて、すとん、と落ちる。


「……そうね。ありがとう」

「ええ。じゃあ、また後で。――失礼致します、王子殿下」


 一度だけ、王子の双眸が真横を通り抜けるエステルへと向けられるが、すぐに興味を失った様にサラへと戻される。

 そのまま、王子が潜めた声でサラに声をかけていたが、大広間から零される人々のざわめきに混ざって、話の内容はエステルの耳に届かなかった。


* * * *


 サラと王子の後姿を淡々とした表情で、それでいて睨む様な視線で見つめていたエステルに、官能的な響きを宿した声がかけられる。


「――本当に来ていたのね、エステルちゃん」

「叔母様?」


 振り返った先には、エステルと同じ黒髪を結わずに垂らしている髪型の、婉然とした雰囲気の美女がいた。

 艶やかな黒髪は緩やかなウェーブを描き、紅を差さずとも赤い唇は白い肌によく映える。

 長い睫毛に囲われた黒檀の瞳は、どこか妖艶な輝きを宿している。

 社交界にいる一般的な淑女や令嬢の方々とは一線を画した、体の線を強調する着る相手を選ぶ格好が何ともまた彼女に似合っていた。


「……随分と、刺激的な格好ですね。叔母様」

「うふふ。エステルちゃんもあと四、五年したら似合う様になるわよ」

「結構です」


 冷淡と言ってもいい姪っ子の言葉にも、気を悪くする事なく叔母は微笑んでいる。

 そうしてから、ちらりとその黒檀の瞳でベランダに並び立つ王子とサラの後姿を見つめた。


「懐かしいわ。あたくしの『黒』の<試練>はお姫様に結婚をさせる事だったの。状況こそ違えど、エステルちゃんの物と似ているでしょう?」

「確か、国王陛下の妹君に当たられる『銀の月姫』と言われていた方の事ですよね? 今は外つ国の王妃であられる方」

「そうよ。あたくしも、随分と苦労をしたわ」


 うふふふ、と妖笑を浮かべる彼女に、胡散臭そうな物を見る様な視線をエステルは送る。

 エステルの記憶が確かなら、彼の国に嫁いだ姫君と彼女の夫である国王はかなりの温度差カップルとして有名だ。

 王妃にべた惚れである事を隠そうとしない国王と、そんな国王を鬱陶しそうに扱う王妃。

 周辺諸国では国王の方と会う時にはとびきり苦いコーヒーを常備しておけ、と密かに囁かれている(でないと砂を吐くとか、なんとか)。


 ――そして、そんな二人の縁組みを考えたのが、目の前にいるエバ・セラーレであった事は知る人ぞ知る隠れた話である。


「『黒』にセラーレの人間は直接的な手助けを出来ないから、今回は傍観に徹するけど……」

「なんでしょう、叔母様」


 黒檀の瞳が、やけに真摯な光を宿してエステルを見つめる。

 夜空色の瞳に、叔母の姿を映しながらエステルはじっと身構えた。


「覚えておきなさい、エステルちゃん。人の心程、扱いやすく、それでいて読み取り難い物はなくてよ」

「何が言いたいのです、叔母様?」


 曖昧な内容に、エステルが眉根を寄せる。

 それに、エバは妖艶に微笑むと、扇で赤い唇を隠した。


「――――忠告よ。それではね、エステルちゃん」


 衣擦れの音を立てながら、エバはエステルの元を離れる。

 彼女がエステルの側を離れた途端、親戚同士の話の邪魔にならない様に散らばっていたエバの信奉者達が瞬く間にエバを囲む。


「……わざわざ、どうも」


 不機嫌そうに眉根を寄せながら、エステルは小さく呟くと溜め息を零す。

 そうした後、再びベランダの親友へと視線を戻して――大きく目を見張った。


* * * *


「きゃあああああぁぁぁぁあ!!」


 ベランダ近くの場所で休んでいた貴族令嬢が、絹を裂く様な悲鳴を上げる。

 突然の出来事に、大広間内で楽曲を奏でていた楽団の演奏が途切れ、不穏な空気が会場を満たす。


「誰か! 誰か来てくれ!! 医者をここに!!」


 ざわざわとした喧噪に包まれた人々へと、ベランダの方から聞こえて来た緊迫した声が届く。

 それが第二王子の声であると気付いた瞬間、エステルはヒールが許す限りの早さでベランダへと駆け寄った。


「早く医者を! それと、警備の者を!!」

「殿下、早く中へ!――急げ、遠くには行っていない筈だ!!」


 大広間の外へと揃いの衣装を着た者達が列をなして走り去って行くのに気が付いたが、それを無視する。

 ベランダの方へと近寄るに連れて、誰かが息を飲む音や気を失う令嬢の姿などが増える。

 それを避けて、ベランダを囲む様にして立ち尽くす人々の前へ出て、信じられない光景を目にした。

エバについての詳細は、短編「策士な王妃様」をご覧下さい。

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