候補の娘
国中の、とまでは行かないが大勢の貴族が集う夜会。
美しく、時に可愛らしく着飾った貴族の令嬢達の華やかな衣装に、凛々しい衣服を身に纏った麗々たる貴族子息達。
――――その中で、一際目立つ少女達の姿がある。
『ほら、あの方ですわよ。王子殿下直々に求婚なさったご令嬢というのは……』
『ほう。成る程、殿下が目をかけられたのも分かるな。中々お美しい令嬢ではないか』
『金の妖精の様とはよく言ったものだな。――おや? それで、隣の娘は……』
『黒目黒髪となると、あれはセラーレの……』
ヒソヒソと好奇心を隠さぬ多くの視線の数々が無遠慮と言われない程度に、二人の少女達を観察する。
それに金の髪に春の空の双眸を持つ少女はにこやかな笑顔で応え、黒目黒髪の少女の方は無表情で対応していた。
ややあって、王宮勤めの侍従の一人が恭しく礼を取りながらよく通る声で宴の開始を告げる。
侍従の目配せで王宮に勤める楽士達は各々得意の楽器を構え、聞く者の心を弾ませる典雅な音楽を奏で始める。
一人、また一人と親しい者同士で声をかけあい、当たり障りの無い世間話をし始める者達がいる一方で早速挨拶巡りに足を進める者達の姿もある。
――――少女達の元にも、声をかけて来た者達がいる。
「御機嫌よう、『金の妖精姫』。それともフィオーレのご令嬢と呼んだ方がよろしくて?」
「……御機嫌よう、リベカ嬢。どうぞお構いなく」
にこやかな笑み、という武装をしていたサラの顔が僅かに引き攣る。
最も、それは付き合いの長いエステルだからこそ感じ取れた変化で会ったが。
優雅に口元をレースの付いた扇で隠しながら現れたのは、縦ロールの栗毛の髪を真珠の髪飾りで留めた、サラとエステルよりも年上の少女。
背後には何人もの同じ年頃らしい貴族の令嬢をお供の様に連れていた。
サラの隣で無表情で成り行きを見守っていたエステルは、無言で脳裏を探る。
そうして思い至った情報に、器用に片眉を上げてみせた。
――――リベカ・レーニョ侯爵令嬢。
サラが第二王子に求婚される前までは国内の第二王子の婚約者候補の最有力者の一人であったはず。
くっきりとした意思の強そうな眉に、我の強そうな光を灯す灰色の瞳。
さぞ時間をかけてセットしたであろう縦ロールがくるん、と揺れている。
サラには似合わないであろう派手な色のドレスを、彼女はそれは見事に着こなしていた。
はてさて、一体何をサラに告げに来たのやら。
これから起こる出来事を表面的には無表情で、内心はドキドキしながらエステルは対峙する二人の少女を見守った。