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黒猫令嬢の気まぐれ  作者: 鈍色満月
玉の輿のその実態
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巷で噂の伯爵家

 とある大陸のとある王国。

 そしてその王国内にて、隣国と隣り合わせの地域に、領土を構える伯爵家があった。

 王国の建国時代より、初代国王に仕え、その功績を認められた由緒正しき伯爵家。


 度重なる戦の際にも多大なる功績を上げつつも、出世も名誉も固辞し、唯一途にひたすらに王国に仕える誉れ高き名家。

 貴族達の身分制度である五等爵では第三位の地位であるにも関わらず、有事の際には国王からも意見を求められるという、栄誉ある一族。


 というのは表向きの姿であり、その実態は奇人変人の巣窟。

 ――――それがセラーレ伯爵家であった。


* * * *


「エステル、エステル、エステルーー!!」


 澄んだ春の空を思わせる瞳を涙で濡らし、部屋の主の許しも無く飛び込んで来たのは一人の少女。

 波打つ月光を紡いだ様な金色の髪に、おとぎ話の妖精の様な可憐な容姿。

 百人中、百人が美少女だと認める少女の名前はサラ。とある事情により、今この王国内にて最も有名な人物であった。


「……なあに、サラ。洗面所ならこの部屋を出てすぐ左よ」


 緩慢な動きで振り返り、面倒くさそうに言い放ったのは、この部屋の主にしてセラーレ伯爵家の一人娘・エステル。

 彼女の動きに合わせ、艶やかな黒髪がさらり、と揺れる。

 サラが金の髪に春の空の瞳を持つならば、エステルは艶やかな黒髪に夜の様な黒の瞳という、実に対照的な二人であった。


「うう……。相変わらず冷たいのね。生まれた時からの親友に、もう少しばかり優しくしてくれたって良いじゃないの」

「生まれた時からって、あんたとの付き合いは三歳からだったと思うのだけれど」


 よよよ、とハンカチで両目を抑えるサラに、エステルが欠伸を噛み殺しながら答える。もう昼過ぎであるのにも関わらず、エステルはまだ寝間着を纏っていた。


「うう……。それよりもエステル。私に何か言う事があるんじゃない?」

「言う事? ……そうだねぇ」


 寝転がっていたソファから気怠気に身を起こし、エステルは三歳からの親友へと視線を寄越した。


「――――取り敢えず、王子との婚約おめでとう」

「違うんだってばーー!!」


 ――――少女の悲鳴が、伯爵家の邸一杯に響き渡った。 

一人娘とは『姉妹のいない娘』という意味です。

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