ギャップ萌え
「つまり、アレでしょ? 普段は厳めしい騎士様が、雨の日に捨てられた子猫を拾うのを見たヒロインが相手の普段とは違う一面にきゅん、と来た時に起こる現象のことよね」
「的確かつ適切な例をどうもありがとう」
こてり、とサラが可愛らしく首を傾げる。
それに椅子に座ったままのエステルは尊大に頷いた。
「つまるところ、相手の今までに知らなかった側面に心を奪われる事が、俗に言う“ギャップ萌え”だね」
「ふんふん」
「それをやろうと思うの」
「“ギャップ萌え”を?」
こくり、とエステルが頭を上下に振る。
サラの波打つ金髪とは違って、さらさらの黒髪が動きに合わせて揺れた。
「正確には、反・ギャップ萌えを、だけどね」
「……? どういう事?」
何を考えているのか分からない、無感情な夜空の色の瞳がサラの顔を映す。
「もし、次期王妃を望まれる程の娘が、実はそれに値しない人物であったと思われたら、どうなる?」
「……発表がされた後なら、当たり障りの無い理由を作って自然解消を狙うわね」
「でなくば、そんな相手を次期伴侶に選んだとした事が周囲にバレてご覧なさい。あっという間に見る目が無いと周囲に非難されるね……特に、次期国王ともある者ならば」
大勢の人間の上に立ち、一国を治める立場にある王は自身の配下たる人物がどのような者であるのかを見抜く慧眼を必要とされる。
「――下手すれば、第二王子自身の傷に成りかねない話ね。ぞっとするわ」
「ここで重要なのは、あんたが上手く立ち回らないと飛ぶのは婚約話ではなく、あんたの首だって事。……王家の方々は首の取り替えが大好きだしね」
――――そうすれば王子の婚約は白紙に戻る。
死人に口無し。
その言葉は、正にその通り。
後世に伝えられる物語を進めるのは、いつだって生き残った者達なのだから。
「良い事? サラ・フィオーレ令嬢は実は次期王妃として相応しくない娘であるという事を、あんたは第二王子“だけ”に見せるのよ。事実とは異なる<真実>を、知る相手は少ない方が良いからね」
「……王家の方々を騙すという訳ね。心臓に悪い話ね」
興奮を隠せない親友の姿に、エステルもうっすらと微笑んだ。
うーん。
なんかダークな雰囲気に。