目指す所は?
壁の一面にピカピカに磨かれたガラスが張られ、室外に音が漏れる事の無い様に作られたとある小部屋。
セラーレ伯爵家の邸の中でも、外れの方にあるこの一室には二人の少女の姿があった。
「立て、立つのよ、サラ!」
「うう……。そんな熱血スポコン漫画みたいな事言われても……」
普段の無気力な姿はどこにいったのか、片手にハリセンを持って仁王立ちしているのは『黒猫令嬢』ことエステル。
そんな彼女の前で月光を紡いだ様な金髪を幾筋も顔に垂らし、床に崩れ落ちているのは社交界の憧れの花『金の妖精姫』ことサラであった。
「も、もう無理……。このままじゃ、自分自身の演技のせいで死んでしまいそう」
「ちっ……。軟弱ものが」
貴族令嬢にあるまじき言動でエステルが舌打するが、無理に続行する気もないらしく、部屋の隅に置いてあった粗雑な作りの椅子に腰掛けた。
その隣に、正しく疲労困憊といった有様のサラが座り込む。
「ねぇ、エステル。その、今更こんな事を聞くのもなんだと思うけど……」
「なに?」
「その、エステルが目指す所を教えてもらっても……良い?」
何を考えているのか分からない夜空色の瞳が、じっとサラを見据える。
――そうしてから、一言。
「……本当に今更ね」
「うるさい!」
顔を真っ赤にしたサラを面倒くさそうにあしらいながら、エステルがうーん、と伸びをする。
凝り固まった首筋を解す様に、首を左右に揺らしながら、エステルは小さく何かを呟く。
「え? なんて言ったの、エステル?」
「――――“ギャップ萌え”って知ってる、サラ?」
至極真面目な表情でこちらを見つめて来る親友の、突拍子の無い言葉に、サラは首を傾げるしかなかった。