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第3話 魔力9999

 アシュレイの目が真っ赤なのは一晩中泣きはらしたからかしら。

 私の目の下に隈があるのは寝不足のせいだけど。

 

 (魔力が使えない腹いせに、アシュレイ様を衆人の場で叱責されたらしいわ)

 (まぁ、お可哀そうに…アシュレイ様)

 (アシュレイ様、魔法を使うほど追い込まれていたのね…)

 (ご兄弟のローラン様とセシル様はそれはもうご立派なのに…こうも違うなんて)

 

 聞こえてますよ、皆さん。もう噂になっているわ。貴族は噂話が好きだけれど、要するにそれって暇なんじゃないか、なんて思う。

 

 そりゃ貴族と言えば社交界、お茶会舞踏会は日常茶飯事ではあるけれど。昨日の晩から今朝までにここまで噂になるとは思いもしなかったわ。夜は自習でもしたらいいのに。今ここでアシュレイの詠唱添削でも公表してやろうかしら。逆効果しか生まないと思うけれど。ちなみに取り巻きAとBの制服の裾が少し黒ずんでいた。中庭の掃除の後かしら。その割には…。

 

「そういう子よね」

 アシュレイの身なりはまぁそれは綺麗なものだ。おろしたてみたい。取り巻きAとBがアシュレイの分まで清掃したのだろう。今度嫌味でも言ってやろ。


 さて、貴族連中の噂話は無視するとして。あいつは…いた。黒髪は目立っていいわね。昨日の印象は冷めた感じの、壁がある男、という印象だったけれど、ところがどっこい、何人かに囲まれていた。いずれも平民の特待生らしい。これは意外だわ。三白眼の「俺に関わるな」キャラだと思ってた。見た顔がいるから、自然哲理学部の子だろう、多分。知らない子は統治法学部かしら。魔導真理学部の平民は彼だけのはず。違うかもしれないけれど。

 

 うーん、流石に独立独歩は限界があるわね。一人で集める情報には限界があるし。セシルお兄様ならこういう時、ずかずかと彼の領域に踏み込んで行けるのだけれど…。お堅いローランお兄様はそういうの、できないし。(なんならよくセシルお兄様の小言を言っていたし)


「魔力、30!」


 やだ、測定が始まってたわ。おー! と当の彼女は喜んでいる様子。あの子も自然哲理学部だわ。名前はなんだったかしら。エラリーかユラリーだった…と思う。


「魔力30ってことは、少しは魔法、使えるってことですよね!」

「ええ、そうね…初級魔法くらいなら」


 担当教員とエラリー(仮)が話していた。魔導真理学部は白けた様子。確か平均は100程度だったかしら。その後は80、125、105、と魔導真理学部の生徒が続く。流石に平均値は高め。


「流石プロヴァンス侯爵家の娘様だわ。魔力300!」

「当然ですわ、おーっほっほっほ!」


 続けて拍手と喝采。言わずもがな、アシュレイだ。へー、凄いじゃん、と私も素直に感心する。新入生で300は今のところ最高値だ。ちなみにローランお兄様は500、セシルお兄様は800だったような。最近聞いた数値だから、在学中はもっと低かったと思うけれど。


 ともかく、300もあるならそりゃ魔力の暴発も起こるでしょうよ。ちなみに取り巻きAは65で、Bは70だった。一般より低いわね。もう少し見込みのある子と付き合いなさいよ。


「次、フランソワ・アリエル・ド・シャルロイドさん!」

 色々と考えていたら名前を呼ばれた。フルネームで呼ばれたのは久しぶりだ。入学式以来かしら。きっ、と視線が集中した気がする。特に魔導真理学部の連中から。もちろん好意的な感情ではなくて、その逆。


 無視して測定器へと赴く。構造としては単純で、未稼働状態は透明な水晶みたいな球体なの。両手で包み込めるくらいのサイズ感ね。これに手を…手じゃなくても身体が触れればいいらしいけれど、一般的には手を触れることで測定ができる、って仕組み。数値は水晶に浮かび上がって、ついでに触れる人によって色合いが変わる。


 例えばアシュレイは赤色だったのだけれど、つまり炎系統の魔力300ってこと。二重系統の子は赤と青(火と水)みたいなイメージね。ただ、血縁を辿ったら色んな魔法系統がまじりあうわけで、純粋な一系統に特化した魔法使い、ってのは殆ど存在しないんだけどね。一番得意な魔法系統が色に現れる、くらいの認識の方が正しいと思うわ。


 ともかく、両手で触れてみる。実家の測定器だと「反応なし」だったわ。学院の測定器の性能はアリアで一番、らしいけれど、どうせ同じ反応でしょう。


 と、思ったのだけれど。


「え…エラー?」


 教員が困惑しちゃった。エラー? 目の錯覚か、なんとなくうすぼんやりと輝いているような…。陽光が反射しただけかもしれない。


「魔力なし、ってことですか?」

「い、いえ…無しの場合はゼロ表記されるのだけれど…す、少しお待ちを」


 一旦手を離す。ん…やっぱり、少し色合いが変わったような? 気のせいかしら。その間に、教員が測定器に触れた。水色、魔力は450。水系統ね。流石先生、アシュレイ以上だわ。


「故障ではないですよね…。昨日と同じ数値だし…。フランソワさん、もう一度お願いできますか?」


 わかりました、と答えてもう一度触れる。やっぱりエラー。


「ん…一旦エラーで記録しますね」

「珍しいんですか?」

「珍しいというか…私は初めて見ました」


 それは興味深いわ! 私が規格外ってことかしら? なんてね。でも、気が向いたら調べてみよう。それより、留学生の方が気になる。


 その後しばらくは平均値が続いたわ。一人、留学生と談笑してた男の子が試してみたけれど、確かにゼロ表記だった。がっくし肩を落としている。特待生なんだから、そんなに気にしなくても、とは思うけれど、やっぱりないより1でもあったほうがいいわよね。ゼロはゼロなんだし。


「シオンさん!」

 やっと名前が分かった。黒髪の留学生。シオンと言うらしい。はい、と快活に答えて…え、イメージと違うわ。無言で来るかと思ってた。もしかして昨日は本気で面倒くさいと思ってただけ? それはそれで心外なのだけれど。


 その直後だ。


 水晶が、真っ黒に染まった。黒が輝く…って何を言っているのか分からないけれど、漆黒が飛び出してきたような…禍々しい感じ。勿論、黒色なんて初めて見た。魔導真理学部から悲鳴がいくつか。私は目を見開いていた。そりゃ、見開くでしょう、だって。


「ま、魔力…9999!?」


 教員が悲鳴を飲み込むような甲高い声を上げた。当の本人はちょっと首を傾げただけ。


「あの…もういいですか?」

フランソワの魔力エラーと、シオンの前代未聞の魔力9999…。

公爵令嬢の知的好奇心が尽きることはありません。ぜひ次回もお楽しみください!


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※本作は「カクヨム」および「アルファポリス」にも掲載しております。

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