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第2話 公爵令嬢の魔法添削②

 実はロスタリア古語はイントネーションが少し独特で、同じ単語でも、語尾を上げる、もしくは下げるで意味が変わる場合があるの。


 とくに「ジィジィ」は同音異義語が多くてね。本来使いたい意味はさっき述べた通り、「即座に撃て!」ということなのだけれど、発音としてはジィ!ジィ! のように語尾を強める必要があるの。発音を誤ってじぃ~ じぃ~ みたいな語尾を下げる言い方にすると逆の意味で、「沈まれ~ 沈まれ~」というニュアンスになるから、普通は魔法が不発に終わるのだけれど。


「一番やっちゃいけない忌避事項をしたわよね」

 アシュレイはジィ~ ジィ! と、一回目を下げて、二回目を上げた。これは「縮まれ、集まれ!」のような意味になってしまう。それだけだと良いのだけれど、腐ってもアシュレイは魔力が一概に高いと言われるプロヴァンス侯爵家の娘。


 ここで最後の要因、魔力の項目になるわけ。実際の彼女の魔力がどれほどなのかは知らないけれど、平均値より高いのは確かだろう。


 魔力は燃料なの。油が多ければそれだけ火勢が強まり、燃焼時間も長くなる、ということ。これは天性の、遺伝によるものが大きいと一般的には言われているけれど、適切なトレーニングを積むことで後天的に伸ばすこともできるらしい。私みたいな魔力ゼロだと何をかけてもゼロだけど!


 ということで、まとめてみる。要するに間違いだらけだ。


 まず第一に、本来呼び出すべき小精霊ではなく、火弾には不釣り合いな大精霊を呼び出したこと。


 第二に、指示がめちゃくちゃだったこと。現代語にすれば「微かな発火、集まれ凝縮せよ、前方に敵なし!」

 …何を言いたいのかまるで分からないわね。ウーチィェンはロスタリア古典、特に異民族・蛮族を打ち破って最大版図を達成した頃によく出てくる単語で、例えば「ヨンモン・ウーチィェン」という熟語になると、勇猛邁進、我に敵なし、前面の敵をことごとく打ち払え! という意味になるから、きっと召喚された大精霊サマはこんな風に聞こえたんじゃないかしら。


「微かな発火よ、我に集まれ、凝縮せよ、目前の敵を打ち払え!」


 微かな火で何を打ち破るんだっての、と言うツッコミはあるけど、ギリギリ意味が通じてしまう。で、トドメの中途半端に強いアシュレイの魔力。微かな火でもたくさん集めりゃいいんじゃない? と精霊サマが判断してもおかしくない。何しろ大精霊だし。


 という事で、こういうことがあるから生半可な知識で魔法を使ってはいけないのだ。会食堂をはじめ、学院の公共施設内の魔法は原則禁止されているのは当然として(止めるのが間に合わなかったけれど)、確か一年生の魔法使用も厳しく制限がなされていたはず。


 講師立ち合いの元、決められたエリア(魔法演習場など)にのみ限る…じゃなかったかしら。魔導真理学部のカリキュラムをちゃんとは読んでないけれど、魔法の自由使用は段階に応じた認可状が必要だったはず。初級まで、とか中級まで、みたいな感じ。


 特にアシュレイのように魔力「だけ」は高いと暴発してしまうわけで…やっぱりギリアムは妹に忖度していないだろうか。二重に禁止項目を破ったのに、一週間の中庭掃除では罰が軽すぎる。


 ともかく。


 なんだかんだ言っても、魔力は要するに魔法における基礎体力に該当するわけだ。今回の暴発事故だって、取り巻きのAかBが仕掛けたのならそもそも不発か、ちょろり、と火がついておしまいだっただろう。


 はい、添削おわり。今度アシュレイをからかってやろうかしら。私、結構根深いのかもしれない。


 そういえば、あの黒髪の子。アシュレイの炎を一瞬で消し止めるなんて、並大抵の魔力では無いわ。きっとあの子が例の留学生に違いない。


 彼が使った重力魔法、もしくは空間魔法(と思われる)はアリアではほとんど使う人がいないの。私も聞きかじったばかりだけど、ミルドガルド大陸の東側、ルグ教の国家ではメジャーな魔法らしい…けれど。

 

 アリアは一応西側のヤーヴェ教国家と名目上は言われている訳で、東側との交流が盛んかというとそうでもない。名目上、というのは割と政治的な話が絡むので今回は割愛するけれど。


 とはいえ、国と地域によって得意な魔法は異なっている。魔力と同じく、魔法適正も遺伝要素が強いのよね。アリアは海洋国家で移民もそこそこいるから、バリエーションは豊かな方だけれど。


 例えばアリア王室は歴代雷系統の適性が高い。対してシャルロイド公爵家は水系統が強め。魔法系統は一般的に五つあるのだけれど、アリア皇国は雷と水の二系統だけで過半数を越えるの。


 逆に言うと、プロヴァンス侯爵家はアリアの中では少しレア、ってこと。レアと言っても、炎系統だけで一割を越えるけれど。他に風系統、土系統が現時点で公式に認められている。


 公式と言うのは、最近になって、派生二系統の提唱がなされ始めたから。と言っても、私もあまり詳しくはないわ。以前読んだ書物の中で摘んだ程度。


 その二系統は「重力系統」と「空間系統」といい、空間そのもの、もしくは重力そのものを操る魔法なんだとか。魔法の存在自体は古くから認められていたけれど、土系統の派生、あるいは風系統の派生、と思われているのが現在の公式見解ね。


 何しろこの大地にモノを引っ張る力がある「らしい」というのと、私たちが暮らすこの空間は大気という物質「らしい」という概念がまだ最先端過ぎるのよ。


 という事で、当然保守派は大反発、先に述べた精霊論と原子論の論争も重なって、特に精霊論は宗教が絡むから、神の存在意義にまで話が飛んでいくわけで…。新規系統の存在を主張する学者の中には当然のごとく異端扱い、教会からの破門、故郷からの追放と三段コンボで渋々趣旨替えした人もいるとかいないとか。その辺、アリアは割と自由なのだけれど。


 ともかく、あの黒髪の留学生、私の知識だけで考えるなら、新規二系統のどちらか…だと思う。ただ、詠唱不要というのは流石に聞いたことがないわ。


 もう一度留学生の動きを思い起こしてみる。

 右手を天にあげて、拳を握った。

 

 記憶している限り、動作はこれだけだった気がする。新規系統は動作だけでも発動できるのかしら? それとも、私が聞き逃していただけで詠唱自体はしていたのかも。


「分からないわ…」


 過去の事例で無詠唱の術者は存在したかしら? 少なくともシャルロイド公爵家にある書物は一通り目を通したつもりだけれど、思い当たる節はない。学院書庫院ならもしかしたら何か見つかるかもしれないけれど。もしくはセドリック先生に聞いてみようかしら。


 アレでもない、これでもない、と考えているうちに、ふと気づいた。


「やば」

 窓の外が薄明るくなっていた。初夏だから日の出は早い、早いけれど。慌てて窓の外を確認。まだ日の出前、だけれど東側が茜色に染まり始めていた。殆ど徹夜だ。寝られてあと二時間ばかしかしら?


「…仮眠しましょう」


 そういえば、明日(今日)は魔力測定が予定されていたっけ。自然哲理学部は免除されてはいるけれど、参加してもいいらしい。文字通り、体内魔力を数値化する測定だ。実際の所、アシュレイの魔力量が(自分の研究テーマとして)気にならなくもないし、何よりも。


「あの子も来るはずよね」


 黒髪の留学生。どんな系統でどれほどの魔力量なのか。何かわかるかもしれない。

本日もお読みいただき、ありがとうございました! 次回は魔力測定会でシオンと再び対面します。

ぜひお楽しみください!


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※本作は「カクヨム」および「アルファポリス」にも掲載しております。

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