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第2話 公爵令嬢の魔法添削①

「なんで私まで!」


 自室に戻って、着替えもせずにベッドにダイブ。はしたなくバタ足。下足が飛んでって、パチン、と机に置いていた万年筆を転がしていった。個室で良かった。悪いけど、今日は公爵家の血に心から感謝するわ。特待生や男爵子爵は相部屋だから…。


 それはともかく!


「なんで私までお説教なのよ!」


 そうなのだ。騒ぎを聞きつけた学院評議会のメンバーは…まぁ、一目瞭然だけれど、騒ぎの中心地である私とアシュレイ(+取り巻きAB)の聞き込み調査の結果、喧嘩両成敗とばかりに私+3名、別室にてしこたま怒られたのだった。多少なりとも感心したのは、ギリアム評議会長が妹でも忖度なしに扱ったこと。お目溢しでもするかと思ったのだけど、案外公平な人物らしい。


 公平じゃないと会長なんてできないけど。


 ま、そんなわけでアシュレイは顔面蒼白、取り巻きABは失神寸前、決められた罰は一週間の中庭掃除。私は免除されたけど。


「厳重注意で済ませておいてやろう」

 ギリアム会長の口真似。


 なんなのよ! 被害者なのよ、私! そんなことを言うなら兄として妹の躾くらい、きちんとしておいて欲しいわ!


 ついでに夕食も食べ損ねたし、お腹はぺっこぺこ。お情けでもらったパンを齧っておしまい。これなら一人でひっそり食べてた方がマシだった。お腹は立てたり減ったりと大忙しだ。そろそろ就寝の時間だけれど、寝る気分になんかとてもならない。そうだ。


「アシュレイの詠唱、添削してあげましょ」

 憂さ晴らしくらいにはなるでしょう。ベッドからのそりと立ち上がって、デスクに…万年筆が床に転がっているのに気づいた。やば、お父様から入学祝いに頂戴した大切なものなのに。これも全部アシュレイが悪いわ。ノートを一枚取り出して、アシュレイの詠唱を思い起こしてみる。


 そもそも、魔法というものはえいやっ、と発動するものではなくて、決められた段階を踏む必要があるの。そして詠唱は年々長くなっている。


 魔法史なり魔法基礎学なり、初歩の初歩で学ぶことだけれど、アシュレイが体現してみせたように、そもそも魔法とは危険な技術なのよ。少しの過ちが大事故になる、という事で、長年の(多数の事故と大量の死者との引き換えで)安全管理が優先されるようになったわけ。これが近代魔法の原則。

 

 魔法関連の法律もあるくらいよ。魔法法学は統治法学部では必修、がっつり仕込まれる訳だけれど、私はあまり詳しくはない。専門外ってやつ。

 

 イェンリィ、ミャオフォア

 ウェイ・ファフゥオ、ジィジィ・ウーチィェン

 出でよ、火弾!

 

 彼女の詠唱を古語で表してみる。魔法の発動には三段階を踏む必要があるの。そもそも魔法とは何か、という議論にもなるけれど、覚えておかなければならないのはこの数式。

 

   魔法の威力 = 召喚 × 指示・指定 × 魔力


 ということ。まずは召喚。

 魔法は体内から溢れるエナジーとかフォースを使うもの、ではなくて、媒体となる精霊の力を借りる必要がある。


 精霊の存在は自然哲理学部が究明を求めている、現代最大の謎ね。実態は確認できないけれど、確実にいる、もしくはある、という状態。

 

 現代における有力な仮説は「空間中に漂う、極小な物体」が精霊の正体である、というもの。物質を構成する最小物質、と言えばいいかしら。魔導真理学部は否定するけれど(彼らは精霊を神の使い、或いはそれに近しいものと規定している。そのため、人の目に触れることはないという理屈)、自然哲理学部はそれを原子と呼んでいるわ。

 

 魔法の科学的アプローチも自然哲理学部の研究テーマなのよ。それはともかく、精霊の召喚を行う必要があるわ。アシュレイの詠唱で言うと、


 イェンリィ・ミャオフォア

 が該当するわけなんだけど。


 イェンリィは古代ロスタリア語で『炎の精霊』或いは『火焔の神』を指す言葉。

 言葉の意味からイメージが付くと思うけれど、要するに超強力な精霊ってこと。ミャオフォアは『描け』とか『現れよ』くらいの意味だから、ここでアシュレイは『超強力な炎の精霊を召喚した』ということ。


「本来なら、フォウリィ・ミャオフォア」よね。


 フォウリィは『火の精霊』『火の元素』くらいの意味ね。これで大分落ち着いた。

 

 アシュレイが実際に発動しようとした「火弾」は前出の通り炎系統の初級魔法なの。ちょっと火を出して脅かしてやろう、その程度の心づもりだったのでしょうね。実際は暴発した訳だけれど。


 という事で、続いて次の指示・指定の詠唱に行こうかしら。


 ウェイ・ファフゥオ、ジィジィ・ウーチィェン

 の部分が該当するの。ちなみに、本来の火弾の詠唱だと、

 

 ヂィドゥアン・ファフゥオ、ジィジィ・ウーイン

 になる。現代語に訳すと「指先よ発火せよ。そして目にも止まらぬ速さで撃ち抜け!」という意味になるわ。


 さて、添削よ。アシュレイが間違えた、「ウェイ」は「微かな、僅かな」という意味合いね。一応、「ちょっと火を出して脅かそう」というニュアンスで、単語を理解して発音していたのかもしれない。そんなことないと思うけど。意味が分かっているなら『イェンリィ』なんて発言して大精霊を呼び出す訳が無いし。 


 次のファフゥオは正しいとして、意味は「発火」、「火を点けろ」という意味。次のジィジィは「即座に撃て!」、で、ウーインは「目にもとまらぬ速さで!」ということ。ただし。


「やっぱり、ロスタリア古語を理解してないわ、あの子」


 一旦呆れておいた。ウーチィェンは別の中級~上級魔法に出てくる単語で、「前方に敵なし!」「無敵だ!」というニュアンスになる。勇ましいでしょ? でも、問題はもう一つある。


 発音だ。


本日もお読みいただき、ありがとうございます!

魔力はゼロでも理屈は理解している公爵令嬢、魔法添削の続きをお楽しみください。


少しでも『面白い!』『続きが気になる!』と思っていただけましたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると、執筆の励みになります! ブックマーク登録もぜひ、よろしくお願いいたします!


※本作は「カクヨム」および「アルファポリス」にも掲載しております。

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