第22話 理外の公爵令嬢、地球に祈り世界を解く
バリン、とすさまじい破裂音。
そして、魔力吸収装置…コロシアムに屹立した、完璧な球体。それが真っ二つに割れた。魔力が逆流する!
「防御魔法!」
アレフが叫んだ。エラリーが伝言した直後。紙一重で、エラリーは間に合ったのだ。余りの魔力に、エラリーが思わずうずくまる。
親衛隊の精鋭が一斉に防御魔法を展開。観客席への第一撃は避けられた。だが、限度がある。溢れた魔力には際限がない。親衛隊の指先から、じわり、と出血。
「アレフ隊長、長くはもちません!」
「避難を! 学院評議員はいるか!?」
「まさか!」
ギリアム、咄嗟に防御魔法。シオンも続く。右も左も身体全体、魔力の本奔流の真っただ中だ。全身防御が間に合っただけ、彼らの魔力もまた凄まじい。
「フランソワの言った通りだ!」
だけれど、自分一人の身を守るのが精いっぱいだ。とても行動などできやしない!
「くっ…まさか現実になるとは…!」
「それより、どうするんだこれ!」
「まずは観客の避難だ!」
ギリアムが振り返る。アレフに指揮された評議員たちが避難誘導を始めていた。だが、全体の混乱を収束するには至らず。殆どの近衛騎士団が防御魔法にかかりきりなのだ。いくら評議員と言えども、軍務は素人。目の届かないエリアでは出口へ殺到する観客。
このままでは、群衆事故を起こしかねない!
それに、近衛騎士団の防御魔法がいつまで保つのか?
「やはり、私が行くしかない!」
「動くんじゃねぇ、いくらあんたでも死ぬぞ!」
「しかし!」
「どいて!!」
その時だった。
コロシアムに、可憐な令嬢。
奇妙な槍に、シルクの法衣。
フランソワ・アリエル・ド・シャルロイド。
コロシアムに突入す!
時は僅かに、遡る。
「できたで、即席避雷針や!」
ニコラスが作ったものは、用品庫に置きっぱなしの錆びた鉄の槍と、余っていた空き瓶を番線でつないだもの。
この槍で魔力を集めて、空き瓶に逃がすの。
「それで、突入担当でやすが…」
「ええい、ここは男気の見せどころや! わいに任せい、フランソワはん!」
「いいえ。私が行くわ」
「あ、あかんて! 何が起こるか分からへん!」
「時間が無いの…! それに、投げ槍は多少嗜んだわ。これでも公爵令嬢ですもの。武芸一般は一通り、ね」
「せ、せやけど…」
「姫さま、せめてこれを」
「法衣、ね」
同じく、用品庫に残されていたものよ。
「へぇ。見たところ、シルク製でやす。多少は…おそらく、三十秒程度でやすが…」
「絶縁体やな?」
絶縁体。
電気を通さない物質の事よ。
有名なのはゴムだけれど、実はシルクも電気を殆ど通さないの。
「使わせてもらうわ」
少し黴臭いけれど、仕方ないわ。念のため二重に羽織る。フード付きで良かったわ。
「手袋もありやす」
「完璧ね。それじゃ、行ってくる」
「フランソワはん、頼んます!」
「姫さま…ご無事に…」
「ええ!」
魔力が奔流する中に飛び込む。どうなの…?
大丈夫! 絶縁体が効いているわ!
奇妙な槍を振りかざす。じゃらじゃらと空き瓶が鳴る。
投げ槍の要領で、右腕を思い切り振りかざした。
「行け、接地槍! 地球こそ最大の魔力貯蔵庫のはず!」
投擲、ひょう、と風を切る音、そしてがちゃがちゃと空き瓶が鳴る。
「刺され!」
シオンとギリアムの間。突き刺さった、垂直よ!
瓶が跳ねる。震えて、ばちばちと針金が鳴ったる! 吸収してるわ!
それでも、足りない、間に合わない。
分かってる。だから、この仮説に賭けるわ!
「シオン!」
「おう!」
「あなたの全力を、あの槍に叩き込んで! 周りの魔力を『消して』!」
「わかった!」
シオンの魔法が発動。
吸収を続ける魔力の空白を、シオンの魔法で極大化するの!
真空へ大気が一気に吸い込まれるように、魔力の空白を作れれば、全ての魔力が集約するはずよ!
シオンが両手を突き出した。
「空へ!」
「わかった!」
両手を空に。
無造作にコロシアムを支配していた魔力が接地槍へ収束していったわ。
跳ねる、暴れる、奔流する。
それがやがて、一本の大きな滝になったわ。魔力の滝が上流へと昇る。ばりばりとすさまじい音。
やがてそれが静まって…そして、霧散した。
「せ、成功した…」
ヘナヘナと腰が砕けたわ。だって仕方ないじゃない!
魔力ナシが魔法の中心部に突っ込んだんだもの。正直、一瞬だけ、お父様とお母様に謝ったの。フランソワは国のために立派に尽くして果てます、どうか勇気あるフランソワを誇ってください、ってね。
「大丈夫か?」
シオンが手を差し出してくれたわ。掴んだけど。
「…立てない」
「ええ…」
「引っ張って」
「おう」
ぐい、と引き上げられる。足元がぶるぶると震えだしたわ。
生きてる、私生きてるわよね!? 死ななくてよかった、本当に!
「フランソワ様」
ギリアムが膝をついた。まるで叙任の騎士みたいに…。
「フランソワ様こそ、学院の救世主。シャルロイド公爵家の名に恥じぬ英雄にございます。評議会を…否、学院を代表し、御礼申し上げます」
必然に迫られて、法衣に身を包んだ訳だけれど。
まるで本当の叙任式みたい。
厳かにフードを取って、両手を法衣の前に添えたわ。
「ギリアム・ランス・ド・プロヴァンス」
呼びかけるの。公爵家としてね。
「貴殿の忠勤、心より感謝申し上げます。貴殿の責任ある行動、まさしくプロヴァンス家の誉でございました。レクターとして、正しく学院生の模範ですわ。さ、お立ちになられて。この学院では、ギリアム殿こそ敬愛されるべきですわ」
「勿体無いお言葉」
ギリアムが私の右手を取って、跪いたまま私の右手に唇を寄せる。
とたんに、大歓声。
まるで絵画の1シーンに見えたんじゃないかしら?
公爵令嬢、レクターを従える、ってね。
ギリアムと並びたち、観客席を見た。
ギリアムが大きく手を挙げて歓声に応えたわ。
私は、スカートの裾を摘まんで、優雅に会釈。
コロシアムが、今日一番の歓声に包まれたの――――。
その歓声の中で、一人拳を握りしめ、わなわなと震える男がいた。
「許さぬ…許さぬぞフランソワ…。魔力を持たぬものが魔力を制御するなど…あってはならんのだ…」
その瞳が、まるで獲物を狙うようにギラつく。
魔導真理学部の、ロッサム教授であった…。
第二部へつづく
第一部完までお付き合い頂き、本当にありがとうございました!
でも、まだまだフランソワの物語は続きます!
この後すぐに第二部スタート!
第二部:理外の公爵令嬢 〜グランド・ディベート編〜
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より深まるフランソワ・ワールドを、ぜひお楽しみくださいませ!
【追記】3月11日、改訂しました!
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ここまでお読みくださって、本当にありがとうございました!
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※本作は「カクヨム」および「アルファポリス」にも掲載しております。




