第21話 魔道の正統 vs 測定不能のイレギュラー
「先日は妹が失礼をしたね」
試合開始の鐘が鳴ったというのに、ギリアムは悠長に構えていた。
調子、狂うな。
シオンは思う。
「別に、たいしたことじゃない」
「そんな事はないよ。キミは魔法を無詠唱で発動するのだろう? 無詠唱というのは良いね。とても良い。羨望するよ」
「そうか?」
「そうとも。私も無詠唱を試してみたが、難しいものだね。口に出さずとも脳内で祈ればあるいは、と思ったのだけれど…そんな簡単ではないね。まぁ、その程度で無詠唱が可能なら、すでに誰かが実践しただろうけれど」
「良く分からないな。それで、やるの? やらないの?」
「もちろんやらせてもらうさ。ただ、こういう小道具を使うのは初めてでね。制御が狂っても恨まないでくれよ」
ギリアムが左右に手袋をはめた。
何かの紋様が描かれている。そして、右手を振り上げた。
「では行くよ。火炎弾!」
パッ、と炎が飛散した。
「え、フランソワ! 今のギリアム、詠唱してなくない?」
エラリーが叫んだ。自席に戻ろうとしたのだけれど、観客が多すぎて移動ができなくて。通路で立ち見観戦状態なのよ。
確かに、今のギリアムは詠唱をしていないわ。
「キミの魔法は実に不思議だ」
「どうも」
「魔力を打ち消しているのかな? それとも、『無』に帰しているのか…。それだとミレーヌが倒れた理由がつかないね。では、もう少し大きな炎ならどうだ? ロンシィ・ペンフゥア、ワンブゥ・フィジン…炎龍!」
「今度は何!?」
「炎系でも最上級の魔法よ! レクターの名は伊達じゃないわね!」
バカでかい炎が一直線にシオンを襲ったわ。シオンは両手を構える。今までの魔法、全部片手で防いでいたのに、それほど巨大な魔法なのよ!
それよりも。
「消えないわ!」
そう、シオンの目の前で『虚無』と『火焔』が激突しているの!
「ど、どういう状況…?」
「あとで説明するけれど、要するにシオンの魔法よりギリアムの魔法の方が強い、ってこと! 少しずつ消えてはいるけれど!」
でも、間違いが無いわ。
シオンは確かに、魔法か何か分からないけれど、消している。
それなら…。こうすれば、もしかしたら!
かちっ、とピースが嵌ったわ。成功するかは分からないけれど、理屈は成り立つ!
「ついでに、ギリアムのカラクリも理解したわ。あの手袋!」
「あれ?」
ギリアムが両手にはめている白い手袋よ。純白ではなく、何かの文様が刻まれてるの。
「あれ、召喚円陣よ! 魔法陣なんて中世には廃れたはずなのに!」
「つまり?」
「精霊を呼ぶ詠唱を図形よる演算、要するに魔法陣でカットしてるわけ! 簡易的な魔法なら魔法名だけで発動できるようになっているんじゃないかしら? とはいえ、炎竜みたいな大魔法には出力が足りないから、短縮詠唱で補強している…そんなところだと思うわ」
ギリアムが詠唱した、『ロンシィ・ペンフゥア、ワンブゥ・フィジン』は『龍の吐息よ、全てを灰に変えろ』という意味になるわ。ちなみに、詠唱全体の四分の一程度よ。
「チートじゃん!」
「二人ともチーターよ、チーター!」
魔法陣は少し線が乱れたり、線を一つ間違えただけで全然違う魔法になっちゃったり、正しく発動できずに暴発するから廃れたのよ。実戦には使えないし、第一危なすぎる、という事で。
なの、ギリアムと言ったらそれを易々と、多分独学で解明してしまったのだ。
天才、というには十分すぎるわ。
「時間が、時間がないわ」
手持ちしている方位磁針は決勝戦が始まってからくるくる、当てもなく回転を続けているわ。それに、検電器だって肉眼で分かるくらい震えているの。
あと、何秒もつ?
「エラリー、アレフにこう伝えてくれる? 『魔吸槽の暴発懸念有。観客保護を要請』って!」
「え、爆発するの?」
「高確率で! アレフは…」
「あ、あそこ!」
こういう時、近衛騎士団は便利よね。他の観客と服装が違うから、すぐに分かったわ。
その時、きん、と耳鳴り。
シオンの魔法が発動したんだわ。気圧計が無くてもわかる、大気がみるみる減圧してるの!
検電器は…キラキラと輝いていたわ。
金箔が、千切れてる。もう、持たない!
「エラリー、急いで!」
「任された! フランソワは?」
「止めに行ってくるわ、ニコラスとマルタとね!」
「炎は防御に弱いのでね。こういうのも用意してるんだ」
ギリアムが左手を掲げた。眼前に滝のごとく電流が流れる。シオンの魔法が届かず、相殺!
「電気というのは、いろいろと未知のことがあるようだね。キミの魔法が貫通しない、という事は正しい選択肢だったかな。そういえば、知っているかい? 電気は百年後には主動力になるという話さ」
「聞いたことがないな」
「勉強不足だね、シオン君。エレキテルというものを見たことがあるが、あれは傑作だね。我々魔導士の特権が、いつしか無くなる未来が来るらしい」
「フランソワみたいなことを言うんだな?」
「彼女は優秀だと思うよ、実際に。セドリック教授と何やら面白そうな事をしているじゃないか」
「科学で世界を変えるんだとよ」
「素晴らしいね」
「魔法使いらしくないな?」
「キミ、銃を見た事はあるかい?」
「噂程度だ」
「アレは空恐ろしい技術だよ。なにしろ、ただの平民が無詠唱で人を殺せる。考えたことがあるかい? 無数の銃が僕たち魔導士を殲滅していくんだ」
「まさか」
「僕も信じたくは無いけどね。だからこそ、キミが羨ましい」
「またか」
「ああ、何度でも言うよ。無詠唱魔法こそ、魔導士を救う唯一の手段かもしれない。ノータイムで発動できる魔法。これがあれば、魔導士はまだまだ科学に対抗できる…僕はそう思っているよ」
「そのための手袋か」
「ああ。小道具さ。廃れた魔法陣を解読するのは少し手間だったけれどね。さて。キミの攻撃は終わりかな? では、こちらから行こう。ズーディェン・イーシャン、チュアンツォン・ワンブゥ…雷神!」
電気の本流がシオンを襲う。速い!
「ぐっ!」
「見えるもの以上の速度では反応できないかな? とはいえ、咄嗟に致命傷を避けたのは流石だ。さて…」
ギリアムが次の魔法を放とうとした時だった。
バリン、と上空が破裂した。
【お知らせ】
おかげさまで累計500 PVを突破しました!ありがとうございます。
本作は明日2/7の更新をもって、第一部『魔法大会編』が完結となります。
最後までどうぞお付き合いください!
【追記】3月11日、改訂してます~。




