第20話 魔吸槽、暴走寸前
予想通りだったわ。
「叩かんでもわかるわ。間違いない、左側や」
耳を澄ませたら、私でも分かったわ。左側だけ、ごぼごぼって嫌な音がしてる。
「二本とも、貯槽へ向かっているのかしら?」
その時、ズガン、と大きな衝撃。魔吸槽じゃないわ。となると、ギリアムの魔法かしら?
配管の嫌な音が、ごぼごぼ、から、ごごごご、という音に変わる。右側も少し、音がするわ。
「そうみたいやな。今、魔力を吸収したんやろ。となると…フルスペックの半分やな、吸収できてるのは」
「水圧でいうと、逆流しかねない状態ね」
「せやな。バケツにガンガン水が入ってるのに、片方からしか流れへん。バケツが溢れた時が魔吸槽の本体が割れるときちゃうか?」
前に話した、グラウンドの中央に屹立する尖塔の先端、半透明の水晶部分よ。
「魔力が流体なら、グラウンドに溜まってくれると思うのだけど…」
「わからん。音は液体っぽいけど、気体かもしれん」
「気体なら…観客席にまで被害がでるわ。どうしたら…」
コロシアムから歓声が聞こえるわ。試合が終わったのね。
次は、決勝戦だわ。
「試合をやらんのが一番や」
「…ダメ元よね、あの教授に話をしてみましょうか」
「んー、あの手のタイプが止まるかいな」
「あのぉ、お二人さん」
「どうしたの、マルタ」
「用品庫のモノで、対応できねぇでやすかね?」
「というと…」
「へぇ、避雷針的な」
思い出してみる。
用品庫には…。
「槍と、瓶…」
「やる価値、ありそうやな」
「できる?」
「任せとき、針金ならまだ予備がたーっぷりあるで」
「そしたら、二人に任せるわ! 私は教授と話してくる!」
教授がどこにいるのか分からなかったから、とにかく控室に向かったのだけれど…。
運が良かったわ、丁度ギリアムを激励していたところなの。
「ギリアム、期待しているぞ。学院の正統たるレクターとして、堂々と勝利してくれたまえ」
「そのつもりです、ロッサム教授。楽しい試合になりそうですし」
「ふん、無詠唱などと」
少し離れたところに座るシオンを一瞥。シオンは興味なさげに、欠伸を一つ。
というか。
ろ、ロッサム教授だったのね、あの三白眼!
流石に名前は分かるの。比較的自由な雰囲気がある王立学院の中でも保守派中の保守派、神と教会が絶対、それ以外は全て異物、自然哲理学部などは神を冒涜する不届きな学問。
そんなことを公言している人物よ。肩書は王立学院教授の他に、ヤーヴェ教アリア支部の大司教を兼任しているわ。
要するにコテコテの旧体制思考、ってやつ!
「ろ、ロッサム教授、恐れながら」
話すのも嫌だけど、この人に話を付けないと始まらない!
「おや、どうなされた、フランソワ殿」
「決勝戦の中止を申し伝えたく訪れました。先ほど魔吸槽の配管を点検したのですが、どうも配管に不具合がある様子…。このままでは、魔吸槽の故障が予想されますわ。決勝戦の前に、今一度設備の点検をお願いしたく」
「これは異なことを、フランソワ殿。ご安心なされい、魔吸槽は設立より数百年、一度も故障したことなどないわ。事実、年度の点検でも『問題なし』と報告が来ておる」
「で、ですが…」
「そこまで言うのなら、試合後に点検を行う事としよう。なにぶん古い施設ではある、所々の不具合もあろう。では、ギリアム。観客席で貴殿の勝利を楽しみにしておるぞ」
「御意に」
ギリアムが礼をすると、ロッサム教授が威風堂々と去っていったわ。
「フランソワ殿、気にすることはないよ。あの人はいつも、あんな感じだからね」
「ではなく、ギリアム殿…」
「いずれにせよ、この状態で決勝戦の中止などできないよ。ほら、聞こえるだろう?」
コロシアムから、大歓声。
今か今かと、試合の開始を待ち望んでいるわ。
「さて。シオン君。準備はいいかな?」
「ああ、勿論だ。じゃ、行ってくる」
「…気を付けて」
これしか言えないなんて!
あと、できること。なにか、何かないかしら?
項垂れながら観客席へと戻る。
その時だったわ。
「あ、フランソワ、ここにいたんだ!」
「え、エラリー!? どうしたの?」
「いやー、お客さんがみーんなコロシアムに行っちゃったから、手が空いちゃって。あ、そうそう、すっごい沢山来てくれたんだよ! 今アルフォンスとハンスで集計してくれて…」
「そ、それよりエラリー!」
「なになに、どうしたの?」
「手伝って!」
【追記】3月11日改定済みです!
※本作は「カクヨム」および「アルファポリス」にも掲載しております。




