第19話 シオン 対 鉄壁の防御
ギリアムが順当に勝ち上がって、第二回戦が終わり。再び休憩。
少しだけれど、シオンと話す時間があったわ。選手控室よ。
「結構、強そうよ。大丈夫?」
差し入れはレモンソーダよ。瓶詰めしたやつ。ちょっと温くなっちゃったけど。
そしたらね。
「もう見つけたよ、あいつの弱点。多分…」
シオンがちらり、とギリアムを見たわ。
「あいつも気付いてるんじゃないか?」
第三回戦、シオン対バナード。この頃にはコロシアムは満席も満席、立ち見客が溢れそうなくらい。歓声、クラップ、足踏みでコロシアムが揺れているわ。
応援の声はシオンとバナードで半々くらい。
アシュレイを圧倒したのは良いけれど、一年生の、しかも女性に本気を出しすぎた、というのが原因の一つだと思うわ。騎士道精神にもとる、という事ね。
試合が始まったわ。
初手から鉄躯鋼装。磁針と検電器は予想通り反応。この観測結果は確定でいいと思うわ。一方、気圧測定器は反応なし。どういう理論が考えられるかしら。雷魔法ではなく、土魔法に電力反応が発生した理由。磁力の方がイメージが付くわね。
一方でシオンだけれど。
「突っ立ったままだわ」
これまで通り、と言えばこれまで通りだけれど。
「へぇ。あくびしてやす」
弱点を見つけた、と言っていたけれど…。その余裕かしら。それとも、挑発目的?
「見くびるな、小僧!」
バナードから石礫が飛び出したわ。千弾万歴、同じ魔法ね。
「年齢、そんなに変わらないだろ」
シオンが右手をかざすと、石礫がたちどころに破裂して消失。さっきのかまいたちと同じだわ。見えない壁に衝突したみたい。
「わいな、前から疑問やったんやけど」
ニコラスが神妙な顔をしたわ。
「シオンはん、魔法を消してるように見えるんや」
「そうね…」
初めてシオンの魔法を見た時もそうだったわ。アシュレイのぼや騒ぎ。火を消した、のではなく、魔法効果そのものをキャンセルしていた、としたら?
「聞いたことがないわ、そんな魔法」
それこそ、未知の力、という事になるわ。
「へぇ。モノを消す、ってのは厄介でやす」
質量保存の法則はご存じ?
つい五年ほど前なのだけれど、アンリ・ラブォアという科学者が「物質は状態に変わらず、質量(重さ)が変化しない」という法則を発見したの。水なら氷にしても重さは変わらず、密閉空間であればモノを燃やしても総重量が変わらない、という世紀の大発見よ。
つまり、『消える』という事は質量保存の法則からありえない。
もしくは、質量保存の法則自体に論理の破綻がある。
どちらかになるわ。
そんな私の考察を他所に、シオンは相変わらず石礫を『消して』いるの。
…これ、いつまで続くのかしら?
動いたのはシオンだったわ。
「弱点、その1」
シオンが魔法大会で初めて動いたわ! バナードを軸に、反対側へ。バナードは微動だにしないわ。自信の魔法に絶対の自信があるのかしら?
「小癪な!」
バナードがぎぎぎ、と上半身を動かして、シオンに狙いを定める。
どうしてそんなことを…もしかして!?
「あんた、動かないんじゃなくて、動けないんだろ?」
シオンが言ったわ。そうか!
「二重魔法にそもそも無理があるんだわ! 防御に全振りして、行動力がゼロになっているのね!」
「つまり、石礫の魔法しかつかえない、っちゅーことやな!」
「そして、弱点その2!」
再び、シオン。
「魔力の消耗が激しすぎる、ほら、石礫の数が減ってきたぞ!」
「ぐ、ぐぐぐ…!」
「そして、その3」
シオンがバナードの装甲に触れたわ。
「俺との相性が最悪、ってこと」
シオン、魔法を発動。ばりばり、と装甲がはがれていくわ。
そして。
「磁場が反転したわ!」
Sを向いていた磁針が反回転して、Nをシオンに向けたわ!
「け、検電器もでやす! 今まで見たことがない揺れでやす!」
「こっちもや! 減圧や、減圧しとる!」
気圧計は蓋が全開放されていたわ。外側に! 減圧は初めて見たわ、やっぱりシオンは魔法を消しているの!?
「よ、よせ!」
「やめると思う?」
ぞくり、と背筋が凍る思いがしたわ。
シオンの右手から、何かがバナードを包んでいく。
最初にバナードの兜がガラガラと分解していって、続いて甲冑、腕、最後に脚部。装甲がさらさらと、粒子と化して霧散していく。
ぱすん、と膝をつく音。
魔法を解かれたバナードが、膝をついたのよ。
会場は静まり返っていたわ。誰も彼も、圧倒されている。
方位磁針は…。
元に戻ったわ。Nは北を指していたの。
その時だったわ。
ぴし、と金属が割れる様な、ガラスにひびが入るような。奇妙な音。
「…ニコラス、今の音、聞いた?」
「聞こえましたで…いよいよ限界ちゃいますか?」
魔吸槽よ。間違いないわ。
「ニコラス」
こうしてはいられないわ。
「配管、見に行きましょう」
傍点多いっすね。
【追記】3月11日修正しています!
※本作は「カクヨム」および「アルファポリス」にも掲載しております。




