第18話 狂う磁針!鉄壁のバナード・アイアンサイド!
一回戦目が終わって、一度休憩。
グラウンドに降りて、検電器のチェック。問題なさそうね。
グラウンドには所々に魔法の後。
魔法そのものは消えてしまうのに、焦げた跡や水に流された泥といった、『魔法の結果』はそのまま残されている。やっぱり、セドリック先生の言う『魔法は物理学への介入』という説は正だと思うわ。精霊様の神秘なら結果も消滅しそうじゃない。
不思議なのは、魔法という物質がどこに消えるのか、なのだけれど…。
そんな事を考えていると。
少し、大地が揺らいだ気がしたわ。
二回戦が始まったわ。シオンの相手は三年生のミレーヌ・ド・グローテル。風魔法の使い手みたい。
「喜びなさい、シオンとやら。このグローテル子爵家が直々にお相手差し上げるわ」
「あー、まぁ、ほどほどに」
シオンは無造作に突っ立ったまま。一回戦でもそうだったけど。
「後悔なさらないことね!」
詠唱、早いわ! それに正確。最低限の文言だけで詠唱を完成させている。多分、常人の半分程度の文言で。
「風刃!」
複数のかまいたちが飛び交う。殺傷力はそれほどでは無いけれど、あのスピードを避けるのは至難の技だわ!
「はっ!」
シオンは拳を前に突き出すと、掌をパッ、と開いたわ。グーからパーに変えたのよ。それまで直線に飛んでいたかまいたちが、まるで見えない壁に衝突したかのように霧散し、消滅。
「少しは楽しめそうね! では、これはどう?」
かまいたちが倍になったわ。四方八方に散って、前後左右からシオンを襲う!
「厄介だな!」
今度は両手。左右別々の目標を叩き落としていく。
「今度はこっちの番だ!」
シオン、距離を詰める。右手に魔力を集中させたのかしら。
「くらえ!」
ボールを投げるように魔力を叩きつけたわ。なんでもアリね、あの子!
「甘いですわ!」
防御の構え。あれは風流回天だわ。シオンの突撃を見ながら詠唱を完成させたのね。普通の魔法なら、風の流れで受け流せるのだけれど。
「そっちがな」
シオンの魔法とぶつかると、風の流れが途絶えて、霧散した。
「そんな…」
「これでしまいだ」
続けて、魔法を叩き込む。ミレーヌがふらり、とよろけて、そのまま気絶したわ。
続いて、アシュレイの二回戦。いいえ、アシュレイはいいの。注目すべきは対戦相手。
バナード・アイアンサイドと名乗ったわ。
アイアンサイドという家名は聞き慣れないけれど…。あるいは肩書きかしら。魔法の特徴を元に二つ名を付けるのよ。鉄血の〇〇、とか〇〇の錬金術師、とか〇〇の彗星、みたいなやつ。見た目も大柄で筋肉質だし、『不屈の鋼鉄』という二つ名にはぴったりだけれど。
「おーっほっほっほ! わたくしの火炎魔法で燃やし尽くしてあげますわ!」
逆にアシュレイの小物感がすごいわ。
噛ませ犬感満載だわ。
お互いに詠唱。ミレーヌとは正反対で、バナードはじっくりと詠唱をするタイプみたい。
「ドゥリィ・ティエジン、チャンシン・フゥアカイ」
バナードの魔法よ。
「土魔導士ね」
「わかるんか、フランソワはん」
「ええ。魔法語って要するにロスタリア古語だから。土の精霊を召喚したわ」
「シュアンワン・ウェイジュン、ディンダイ、ジョンドウ。ガンティエ・ジャヂォウ、ナイワイ・ブゥチン。イーチェ・アイ、ワンシャン・ジュヂュエ」
「めちゃくちゃ硬そう!!」
「そ、そうなんか…?」
「出でよ、鉄躯鋼装」
瞬時に、方位磁針が反応したわ。
Sがバナードに向けて一直線!
「姫さま、検電器反応、強いでやす!」
「方位磁針も! ここまでの反応は初めてだわ!」
「ぎ、逆に気圧は動いてへんで!」
初めてのパターンね、見逃せないわ!
バナードの全身がみるみる鋼鉄の輝きに満たされて、重装プレートのような形になったわ。信じられない、魔法でプレートメイルをゼロから構築するなんて!
「ほほほ…! 見た目は派手ですわ。でも、私の魔法とは相性が悪かったですわね!」
アシュレイが環炎を放つ。
確かに、『鉄の鎧』を炎で熱したら、中の人間は蒸し焼きになっちゃうけれど。
「何かしたか?」
くぐもった声が響いたわ。
アシュレイの魔法はバナードの身体に触れた瞬間に、ふわりと霧散してしまったの!
「そ、そんな…」
流石のアシュレイも、ショックを隠し切れていないわ。
そうよね、同じ魔法ばっかり使うと思っていたのだけれど、からくりはこうね。
一つの魔法の詠唱だけ、死ぬ気で暗記した。
つまり、他に打つ手がないのよ、あの子。何してるの。
「ふはははは! 我は今年こそギリアムを打倒すべく、最強の防御を生み出したのだ! そんなへなちょこ炎など効かんぞ! まずは妹のお前からだ、アシュレイ!」
多分放置するだけでバナードの勝ちなんだけど…バナード、再度の詠唱。
2回目の詠唱!?
「二重魔法!?」
思わず腰を浮かしたわ!
「なんやそれ、すごいんか?」
「普通は魔法を使っている最中に、別の魔法は使えないの!」
詠唱を終わらせたバナードが攻撃に移る。右手を突き出したわ。
「千弾万礫!」
大小様々な石礫がアシュレイを襲う。防御魔法で回避を試みるけれど…。
「相性が悪すぎるわ!」
炎系魔法って攻撃力自体は高いのだけど、他の四大魔法と比べて防御が弱いのよ。石礫なんてモノともせずに通過しちゃう。
「きゃああ!」
いくつかの直撃を受けて、アシュレイが倒れたわ。
そこまで! 審判が試合を止める。
バナードの装甲が消失したわ。魔法を解いたのね。
その瞬間に、方位磁針が元に戻ったの。検電器の反応も止まったみたい。
結局、バナードは一歩も動かずに試合を決めてしまったわ。
それよりも、面白いデータが取れたわね!
「土魔法と磁力に相関関係があるのかしら?」
「へぇ、電気と磁力にも関係がありそうでやす」
「いや、新発見でっせ! トーナメント終わったら研究やな!」
「そうね、魔法解明に一歩近づいたかもしれないわ!」
「あのぉ」
マルタが心配そうに手を挙げた。
「シオンさん、大丈夫でやすかね」
興奮して忘れてたわ。
次のシオンの相手、バナード・アイアンサイドじゃない。
だいたいこういうフラグって傍点に現れてます。
【追記】3月11日、修正しました。
※本作は「カクヨム」および「アルファポリス」にも掲載しております。




