第17話 魔法大会第一回戦…は割愛します。
少し早めに会場入りしたかった理由があるの。左腕の腕章には『保守係』の文字。何のことかって、そのままだけれど。
「いやぁ、セドリック先生のおかげですわ」
グラウンドの四隅に、検電器を設置したかったの。ニコラスが作った、ライデン瓶に金箔を二枚入れたやつよ。流石に勝手に入る訳にも行かないし、と先生に相談したら、『保守係』の役を提案してくれたの。これなら観客にも怪しまれずに、堂々と会場を出入りできる、って訳。なので、今日は通用口から入ったのだけれど…。
「フランソワはん、ちょいと」
ニコラスが天井を見上げているわ。どうしたの?
「あの配管、なんでっしゃろ?」
「あれは…魔吸槽だと思うわ。本体の貯槽は外にあるらしいから」
「あきまへんな」
言われて、じっくり見てみる。管は二本あるのだけれど…。
「大分錆びてるわね」
「メンテナンスしてるんやろか? これが蒸気機関なら、ああいう所から蒸気漏れするんですわ」
「魔力が溢れる…?」
過去にそういう事故は起きたことがない、らしいけれど。
「調べられるかしら?」
「脚立、あるやろか?」
「たしか用品庫が…」
入ってみると、掃除道具とか、埃を被ったワインの木箱とか、錆び切った刀とか槍とか、埃を被った古い法衣とかが置いてあったわ。
「木箱でいいかしら?」
「かまへんで…なんやこれ、重たいわ!」
「空き瓶でやすね」
「…飲んだまま放置されたのかしら?」
「ゴミ箱代わりちゃいます? 勿体ないわ、空き瓶はいくらでも再利用できるっちゅうに」
文句を言っても仕方ないので、空き瓶を脇に避けて空箱を持っていく。腰に付けたポーチからハンマーを取り出したわ。ニコラスのポーチ、色んな道具が入っているのね。
「いつ必要になるか分からへんからな。七つ道具は持ち歩いてるんや」
と、いいつつ配管をトントンと。
「左側やな」
「どうだった?」
「ちょい、曇った音やな。詰まってるわ」
「大丈夫かしら?」
「右側は使えそうや。配管図がないから分からへんけど、とりあえず気にはしときましょ」
「そうね…」
何事も無いといいけれど。
少し遅れたけれど、グラウンドに入る。ここから観客を見上げるのって、なんだか新鮮ね。結構な人の入りだし。残り時間は10分程度。急がないと。
手分けして四隅に検電器を設置。そしたら。
「なんだ、それは?」
げ。面倒な人が来たわ。魔導真理学部の教授の…誰だっけ。胸元の徽章で教授であることはわかるけれど。学院生が10名ほど付き従っているから、それなりの立場よね。
「こりゃ教授はん、堪忍やで。これは幸運のお守り、ってやつや!」
「ギルテニアの人間か」
「へい、ギルテニアから留学させてもろうてます。いやぁ、教授はんみたいなお偉いさんに注目されるなんて、丹精込めて作った甲斐がありましたわ!」
「その汚い口を慎みたまえ」
ギルテニア弁って語尾が独特なのよね…。がさつに聞こえるというか。少なくとも王宮では使えない言葉なの。文句を言いかけたニコラスを咄嗟に制する。こういうのは私の役目でしょ?
「お目通り叶いまして嬉しく存じますわ、教授。金は魔術的にもヤーヴェ教的にも『完璧な存在』ですので、勝手ながらお納めさせていただきました。古代ロスタリア帝国でも勇者には金色に輝く武具を下賜されたとか…。我ら自然哲理学部として、王立イスタルシア総合学院の要にございます魔導真理学部の益々のご発展と、この魔法大会というめでたき日を祈念させて頂きたく、精一杯ご用意させて頂いたものにございます。あいにく、学生の身分では金箔を用意するのが精一杯でしたけれど」
「流石はフランソワ殿だ」
向こうは私の事を知っているのね。となれば、もう一押ししておきましょうか。
「恐縮でございます。シャルロイド公爵家の一員でありながら私には魔才を授けられず、本日の出場が叶わなかったこと、心より悔しく感じておりますわ。せめてのお役に立てればと、平民らを動員して作らせましたの」
なんだか悪役令嬢っぽい台詞になったわ。
「天晴れである、フランソワ殿」
「どうかシャルロイドの名において、許可をくださいまし」
「特別に許可しよう。ただ、次回からは事前に許可を取るように」
「心得ましたわ。お慈悲に感謝いたします」
名も知らない教授が満足げに立ち去っていったわ。
ヒロインに立ちはだかる悪役教授って感じ。融通が利かない堅物というか。
「いやぁ、嫌味な教授でしたわ」
「しっ…ニコラス、誰が聞いているか分からないわ。これ以上怪しまれる前に、退散しましょう。マルタ、大丈夫?」
「へぇ、姫さま。大丈夫でやんす」
善は急げ、と言うしね。
さっさと観測の準備に入りましょう!
一回戦の詳細は必要?
いえね、シオンの相手は二年生の方だったのだけれど(名前も覚えてないわ)、仰々しく現れて、いかにも高価そうなワンドを振り翳して、炎系の中級魔法を放とうとはしていたの。どや顔で。そしたらね。
「流石シオンはんですわ」
そうね。魔法の発動前にワンパンで終わるとは思ってもいなかったわ。
だめよシオン、詠唱中とか変身中は待ってあげるのがセオリーなんだから。
「…記録、とれたかしら?」
私が持ってる方位磁針は無反応よ。
「気圧計は微妙なとこや。ちょいと揺らいだ気もするけど」
「へぇ。検電器は無反応と思いやす」
マルタは望遠鏡に右目を押し付けたまま。オペラグラス代わりよ。
「他の試合に期待しましょ」
トーナメントが続く。アシュレイも無難に勝ち残り。詠唱は大分改善されたわね。ギリアムの指導でも入ったのかしら?
「ちょいちょい反応するわ。魔法の発動の度に加圧しとるっぽい」
別の子が中級魔法を展開中。確かに蓋が引っ込んでいるわ。
「磁針は変化が無いわね。さっきちょっと揺れたけど」
「検電器も、揺れがありやした。雷魔法のときでやすが」
「磁針の揺れもその時だったわ」
「ほな、磁力と電気って関係あるんか?」
「うーん…偶然、もしくは見間違いの可能性もあるわ」
もう少しデータを集めないとね。手持ちの手帳にメモメモ。
第一回戦の最終戦はギリアムだったわ。ド派手な大魔法でも披露するのかと思ったけれど、逆なのよ。
「初級魔法でも、精度と密度を上げれば威力が増すのね」
「せやな、悔しいけど認めざるを得んわ。アシュレイはんの中級魔法以上の反応やし」
あれよ、これはメラゾーマではない、メラだ、ってやつ。
「レクターの名は伊達じゃないわ」
「シオンはん大丈夫やろか?」
「どうかしら?」
ギリアムといい勝負くらいが限度だと思うのよね、流石に。
いよいよ魔法大会がスタートしました。
【追記】3月11日改定済みです!
※本作は「カクヨム」および「アルファポリス」にも掲載しております。




