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第7話 魔力9999の身体解析

 連行途中でそれはもうお茶会中の貴族連中にじろじろ、物珍しそうに、サーカスの珍獣を見るみたいな目をされた上に、評議会メンバーから質問も受けたのだけれど、

「シャルロイド公爵家を信じられないわけ?」

 面倒なのでここは権力を利用させて頂きました。はい。


 という事で急遽参戦のニコラス君を交えた四人+シオンでの研究会が勃発した訳よ。

 ニコラス、見たことがある顔だと思ったら自然哲理学部でね。実家は時計職人らしい。


「わいはな、魔法より技術の方が上だってことを証明したいんや!」

 彼は商工都市ギルテニアの出身らしい。訪れたことは無いけれど、商工会の自治組織が発達していて、半ば独立国に近い、高度な自治を認められている都市よ。アリアでも異色の場所ね。シャルロイド公爵家が抑えるシャルルはどちらかというと海軍と貿易の街だけれど、同じく港町のギルテニアは技術と職人の町、って感じ。


「シオンの魔力9999は気になりますけどな、絶対に理屈があるんですわ。ほら、シャルロイド公爵様にも壁掛け時計を納品させてもらいましたけど、針一本ズレたらもう動かないんですわ。魔法にも理屈があるはずでっせ。理屈さえ分かってしまえば、あとは技術で再現するだけですわ」

「ニコラスさんの仰る通りでやんす。薬屋でいう「調合」ってやつでやんす」

「ほ~。マルタはんは薬屋さんでっか」

「へぇ、片田舎のちんまい薬屋ですわ。けども、1グラムでも成分を間違えた時にゃ、薬が毒にもなる訳でして」

「その通りや! 1グラム、1ミリが生命線なんですわ! いや~マルタはんとは仲良くなれそうですわ。今後ともよろしゅう!」


「あのな?」

 盛り上がっていると、シオンが不満そうな声を上げた。彼には暫定的に椅子に縛り付けている。逃亡されたら困るし。とうか。


「それ、普通の縄だけれど、魔法で逃げられないの?」

「こんな風に両手を縛られて、魔法が使える訳ないだろ!」

「ほうほう! なるほど、シオン君。あなた今とても良いことを言ったわ!」

 やっぱり、魔法を使用した時に見せた腕の動きに意味があったのだ。


「魔法を発動するには召喚、指示、発動の三段階が必要だけれど、あなたこの前、「腕を天に伸ばす」「拳を握る」と、二段階で発動したわよね。最後の「発動」は正直飾りというか、周囲に対する警告みたいなものだから、大事なのは召喚と指示なのだけれど、腕を天に伸ばす、というのが「召喚」で、拳を握る、というのが「指示」なのかしら?」

「考えたことないけど」

「…魔法真理学部よね?」

「そうだけど」

「あの超高度な魔法を使ったのに?」

「高度なのか…?」

「自覚無し、ね…」


 天性の才能、ってやつかしら。何も教わらずに魔法を使える人物は…歴史と言うか、神話に近い話で存在はしている。まずはメモメモ。貴重な問診だわ。

「あと、何を調べればいいの?」

 エラリーが言うので、そうね、とメモを走らせる。

「とりあえずこんな所かしら? 意見はある?」


 ・身長

 ・体重

 ・血液

 ・脈拍

 ・体温


「ほー、えらい検査ですなぁ」

「へぇ、構わねぇと思うでやんす。まずは体重を知りたいでやんす」

「マルタはん、どういう意味や?」

「魔力が胆汁やら神経ってなら、他人より重いはずでやんす」

「魔力胆汁説でっか。ありゃ~眉唾もんでっせ」

「それを証明するのよ!」


 ちなみに特設研究室と言うが、要するにセドリック先生の私設ラボだ。自由使用の許可は得ているのよね。あいにく先生は不在だけれど。

「えっと…これかな?」

 エラリーが天秤を指さした。

「多分、そうね」

 しまった、生憎天秤の使い方を把握していない。一方でエラリー、ふむふむ、と頷いた。


「シオン、ここに乗って。できれば素っ裸で」

「は!?」

「裸!?」

 私がびっくりしちゃった。

「裸じゃないと正確な数値測れないでしょ~。でも、そうね、下着は着てていいわ」

 というより。

「エラリー、使い方わかるの?」

「わかるよ~。金塊を図るのと同じよね」

 金融と言えば両替、両替と言えば天秤、って事ね。

「シオンはん、堪忍な~」


 ニコラスにも言われて、シオンが渋々服を脱ぎだした(縄は解いてあげた)。割と引き締まった身体をして…冷静に考えたら、男の子の下着姿を観るのは初めてだわ。いえね、地元で上半身裸で筋骨隆々な海男たちは見慣れているけれど、同年代の、その、下半身というのは初めてで。お父様が知ったら卒倒するんじゃないかしら。いいえ、フランソワ。これは実験、彼は実験動物と同じよ、落ち着いて、落ち着いて…。

「あちゃ~。フランソワにはちょっと刺激的だった?」

 エラリーに顔を覗き込まれた。

「ち、違うわ! ちょっと熱いだけ!」

 ほっぺたが!

「ふ~ん?」

 エラリーが意味深ににやつく。なんで私が辱めを受けなければいけないの!


 とまぁ、そんな間にもエラリーが分銅を慎重に反対側の計りへと載せていく。マルタとニコラスがサポート。流石職人の子女ね。手つきがこなれているわ。

「いやぁ、こんな重いもの測るのは初めてですわ」

「へぇ、あたしもでさぁ」

「時計とか薬とは違うよね~。金塊だと、500リブラ以上のものもあるから、このくらい普通だよ」

 ということで。


「体重は…145リブラね。ちょっと重たいかしら?」

「へぇ…比較対象が欲しい所でやんすね」

 ということで。

「わしやな?」

 ニコラスにも乗ってもらう。132リブラ。

「といっても、わいはシオンはんより上背があらんからなぁ」

「平均体重の記録はないでやんすかね?」

「記憶にはないけれど…シオンの方が、身体ががっちりとした感じね」

「へぇ。あっしの知識だと、脂肪より筋肉の方が密度が高いそうで」

「シオンって普段から鍛えてるの? 農作業とか」

「いや、特段…」


 これはミステリーね。魔力筋肉説…ありうるかもしれない。今度セシルお兄様も測らせてもらおう。ローランお兄様には言わないわ。お説教三時間コースだもの。


 その後も、脈拍やら身長やら(血液はシオンがあまりに抵抗するから取れなかった)、思いつきで運動能力やら(100メートル走ってもらった)知識量とか(正直に言うと下から数えた方が早い位の学力だと思う)調べるだけ調べたのだけれど。


「…比較対象が少なすぎるわ」

 そうなのよね。シオン一人をいくら調べたところで結論は出ないのよ。とりあえずの比較として、私たち(ニコラス含む)を同条件で調べてみたのだけれど。


「エラリー、ちょっと本気出さないと進学が怪しいわよ。あと、マルタは言語系学習も怠らないこと」

 余計な事が分かっただけだった。

今回もお読みいただき、本当にありがとうございます!

身体検査でも分からなかったシオン君、次はどんなひどい目にあうのやら。

次回もお楽しみください!


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※本作は「カクヨム」および「アルファポリス」にも掲載しております。

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