第6話 突撃! シオン君(検体第一号)
エラリーに伝手がある、らしいので素直についていくことにした。
夕食時にでも連行すれば? という私の意見は一対二で否決。なんでよ。
「タイミング的には今の時間帯よね」
翌日の放課後よ。一昨日は知っての通り半分徹夜だったから、昨晩はすぐ寝落ちしてしまったのよね。今日のメインイベントはここからだわ。講義がロスタリア古語と基礎科学だったから退屈だったのもあるけれど。
「どこに行くの?」
マルタはおずおずと付いてくるばかりだ。雑談は苦手らしい。
「中庭~、の裏側」
今日みたいに天気がいいと、表側は貴族連中で占拠されているのよね。お茶会ってやつ。おかげで書庫院はいつも空いていて快適だけれど(試験前を除く)。
講堂の影に隠れた裏側に行くと、男子生徒が何人か談笑していた。シオンもいる。
談笑ってか、騒いでるっていうか。男の子ってホント子供よね。木刀持ってはしゃいじゃって。訓練では無いと思う。なんか名乗り上げてるし。名乗り上げ大会? 面白かったのか、シオンが手を叩いて爆笑してた。
「よ、アルフォンス!」
「エラリーじゃないか! 今日はどうしたんだい? 何かいいネタがあるの?」
やや上背が高めで、エラリーと同じく快活な感じの男子生徒だ。どういう関係なのかしら。
「今日は商売じゃないんだよね~。シオン君に用事があって」
「俺に?」
シオンがこちらを見た。早速。
「悪いんだけど、今から付いてきてくれないかしら?」
ばちん、とエラリーに脳天をチョップされた。なにすんのよ!
「あー、ごめん、シオン君。初めましてだよね? あのさ、この子のこと覚えてるかな? フランソワって言うんだけど」
「ああ…会食堂にいた」
「そうそう! それでね、あの時のお礼がしたい、っていうから連れてきたんだ~。ほら、助けてもらったみたいじゃん?」
え、そういう話なの?
今度は小突かれた。ええ…。
「あの…ええ、あの時は助かったわ。ありがとう」
とりあえずエラリーに乗るのが最善…なのかしら。空気を読め、ってエラリーの圧がなければ抵抗してたと思うけど。彼女、もしかしたら怒らせると怖いタイプかもしれない。
「ああ、別に…貴族連中もたいしたことないよな。逃げ回るばっかりでさ」
「その通り! やっぱりシオンのいう事は違うよ。よっ、平民の星!」
アルフォンスがおだてる。そうだそうだ、と他の子ら。言いたいことはわからなくもない。王立学院は貴族なら推薦だけの無試験で入学できる、ってことで学力で比較したら悲しいくらいに特待生の方が上な訳で。
「だよね~。わかるよ、あいつら威張ってばっかりで実力はないのよ!」
これは台本通りなんだろうか?
「エラリー、やっぱり君は爵位を捨てて平民に戻るべきじゃない?」
「独立したら考えるわ。お父様ったら見栄っ張りで!」
「よっ、成金男爵!」
「その通り!」
大爆笑。笑いのツボが分からないわ…。ちらり、とマルタを振り向くと珍しく微笑んでいた。平民的には面白いネタなのかしら。
「それでさ、シオン。ついでに聞きたいことがあったのよ」
「なんだよ?」
「シオンの魔力って、どうなってるのかなぁ、って」
「昨日のやつか? どう、って言われてもなぁ…」
「自覚ないんだ?」
「あんまり。第一、測定したの、初めてだし」
「試験はどうしたの?」
「実技試験のことか? 簡単だったぞ」
実技試験は得意な魔法の披露、だったかしら。シオンならそりゃ簡単よね。
「それでね~。私ら、シオン君の魔法に興味があるんだよ! フランソワがさ、会食堂で無詠唱発動した、って言うんだけど、いつもそうなの?」
「ああ。詠唱はしたことがないな」
「ホントなの?」
思わず突っ込んじゃった。エラリーは…特に何も言わない。もう普通に話して大丈夫らしい。
「ああ」
「その…発動するときはどうしてるの?」
「効果をイメージして、放つ感じ、って言えばいいのか? アレだよ、両手を動かすのにいちいち意識しない、ってやつ」
「あのぉ」
マルタがログイン。
「魔力が多すぎて、困ったぁ、ってことはねぇでやんすか?」
「いや、特に…」
「となると、生まれつきでやんすかね」
「多分?」
「多分でやんすか?」
「小さいころは魔法が使えなかった気がするんだけど…いつから使えるようになったのか、よく覚えていないんだ」
「魔力って唐突に開花する、と言われているわね」
ごく稀に(多分伝説の類だと思うけど)生まれた直後に魔法を使った、なんて話もあるけれど、基本的には第二次性徴のあたりで開花する、というのが一般的なの。
「これは精密検査が必要ね」
「は?」
「という事で、ちょっと服を脱いでくれるかしら?」
「な、なにを…」
「身体検査よ! まずは身長体重、尿検査もしたいわね」
「血も抜かせて欲しいでやんす」
マルタ参戦。目の色が変わっているわ。きっと彼女にはシオンがその辺の薬草か試薬にしか見えていないに違いない。
「血!?」
「痛くねぇでやんすよ。ちょいと失礼」
マルタがシオンの右腕を掴んだ。負けてられないわ! 私は左腕をホールド。
「体温は標準かしら?」
「そうでやんすね。脈拍も変わらねぇでやんす」
「なにすんだよ!」
「何のご褒美?」
アルフォンスが首を傾げた。
「もしかして、シオンの検査するんか? なら、わしも気になる!」
別の男子が手を上げた。
「ニコラス、お前…」
シオンが絶望の色を見せた。
「その通りや! 気になるやろ、魔力9999とか無詠唱魔法とか!」
「アルフォンス、助けてくれ!」
「いやその…なんだ、本人も嫌がってるし…?」
「アルフォンス~、それから、ニコラス、ハンス」
ハンスってのがあわあわしている色白の子らしい。アリアの子ではないわね。フィヨルドあたりの留学生かしら?
「奨学金、どこが用立てしたっけ?」
やだ怖い、エラリーったら金貸しの目をしているわ。
というか、三人ともシャトーブリアン商会の奨学金を借りていたのね。
「…シオン、俺は力になれないよ」
「わしは構へんで!」
「…ボクも。ごめん」
「お前たち~!」
「それじゃ、行くわよシオン!」
「どこに!?」
「特設研究室よ!」
祝・1週間毎日更新!
シオン君、ついに捕獲。 ここから、魔力9999の謎が科学のメスで暴かれます。
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