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昨日の続き

「二つ目のお願いが有ります。」

今度は、はっきりと聞こえて来た。

「何ですか。どうすればいいのですか。」

春斗は、声に向かってそう聞いた。何にせよ、会話ができる事は嬉しい。希望になる。


「光の指示に従って、移動してください。その移動先で、またお願いをします。」

そう聞こえると同時に、照明が一段と暗くなった。足元は見える。と、次には壁のあの溝の一部に緑色の光が灯った。その光の長さは50センチ位で、梯子の壁に対して左方向の1メートルほど右前方で光っている。その緑の光が、前方へとゆっくりと移動して行く。春斗が訝しがったのは、声はするが姿が見えない事だ。何故、姿を見せないのだろう。それに、この施設は何なんだろう。そういう疑問も出て来たが、途中で考えるのは止めた。今は、その《お願い》とやらを実行しよう。最初の指示のように、自分でもできる事のように思った。


しばらく光の後を追って歩いて行くと、左側の壁が音もなく上へと開いた。幅2メートル高さ3メートル程が開いている。光は其処を左側へ折れていった。春斗もその後を追った。今度の通路は少し狭かったが、相変わらず何の変哲もない通路だ。そうやって、2度3度、左へ右へと折れていく。そうかと思うと、階段をかなり下っていく。最終的には、通路が行き止まりになった。其処で光は停止した。声が聞こえて来た。


「突き当りを開けます。その中へ入ったら、お願いをします。」

壁がまた上部へ開いた、中へ入るとその部屋が明るくなった。明るくなったといっても、ぼんやりと見える程度だ。たとえるなら、LEDランプの足元灯位の明るさだ。部屋の広さはとてつもなく広い。中央辺りと思われる場所に、高さが20メートル程ある金属とガラスのようなもので出来た、直径がこれも20メートル程あると思われる円柱が立っている。その円柱には光も音も無く、ただ死んだように立っているだけだ。


その柱の根元から、四方八方に無数の太い管が床に伸びていた。管の直径は20センチ位。そして、その管は何処かに繋がっている物も有れば、寸断されている物もある。寸断されている所には、何か四角いコネクターのような物が見える。そして、それぞれのコネクターには色が着いている。緑、黄、赤、茶、それに複数の色で塗り分けられたコネクター、色々だ。


「床の上で寸断されているエネルギー管を、色ごとに接続してください。」

指示が来た。

〈エネルギー管と言った?それではこれは、エネルギーを各所に運ぶ配管なのか?〉

その切断されていた配管は、ざっと見渡しただけで10カ所以上あった。これを全部繋げるのには、時間と労力がかかる。一番近くに有った緑と黄の二色に塗られたコネクターの配管を手にした。重い。10キロくらいの負荷が掛かる。それを持ち上げて、同じ色のコネクターの所へ持って行く。その口同士を合わせると、自然とお互いに引き合い、カチッという音とともに両者は繋がった。


それを10数本、休む暇なく続けた。終わった時に時計を見ると、3時半だ。この作業だけで、1時間以上掛かった。

「三つ目のお願いは簡単です。もう少しです。お願いします。」

何か、言葉に今までと違い、労わりの気持ちを含んでいる。何にせよ、悪い人ではなさそうだ。春斗は、それだけで少し安心した。


「もう一度、光の後を歩いて下さい。」

春斗は、ペットボトルの水を飲み干し、先ほどと同様に、光の後を追って歩き出した。

もう水は無い、もしこれで水にありつけなければ、あと二日くらいしか体がもたない。

そう思いながらも、光の後ろを付いて行く。光は、また別の部屋へ春斗を誘った。


その場所へたどり着くまで、階段を何段も上って行った。マンションの階段にして、4~5階分くらいだ。今度も薄暗い照明だけだったが、その広さは分かった。美玖と住んでいたマンションのリビングよりも広い。多分、その3倍くらいは有りそうだった。


回りに何かは分からなかったが、色々な機器が並んでいる。それは床に対して水平になっていて、大きな盤の上に無数のちいさなスイッチらしい正方形の形が見える。その盤の大きさは、幅が5メートル、奥行きは1メートル程で、その前には椅子が設置されている。そんな盤が、部屋のあちこちに間隔を開けて7つは有った。全部の椅子は一方方向を向いていて、その先には縦3メートル、横が10メートルほどの大きなスクリーンが見える。


その部屋に案内されて、春斗は思わず感嘆の声を上げてしまった。今まで見た事も無いような部屋と設備だった。その感慨に浸る暇もなく、次の指示が来た。

「右壁際の、中央の椅子へ座ってください。」

春斗は指定された椅子へ座る。その椅子の前の壁にも緑色が点灯していた。

「コントロールパネルの、右端にある白色のスイッチを押してください。三つ目のお願いはそれだけです。」


春斗はスイッチを押した。すると、かすかに音がして、照明が一段と明るくなった。パネルの上の色々なスイッチの下に、白い灯りが点き始めた。

「お疲れさまでした。それでは、部屋の外の階段を上のフロアーまで上ってください。また光の後を付いて行って頂ければ結構です。その部屋の中に、食事を用意しました。」

「えっ、食事と言いました?有難うございます。けど、貴方は誰なのですか?会えないのですか?」


春斗が質問しても、その答えは返ってこない。仕方がないので、また光の後に続いて、部屋を出て別の部屋へと移動した。その部屋には、ベッドが有りテーブルと椅子が用意されていて、そのテーブルの上には食事が並べられている。よく見ると、日本食だ。ご飯とみそ汁も付いている。他には焼き魚と卵料理が有る。まるで朝ごはんだ。食事の他に、タンブラーには飲み水が用意されていて、御茶も飲めるようになっている。春斗は、椅子に座ると、夢中になってそれを食べて飲んで、後片付けもしないままベッドへ横になった。とても、美味しかった。そして疲れがたまっていたのだろう、安心した事も有って、そのまま眠りに就いてしまった。


眠りから覚めると、部屋の中は来た時よりも暗くなっている。照明を落としてあるようだ。でも、春斗がベッドから起き上がると、照明が少し明るくなった。テーブルの上の食事は、いつの間にか片付けられている。という事は、誰かが居るのだろうか。春斗は、何処へともなく、呼びかけた。


「あのう、ここは何処なのでしょうか。それとあなたは誰なのですか。私はこれからどうなるのでしょうか。答えて頂けませんか。」

答えがすぐに帰って来た。

「此処は、私です。私はこの船です。あなたには、二つの選択肢が有ります。でもその前に、四つ目のお願いを聞いて下さい。」


そう言えば、最初に四つの願いが有ると言っていたが、まだ三つしか聞いていない。

「分かりました。食事のお礼もしなければなりません。それどころか、貴方に命を助けられました。何でも言いつけてください。出来る事を精一杯したいと思います。」

それでも、此処は私、私は船、とはどういう意味なのだろう。


「その願いというのをお聞きする前に、昨日の作業はどういう意味が有ったのでしょうか。答えられる範囲で構いません。お答えいただけませんか?」

「分かりました。出来るだけお答えします。昨日と違って、今ではある程度のエネルギーが溜まっています。まだまだ不十分ですが、その疑問には答えられると思います。」

相変わらず、声だけだ。


「少し長くなりますが、聞いて下さい。私はこの船そのものです。この船はこの星の時間で、今から811年と3ヵ月と11日、8時間26分前にこの星へ不時着しました。小さな島の山の中腹あたりでした。不時着と同時に、回りの山の一部を削り落としてしまい、その土砂で船は埋もれてしまいました。直ぐに修理に取り掛かりましたが、この星の大気の環境と微生物が、私達の命を縮めました。最初は318人居た乗組員も次々と倒れて、最後には4人になってしまいました。


それまで乗組員は命の尽きるまで、この船を改造してこの星の情報を集めると同時に、最後の4人が死に絶えた後、最初にこの船へ搭乗した知性のある生物に、この船を託す事に決めました。それがあなたなのです。船の修復は大部分が終わっていましたが、エネルギーは何時か尽きてしまいます。それで最小限の待機エネルギーだけを稼働させて、後は全て切り離しました。


あなたが、最初に地上へ上げてくれた円形の板は、太陽光からエネルギーを取り込む装置でした。最初は、その板の上へ光を取り込む穴を開けて、そのソーラーパネルを地上へ持ち上げる装置を完成させるはずだったのですが、それが出来て上へと上げる前に、大規模な土砂崩れが起きて、その穴は塞がってしまいました。そうこうしている間に、最後の一人までが死に絶えてしまいました。


それで、あなたが乗船した時に、最初にそのソーラーパネルを稼働させるようにお願いしたのです。既にエネルギーは殆どなくなっていて、それを持ち上げる動力は有りませんでした。それで、人力での作業が必要でした。そのソーラーパネルから太陽エネルギーを取り込んで、メインエンジンとメインコンピュータに、少しですがエネルギーを送り込む事が出来るようになりました。それで少しの明かりが確保でき、少しずつ船は生き返りました。


次に、切れていた配線を繋げて頂いて、各部署にもエネルギーを送る事が出来るようになったのです。それが二つ目のお願いでした。ただ、今も取り込んでいるエネルギーは、微々たるものです。今は、その電気エネルギーで、メインの動力を動かす準備をしています。三つ目のお願いでスイッチを押して頂いたのは、そのメイン動力へ電気エネルギーを送る作業でした。これらは自動で出来ない作業でしたので、どうしてもあなたにお願いするしかなかったのです。


もうあと24時間電気エネルギーを溜め込めば、メインの動力を少しの間だけ動かす事が出来るようになります。後は、この船を、大量のエネルギーを取り込める事の出来る、太陽の近くへ運ぶだけですが、それらは自動でもできます。ただ、この船には、一人だけでも生物が乗っていなければ、その生物が、それは貴方の事ですが、私に命令していただけなければ動かないのです。それが四つ目のお願いです。私を、この船を動かして、太陽の近くまで運んでください。そうすれば、私は完全に復活します。ただ、発進しろ、と命令だけして頂ければよいのです。」

続きは明日。


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