昨日の続き
「ミツキ、もしシャトルであの母艦へ近づくことが出来たら、シャトル本体も跳ね返されるのだろうか?もしアローだったら、敵の母艦がアローのシールドに触れたらどうなるのかな?」
「アローは、シールドで全ての脅威を跳ね返します。たとえ敵の母艦本体が接触しても二・三度でしたら跳ね返します。ですから同様に、シャトルで敵の母艦へ近づいても跳ね返されるだけだと思います。」
「じぁあ、敵のザンゴが敵の母艦へ近づくにはどうするんだろう?実際、二機のザンゴは母艦へ帰っているのだろ?」
「それは、その時だけは格納庫付近のシールドだけ解除することになると思います。」
「だったら、その時に開いた格納庫へビーム光線を打ち込めないかな?」
「もう二機のザンゴは母艦へ帰っています。格納庫は二度と開かないでしょう。」
「うん、そうか。それならこのシャトルを敵のザンゴと思いこませて、格納庫を開けさせると言うのはどうだろう。それは目視でそうしているの?」
「いいえ、目視していたら到底間に合いません。シールドの解除は一瞬でなければなりませんから。簡単に言うと、コード代わりの信号をザンゴ側が発信して、それを母艦側がキャッチして自動的にシールドの一時解除が行われ格納庫が開くのだと思います。」
「それではその信号さえ分かれば、敵シールドをすり抜けられるという事だよな。その信号を手に入れる方法はないのだろうか?」
「有るとすれば、撃墜したザンゴの中にその記録が残っているかもしれません。でも爆発炎上しているわけですから、残っている可能性は少ないと思われますが。それに、もし信号を手に入れてシールドが解除され格納庫が開いたとしても、シャトルのビーム光線や魚雷では、あの母艦を沈められるとは思われません。」
「分った、でもそれは僕に考えがある。だからザンゴの信号装置を探してみる。今はそれしか方法が考えられない。それまで何とか敵の攻撃を凌いでいて欲しい。」
「こちらはまだ何とかなっています。それよりもハルトは、このまま逃げてもいいのですよ。クララさんはどうなったのですが?一緒に逃げて下さい。」
春斗は、一瞬言葉に詰まった。
「残念だけれど、クララは亡くなってしまった。それより今は、この惑星の住民を助ける事が一番大事だよ。出来る事はやってみる。」
美月は沈黙してしまった。クララが亡くなったと聞いて、春斗の心情を慮ったのだろう。
春斗はシャトルを操縦して、地上へ落下したザンゴの残骸近くに着陸した。外へ出ると、異様な匂いが漂っている。まだ煙と炎が、ちらちらとザンゴから立ち上っている。
でも、何処を探したらいいのだろうか。春斗は、アローから受け取った知識を総動員させて、ザンゴの残骸を探っていく。構造はシャトルと違っていても、基本の設計は似たようなものだろう。そう見当を付けて、操縦席付近へ入って行った。
操縦席には、二体の乗組員の姿が有った。大きさは春斗と同じくらい。一体は操縦席で俯けに、もう一体は床へ仰向けで倒れている。二体とも制服なのだろう、緑色のボタンのない服に銀色のボトムズ姿だ。髪は銀色で肌は白い。頭から流れていた血液は、真っ赤だった。閉じられている瞳は春斗の二倍ほど、指の長さが異常に長かった。
いくら襲撃されたとはいえ、それまでは生きていた人間と同様な種族だ。家族も居ただろう。それを自分の手で殺してしまった。胃がきりきりと痛み出し、思わず吐き出しそうになった。それでも、今はそんな感傷にしたっている場合ではない。記憶装置を捜さなくては。気を取り直して、操縦席の下辺りを探していく。
すると、シャトルと同様の場所にその装置らしい部品を見つけた。後は、これをシャトルに取り付けて、運を天に任せるだけだ。もしこの見つけた装置が、信号を発する記憶装置と違っていたら母艦へ近付けないだけではなく、母艦から攻撃を受けてシャトルは壊滅してしまうかもしれない。それでも試す価値はある。
その記憶装置を取り外そうとしていた時に、あろうことか直ぐ近くで地響きがした。ガタガタと地面が揺れる。地震か?そう思った瞬間、ザンゴの残骸が春斗と一緒に上空へ舞い上がった。
「な、なんだ!」
春斗は声に出して言ってしまった。ザンゴの残骸と一緒に地上へ落下すると、其処にはあのギャモンドの姿があった。ザンゴの壁の割れ目の外から、その目が直ぐ近くで春斗を射抜いている。
「こ、こんな時に。もう少しで記憶装置が手に入ったと言うのに。」
春斗は舌打ちをしたが、ギャモンドを倒さなくては記憶装置が手に入らない。
ギャモンドは、その大きな口を開けて春斗に突進してきた。春斗は又しても空中へ投げ出された。着地した所は、なんとギャモンドの背中の上だ。
ギャモンドは体を左右に振って、春斗を振り落とそうとしている。それより早く、春斗は空中へ自ら飛び上がり着地する前に《武器使用》と叫んでいた。そして着地するなり、その右腕をギャモンドの真っ黒な目に向けて発射した。
ビームは、ギャモンドの右目に吸い込まれる。
「ギャー。」
一声泣いたが、倒れてはくれない。片目を血に染めながらも、なおも突進してくる。もう後は、あの時と同様に、開いた口の中を狙うしかない。
シャトルのように、自動でその場所を狙うという訳にはいかない。春斗はその場で立ちとどまり、ギャモンドの襲撃を待った。思った通り、ギャモンドは大きく口を開けて、鋭い牙で春斗に食らいついてきた。春斗はその時を待っていた。
上下の歯で春斗の体を加えると、きりきりと食い千切ろうとしている。そのギャモンドの喉奥へ、ビームを思いっきり発射させた。喉の奥から大量の血が流れ出して来る。それでもまだ春斗を離さない。
そのギャモンドへ、二度三度とビームを打ち込む。喉から、頭の先から鮮血が流れでる。流石に、春斗を咥えた口元が緩んできた。春斗が地上へ投げ出されるのと同時に、ギャモンドもその場へ倒れ込んでいった。
春斗は、荒い息をしながら一息ついた。ところが、ギャモンドは破壊されたザンゴの上へ倒れ込んでいたのだ。先ほど見つけた記憶装置の類は、ギャモンドの体の下になっている。これでは取り出せない。
あまり考えている時間は無い。アローが危ない。美月が破壊した、もう一機のザンゴを見つけるしかない。春斗はシャトルへ乗り込むと、地上をセンサーで走査する。もう一機のザンゴは直ぐに見つかった。
その傍に着陸すると、早速記録装置の取り出しにかかった。一度見つけた記録装置だ。それは直ぐに見つかった。春斗は手に入れた装置を、時間はかかったが知識を総動員して、シャトルへ何とか取り付ける事に成功した。そして、美月に連絡を取った。
「ザンゴの記憶装置らしきものを見つけた。これから母艦へ接近してみる。もしダメだったら、アローも諦めて逃げてくれ。やるだけやったんだ。」
春斗は無線を切った。そして、上空へ舞い上がると一直線にザンゴの母艦へ突き進んだ。
母艦とアローは戦いの真最中だった。いや戦いと言うよりも、傷ついたアローにザンゴの母艦が襲い掛かっている、と言った方が適切かも知れない。敵母艦は、アローの20倍以上の大きさがあった。
アローの船体は所々が傷つき、黒煙が上がっている。其処はもうシールドの威力が無くなりかけているのだろう。ザンゴの母艦は、必要にその個所に攻撃を仕掛けている。
春斗は記憶装置の信号を発生させると、母艦へと近づいていく。もしこの信号が無効ならば、すぐにでもシャトルは攻撃を受ける筈だ。目の前に崖のように巨大な壁が迫っている。
格納庫辺りに近づくと、前方の視界は壁一面になった。攻撃は受けていない。信号は有効だ、と思った。格納庫の一部が開き始めた。ところが、現れたのは小型の砲筒だった。春斗は、あっ、と声を上げてしまった。
《ザンゴの記憶装置の信号は効かない、騙された。》
そう思った時には遅かった。回避しようにも横方向しかない。その横方向にも、いや、上下方向にも砲筒が並んでいる。戦闘機用の武器なのであろう。
その正面の筒先が紫色に光り始め、ビーム砲が発射された。直後に、シャトルには大きな振動に見舞われ、操縦席付近で火花が散った。それでもまだシャトルは持ちこたえている。
シャトルは右横へ避難すると、反転して前方下へと逃げようと試みた。それを幾つもの砲筒が狙って、一斉に火を噴こうとしている。もう終わりだ。いくらシャトルとパーソナルの二重のシールドに守られていると言っても、もう防ぎようがないだろう。
春斗は諦めていた。次の振動が来た時には死ぬ時だ。そう覚悟を決めた。
その振動が来た。シャトルは制御を失い、きりもみ状態で落下していく。でもまだ、春斗の意識は有った。後方で大爆発が起こり、何かの破片がシャトルへ当たる。それらは、シールドが守っている。
シャトルは、敵のビーム砲で打ち砕かれたのではなく、爆風で吹き飛ばされていた。何が起こったか分からなかった。何とかきりもみ状態から脱すると、春斗はその後方を確かめた。
一つの大きな戦艦が爆発している。そして、その敵戦艦の陰から、もう一つの大きな戦艦の上部が現れた。そのシルエットは、どこか見覚えがあった。
「あっ、先代のアローだ。あのアローが助けてくれた。」
安心すると同時に、春斗の意識が途絶えた。
二代目アローで応戦していた美月は、シャトルが敵戦艦に砲撃されたところを目撃していた。もう少しの攻撃を受けてしまえば、シャトルは宇宙の藻屑と消えてしまう寸前だった。
春斗のシャトルが敵の砲撃を再度受けて、万事休すと、思った瞬間、敵の母艦に大爆発が起こった。見ると、その後方には母星カザムに引き渡したあの初代アローの姿があった。助けに来てくれたのだ。魚雷の威力が何倍も強くなっていた。一発で、敵の母艦を粉砕してしまったようだ。
でもどうして、春斗の危機が分かったのだろうか?美月が乗った小型戦艦のアローも、寸でのところで助かった。春斗の乗ったシャトルは、アローの近くで漂っている。アローもシャトルも、母艦アローに吸い寄せられるように格納されていった。
続きは明日。 「出発ロビー」




