昨日の続き
春斗は覚悟を決めて、逃げていた体勢から攻撃体勢へと変換する。しかしその間に四回の被弾があった。もうシールドは壊れてかけているはずだ。警告音は鳴りやまない。両機は正面から接近している。五回目の被弾の直前に、シャトルから自動的に魚雷が発射された。
シャトルの魚雷は、ザンゴの発射口めがけて一直線に進んでいく。ザンゴからビーム砲が発射されようとしていたその瞬間に、その発射口にシャトルの魚雷が命中した。するとその近辺から炎が上がった。バルパロの泡成分が、薄くなっていた敵シールドを溶かし、次の瞬間には魚雷がさく裂した。ザンゴが大音響とともに爆発炎上したのだ。
春斗は、やったー、と叫んでいたが、シャトルにも異変が起きていた。もう一機のザンゴが、美月機から離れて春斗機に対してビーム砲を発射していた。そのビーム砲がシャトルへ被弾しようとしている。春斗は、シャトルを急旋回、急降下をして、その攻撃を何とかかわそうとした。
突然、機体はガタガタと音を立てて揺れだし、制御が効かなくなった。被弾したようだ。シャトルは真っすぐに、地上へ向かって落下を始めた。操縦桿を必死に握り、立て直しを試みる。それでも落下は止まらない。その時に、シャトルから音声が聞こえて来た。
《被弾個所は修復可能。被弾個所を修復。》
この新鋭機は、少しの損傷であれば自動修復機能が働くようだ。操縦桿を手前に引くと、シャトルは再び宇宙空間へと戻って行く。すると、シールド装置も機能が復活してきた。
辺りを見回し、アローともう一機のザンゴを探していく。すると、ザンゴの一機が炎上落下しているところだった。美月が、春斗同様にザンゴを粉砕したようだ。直ぐに、美月から連絡が入った。
「王都を攻撃していたザンゴ、二機が母艦へ戻って行きます。王都攻撃を諦めて、アローとシャトルに対して攻撃をして来るかも知れません。直ぐに春斗はアローへ戻りますか?」
でも春斗は、クララが気になっている。ザンゴの脅威が迫っているとジャンから告げられた時、何も聞かず何も言わず春斗を送り出してくれたのだ。しかもそのクララが居る北都はザンゴの攻撃によって、多数の死者が出ている。多数の建物なども崩壊している。
特に大きく目立っていた領主の邸宅は、攻撃され崩壊している可能性が高い。クララが無事でいると言う保証はない。直ぐにでもその確認に向かいたかった。そしてもし、何らかの苦難に会っているなら直ぐに助けたかった。それで美月に言った。
「いや、僕は一旦北都へ行く。クララの無事を確認したい。」
「分かりました。春斗はクララさんを捜してください。探し出したら、シャトルで逃げて下さい。クララさんの位置情報はアローでも共有しています。」
「ミツキ、ザンゴやあの母艦は、間違いなくアローを攻撃してくるだろう。アローさえいなくなれば、この惑星の征服など容易いことだと思うから。それでもし、攻撃してきたら僕に構わず応戦してくれ。
それでもしアローに危険がせまったら、僕をおいて逃げて欲しい。ミツキたちの技術力があれば、どこかで修復や改良を加えていつかまたあのザンゴに立ち向かう事も出来るだろう。分かったね?これは命令だよ。」
美月は黙って聞いていたが、命令と言われれば従うしかない。
「はい。」
と、一言だけ返事をした。
春斗は、すぐさま北都へと向かった。シャトルの中からでも、北都の中心街が燃えているのが分かる。近づくにつれて瓦礫の山が見えてくる。春斗たちが暮らしていたあの邸宅も見えてきたが、そのほとんどが瓦礫と化している。春斗はクララの身が心配で、気ばかり焦っていた。その時、美月から連絡が入った。
「ハルト、やはりザンゴの母艦から攻撃を受けました。応戦します。春斗はクララさんを探し当てたら、アローには近づかないでください。シャトルでは太刀打ちできませんから。」
そう言うと、連絡は途絶えた。アローでも、応戦に苦戦しているのだろう。アローも気になったが、クララの身が心配だ。センサーで走査すると、クララの居場所は領主宅であることが分かった。地上へ降りると直ぐに、領主邸宅跡の瓦礫の中へと入って行った。
でも、その辺りには、住民の遺体だけが転がっている。顔見知りの使用人の姿もあった。思わず駆け寄ったが、既にこと切れている。クララの姿を探したが、なかなか見つからない。あの無人島で、美玖の姿を探しても見つからなかった記憶が甦り、涙が出てくる。
美玖もクララも、なんで自分と関わった女性が犠牲になるんだ。口惜しさが滲み出てくる。そうやって探し回っていた時に、不意に後方から声が聞こえて来た。
「ハルト様、ハルト様ではありませんか。」
振り向くと、其処には使用人の長であるマキトが立っていた。頭は勿論、足や手にも怪我の様子が見える。
「マキト、無事だったか?他の皆はどうした?クララは、クララは無事か?」
マキトは一瞬、暗い顔をした。嫌な予感がする。
「直ぐにあちらへおいで下さい。クララ様もそこに居ります。」
春斗はマキトに案内された、邸宅のはずれにあった物置小屋へと足を運んだ。狭く暗い小屋の中には、埃や血の匂いが漂っている。10数人の使用人の姿があったが、それぞれに怪我をしていて、無事だと思われる者は一人としていない。その一番奥の棚をベッド代わりにして、一人の女性が横たわっている。
クララに違いない。傍に寄り、顔を覗き込むと間違いなくクララだった。わき腹から血が滲み出ている。頭と腕には、包帯が巻かれていた。目は瞑っていて、吐く息も荒くなっていた。一目見て、重体であることが分かる。傍で看病していた女性が涙ぐんでいる。
「クララ、分かるか?僕だ、ハルトだ!」
その声を聴いて、クララがそっと目を開けた。か細い声が聞こえて来た。
「旦那様、申し訳ありません。私、なにもできませんでした。」
「もういい、何もいうな、ごめんな、一人にしてしまって。」
春斗も泣いていた。クララが細い手を、やっとの思いで春斗に差し出してきた。その手を春斗は両手で抱え込む。クララの目から、一筋の涙がこぼれた。握っていた手に力がなくなり、胸の上へだらりと落ちて行った。クララの目は、また閉じてしまった。
「クララ!クララ、死ぬな!駄目だ!駄目だ!」
春斗が叫んでも、クララの目は二度と開かない。回りに居た使用人たちも、声を上げて泣いている。
「何が勇士だ。クララ一人守ってやれなくて。」
春斗は失意のどん底へ落ちて行った。春斗を気遣い、誰も声を掛ける者はいない。でも、こうしている間にもザンゴの母艦とアローは戦っている。もし、アローが破壊されるような事になれば、美月も居なくなってしまい、この惑星の住民全てが危険に晒される。それだけはどうしても避けたかった。
意を決して、春斗はマキトに話しかけた。
「マキト、申し訳ないが私はあのザンゴとその仲間を倒しに行かなくてはならない。薄情だと思われても、後の事はマキトに任せたい。もし、無事にこの事態が収拾したら、もし私が戻って来れなくなったら、後はジャン殿の指示に従って欲しい。ジャン殿にも私がそう言っていたと伝えてくれ。」
「何を仰います。ハルト様は必ず無事に帰って来られます。私たちはそう信じてお待ち申しております。ここはお任せください。クララ様の事も丁寧に埋葬いたします。私たちの事も心配には及びません。あの訳の分からない怪物を、必ずやっつけて下さい。お願い致します。」
マキトの声に送られて、春斗はシャトルへと乗り込んだ。
「ミツキ、状況はどうなっている?」
春斗の呼びかけに、美月が答えて来た。
「応戦一方です。何とかシールドで守っていますが、こちらの攻撃は殆ど効果がありません。ザンゴの時のように、主砲発射の直前を狙って主砲へ魚雷を打ち込みましたがそれも跳ね返されています。主砲の周りは、いつでも厚いシールドで守られているようです。弱点が見当たりません。ハルトはアローへ近づかないで下さい、危険です。」
美月に依頼して、シャトルへ今の状況をリアルタイムで映像を転送してもらった。ザンゴの母艦が主砲からビーム砲を放つ。その直前に、ザンゴと同様に一定の間隔が空いた。そこへアローの主砲が狙い撃つ。でも美月の言うように、何の損傷も与えられないでいる。
続きは明日。




