昨日の続き
「こ、これは何とした事です。」
「いまから、上空へ上がっていきます。その後で王都の空を飛行します。王都の上空で目撃されている伝説のザンゴは、これと同じような機械なのではないかと思います。私たちは、この乗り物をシャトルと呼んでいます。」
シャトルは音もなく上昇した。ジャンの為に、なるべくゆっくりとした速度にした。それでもジャンは肘掛を手で握り、足と手で踏ん張っている。真夜中の為に、地上にはほとんど灯りは見えない。それでも上昇するにつれて、森の暗さや王都の街並み王城の輪郭などが見えて来た。
シャトルはその王城の真上を目指して飛んでいく。地上からは暗くて見えない筈だ。
「私のシャトルは、これ一つです。それで対処できれば良いのですが。ジャン殿にこれをお見せしたのは、王都の人たちがこれを見ても恐れないようにしていただくためです。同じ飛行体でも、これとザンゴとは形がまるで違います。
もし現れたら、それがザンゴでもこのシャトルでも直ぐに逃げて欲しいと思います。ただザンゴは恐れてもこのシャトルは恐れないでください。このシャトルは皆様を守ります。」
ジャンは、驚いたのか恐れなのか口を開こうとしない。それでも春斗の言わんとするところは分かってくれたようだ。
「私はジャン殿を地上へ下ろしたらすぐに、私の母艦へ帰ります。ジャン殿は王宮の皆様と共に、もしザンゴと諍いになった時のために準備をお願いします。」
「あの、母艦というのは何なのでしょうか?」
「ええ、すみません。このシャトルと同様に空を飛ぶ船のようなものです。このシャトルより、大きくてこのシャトルを格納できます。今はそれをお見せする時間が有りませんが、最悪の場合はその母艦も使用するかもしれません。武器を備えた、空を飛ぶ建物だと思っていただいても結構です。この遥か空の上で待機をしています。」
春斗の説明に、ジャンは戸惑いを隠せない。理解の範囲を超えているようだ。
春斗はジャンをリラの近くへ下ろし、アローへ向けて上昇した。それを驚きの目で、ジャンは見上げていた。
アローへ着くなり春斗は美月に問いかけた。
「それでその宇宙船の今の状況はどうなっている?」
「相変わらず、この船と同様に軌道上を旋回しているだけです。今のところ、敵対行為は見せていません。この船の能力などを見極めているのではないでしょうか。」
「そうですか、でも一応念のために王都にはシールドを張ってくれませんか。攻撃されるのは、王都の可能性が一番強いと思われるから。それと、相手の船と連絡は取れないかな?こちらには敵意はないと知らせたいし、相手がどういう意図を持っているのか知りたいと思うけれど。」
「分りました。やってみます。王都へのシールドは直ぐにでも準備します。それと相手がどういう言語かも分かりませんが、取り敢えず春斗とコミュニケーションをとった時のように、全ての宇宙語で問い掛けてみます。」
しばらくの間、美月は相手の宇宙船へ向けて呼びかけを続けていく。しかしそれに対する反応は一切なかった。
「どうしましょうか?全く応答がありません。」
「それでもこちらから攻撃を仕掛けるわけにはいかない。このまま何も起こらなければそれに越したことは無いし、しばらく様子をみよう。それと念のために、ミツキにまたアローとシャトルに改良を頼みたい。」
「はい、どんな改良を加えましょうか?」
「バルパロが吐き出した泡を覚えているよね?あの泡は、僕のパーソナルシールドを溶かしていたんだ。だからその成分を、魚雷に加味出来ないかな?そうすれば、万が一の時に敵のシールドを破ることが出来ると思うのだけれど。」
「そうでしたか。分かりました。大至急、泡の成分を分析して魚雷を造ってみます。」
美月の言葉に力が有った。
いまのところ、王都や他の都市が攻撃されそうだと言う兆候はない。何も起きて欲しくない、そう願っていた。ところが、やはりそれは希望的観測に過ぎなかった。
夜が明けて、周りは明るくなり始めている。その朝日の光の中に例のザンゴに似た飛行体二機が、王都に接近して行くところを発見されたのだ。
「ハルト、あの飛行体が攻撃の準備を始めています。」
「この船にもシールドを張ろう。相手の攻撃がどの程度の威力があるのか、それを見極めたい。」
春斗が言うと、アローはシールドで防御体勢に入った。
「王都のシールドはどうなった?」
「大丈夫です。既にシールドは完了しました。」
美月が答える。
ザンゴと言う伝説的な生物に似た飛行体が、王都へと接近している。聞いていたようにその機体は真っ黒で、胴の中央辺りの両側に翼が出ている。先端と最後尾は尖っていて、全体のシルエットはまるで飛行しているドラゴンに似ていた。
「ミツキ、今後あの飛行体を便宜上ザンゴと呼ぶぞ。」
「了解です。」
ザンゴと命名された飛行体は、その嘴に似た先端から王都に向けて真っ赤な光線を発射した。それが王都の領域に到達しても、王都はシールドに護られて何も損傷は起きていない。ただ、住民の慌てふためく様子が窺われる。
そんな中、さらに二機のザンゴが今度は北都の上空へ現れた。北都にはシールドを張ることが出来ない。
「北都が危ない!僕がシャトルに乗って応戦する。ミツキもアローで対応してくれないか!」
「了解しました。それでは、格納庫のシャトルへ急いでください。シャトルでも十分応戦できると思います。」
美月はそう言うと、春斗と共に格納庫へ急いだ。格納庫へ行くと、シャトルの準備は整っていた。春斗と美月は、北都へ向かって急いだ。
その間にもザンゴは王都と北都を攻撃している。今のところ王都は心配ない。けれどもシールドのない北都は、ザンゴの赤い光線に蹂躙されている。石造りの塔が倒れ、民家に火災が起きている。逃げ惑う住民の中には、既に死亡者や負傷者が出ていた。
あちらこちらで黒い煙が立ち上がり、その後には赤い炎が広がっていく。その跡に残ったのは、瓦礫の山と穴の開いた地面と多数の死傷者だ。北都の衛兵たちは、弓矢を空に向けて放っているが、ザンゴに届くはずもない。
その衛兵たちも、ザンゴの赤い光線で瞬く間に霧散させられている。春斗の操縦するシャトルが北都の上空へ到着した時には、もう北都の主要部が壊滅的な損傷を受け始めていたし、地上では大騒ぎとパニックになっている。
「ミツキ、これ程酷い攻撃を受けたんだ。遠慮はしないぞ。あの二機を撃ち落とそう。」
そう言い残して、春斗は近くのザンゴへと進路を取った。それに気づいたザンゴの一機が素早く転戦してきた。
地上への攻撃は、後でも十分にできると思ったのであろう。春斗が攻撃する前に、嘴の先端から赤い光線が発射されシャトルへ命中した。シャトルに振動が起こった。しかし、損傷は認められない。春斗もザンゴの胴体めがけて電子ビームを発射させた。
そのビームは春斗自身が、地上で一番強く発射したビームより大きな威力を持っていた。が、そのビームでもザンゴの進路すら変更できずにいる。ザンゴにも強力なシールドが張られているようだった。
春斗はザンゴの攻撃をかわしながら、必要にビームや魚雷を駆使して攻撃を繰り返す。それでもザンゴに損傷を与えられない。見ると美月の乗るアローも同様で、攻撃したり攻撃されたりを繰り返している。
「アロー、ザンゴに弱点はないのか?」
アローからの返事が来る。
「今のところ、弱点は見当たりません。ただ、かつて私たちが戦っていた敵宇宙船は、ビーム砲を打ち込む寸前にその発射口付近はシールドが薄くなっていました。でもその時間はほとんど無いに等しいほど短時間でした。もし、相手側の攻撃に何かしらの法則があれば、その瞬間を狙って発射口を狙ってはどうでしょうか。」
昔の敵と、目の前の敵は同じではない。それでも技術的には大差ないのではないか。そうだとすれば、ビームの発射口は弱点かも知れない。ただ、それはこちらの弱点にもなりえる。その弱点を突かれないためには、変則的な手動攻撃を心掛けなければならない。
春斗は一旦攻撃を止めて、敵の攻撃パターンを調べて行った。するとザンゴには連続して攻撃していても、ビーム砲の発射の間に0.2秒の間隔があることが分かった。此方のビーム光線が発射されて、ザンゴに到達するまでには1秒の時間がかかる。その計算をして、相手ビーム砲が発射されている間に、こちらの魚雷を発射する時間を調整した。
その間にも、数十発のビーム砲を打ち込まれている。それでもシャトルは何とか耐えていたが、突然シャトル内にアラームが鳴り響いた。続いてシャトルからの警告が聞こえて来た。
『あと五発、シールドへ被弾すればシールドが壊れます。退避して下さい。』
こちらのシールドの性能は、向こうよりも弱いらしい。
続きは明日。




