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新たな脅威

              九  新たな脅威


 それからの半年は、環境も生活も目まぐるしく変化した。美月も努力を重ねて二人は住民にも王都にも認めてもらえるような、そんな都市づくりに専念していた。


ところが思わぬ事態が持ち上がったのだ。また王都周辺に、あのギャモンドを上回るような狂暴な生物が、しかも複数現れたという知らせが入って来た。その生物はあの隣国との紛争の折に出くわした、〈ザンゴ〉と呼ばれているアサフルト国では伝説になっている生物の事のようだ。


しかもあの時と同様に群れを成して飛行しているらしい。口からは火を吐き、それが現れると都市の殆どは焼き尽くされ、多くの人々は焼かれたり食われたりして、最悪の場合は襲われた都市は消滅してしまう恐れがあると言うのだ。


あの厄災よりもひどい有様になるかもしれない。聞いた範囲では、ドラゴンのような生物のようだが、まさしくあのザンゴだ。まだ一部の者達だけが目撃しているだけで、その真偽は不明であったが王都は恐れおののいている有様だった。


空を飛び回るとなると、今までのように一筋縄ではいかない。あの時も、近寄ってくるザンゴには楽に対応できたが、遠くから襲ってくるザンゴには手を焼いた。春斗は、美月に相談した。


「ミツキの惑星では、こんな生き物は居なかったのだろう。空を飛ぶ相手を退治するとなると、もうアローやシャトルを使うしか手がない。シャトルは隠しておけない。そうなると、僕の正体もばれるよね。本当の所は理解してもらえないかもしれないけど、ただの魔法使いでは収まらなくなってしまうかも知れない。」


美月は即答した。

「私たちは、ハルトの所有物です。ハルトが、アローもシャトルもどのように使うかはハルトが決めて下さい。ですからあとは、ハルトの気持ち次第です。」


春斗は王国の人たちを助けたかった。それが一番の優先順位だ。そしてそれが出来るのは、今のところ自分と戦闘用シャトルだけだ。だったら、迷う事などない筈だ。秘密が公然となっても、その後で自分が王国の人たちに恐れられたり、忌避されたりしてもそれは仕方がない。


「ミツキ、申し訳ない。一度私はシャトルでアローに戻る。僕はアローに乗って帰り、アローもこの近くに一時隠しておきたい。戦いの中で僕だけでは手に余るようだったら、その時には美月もアローで応戦してほしい。」


「分りました。そのように心がけます。」

その夜、春斗はシャトルを操縦して王都へ向かった。その際に、美月にはアローへ乗船してもらう事にした。何時、王都が襲撃されるか分からない以上、早く向かった方がいい。


クララは今回も、王都と春斗の身に危険が迫っていると感じていた。それでも、春斗を気遣いながらも送り出してくれている。春斗が王都へ向かう途中でも、あのザンゴと呼ばれている生物には出会わなかった。本当に存在しているのだろうか。とりあえず、シャトルを森の中に隠して、徒歩で王都にもあるジャンの居宅へと向かった。


ザンゴが出たとの知らせで、ジャン夫婦も王都に戻っていた。門番に来訪を告げると予め打ち合わせ済みだったのだろう、夜中にも拘らずジャン・ソレッドの待つ部屋へ通された。


「ハルト殿、よく来ていただきました。この度もお力添えを、誠にありがとうございます。」

ジャンの隣には、初々しいシャーロットの姿があった。今はジャンの妻として、かいがいしく立ち振る舞っている。春斗は挨拶もそこそこに、ジャンにザンゴ討伐の方法について打ち明けることにした。


「ジャン殿、今回もあのザンゴという生物のようですが、今まではこの辺りには生息していない筈だと思われていたのですよね。それが突然こちらにも現れるとは、どういうことなのでしょうか?間違いなく現れたのですか?」


ジャンが答えた。

「それは間違いないと思われます。衛兵五人が同時に目撃しています。いつもの巡回の途中だったようですが、外壁の外、つまり砂漠の中をギャモンドの痕跡がないかを確認中に、突然何処からともなく現れたようなのです。


幸い衛兵に怪我はなかったようなのですが、その姿がザンゴにそっくりだったようなのです。その者たちの話によると、翼を広げた大きさは50メートルほど、頭から尻尾までも同様の長さがあったようです。翼は硬そうで羽ばたくことは一度も無かったようです。


空の上を旋回していたという事なのです。口から火を噴く所は目撃していませんが、それがザンゴだとすると、その危険性もあります。飛び去った時の速度は、見たことのないような速度だったという事でした。空を飛ぶ巨大生物など私たちは見た事などありません。


あの私たちが戦ったザンゴと違うのでしょうか。それともあのザンゴが巨大化した生物なのでしょうか?どうしたらよいか見当もつかないのです。」

春斗は、その言葉によって、少し違和感を覚えた。


ドラゴンのような形態の獣が、羽ばたかずに旋回したり高速で飛び去ったりするものだろうか?その飛び去る速度が尋常ではなかったとは?いくら巨大な生物でも、それ程のスピードは出ない筈だ。それに先日のザンゴとあまりにも大きさが違う。あの時の4~5倍は有るように思う。


だったらそれは、この前対峙したザンゴとは違うのではないか。もしかしてそれは、生き物では無いのではないのかもしれない?もしかしたら、春斗たちのシャトルのような乗り物ではないか、そう思ったのだ。


でもそうであったら、アローが感知しているはずだ。アローには、そういう機能が設備されているはずだったからだ。春斗は胸のネックレスを服の上から押さえた。

「ミツキ、軌道上にアローより別の飛行体は居ないよな。」


アローに居る美月が答えるが、美月の声はジャンに聞こえていない。

「はい、感知はされていません。どういうことですか?」

「今度の飛行生物は生物ではなくて、飛行体のような気がする。そうだとすると母艦が近くにいる可能性があるかもしれない。調べてくれないか?」


「分りました。精査してみます。少しお待ちください。」

春斗の言葉だけはジャンにも聞こえている。ジャンは、これがあの遠くに居ても会話ができると言うネックレスの魔術か、とそう思っていた。ジャンはあれからまだ試していない。直ぐに、美月から返事が来た。


「すみません、見落としていました。アローと同じ軌道上の惑星の裏側を、アローと同じ速度で周回していた巨大な宇宙船を感知しました。惑星の真裏だった事とステルス機能が働いていて、見落としていました。


私たちには未知の船です。今のところ、どんな目的でどんな能力を持っているか分かりません。以前、母星が戦っていたオグマ宇宙船とも違うようです。この船が存在するという事は、そちらの飛行生物もハルトの考えのようにその船の戦闘機の類だと思った方がよさそうです。


それともう一つ、こちらの存在はもう向こうには知られています。十分に注意を払ってください。面目有りません。」

もし敵対するようであれば、どうなるのだろうか。この星も我々も。今はそんな危惧を抱いている場合ではない。そうならないように準備をしておかなければ。そう思うのだった。


春斗は最初の思惑とは少し違ってしまったが、ジャン・ソレッドに全てを打ち明ける気持ちになっていた。

「ジャン殿、私の今の会話は独り言ではありません。あの通信機というネックレスで話をしていました。実は、私は一人ではありませんし仲間がいるのです。そしてその仲間と言うのは、お察しの通り妻のミツキのことで今はこの空のずっと上を飛んでいるのです。私達は、そういう乗り物をも持っているのです。」


そう説明しても、ジャンは理解できないでいる。

「この空の上に、その船が浮かんでいるのです。あの空を飛んでいる生物も、生き物では無くて機械の可能性が強いと思われます。」


「その機械と言うのは何なのですか?」

ジャンは訳が分からないと言うふうに質問をしてきた。

「機械と言うものは、あの馬車や荷車のようなものです。生きているものではないのです。説明するより実際に見てもらった方が早いかも知れません。今すぐに、私と一緒に来ていただけますか?」


春斗は、ジャンをシャトルまで案内するつもりになっていた。もしかしたら、アローまで案内することになるかもしれない。二人は用意されたリラに跨ると、シャトルの待つ森へと急いだ。森の中は真っ暗闇であったが、春斗はリラ上から懐中電灯を点灯させている。


森の中は一段と明るくなった。ジャンは、見た事もない電灯というモノに驚いている様子だ。普段はランタンによる薄灯りしかない。しばらくすると、三角の羽を持ったシャトルに着いた。ステルス機能は解除している。ジャンはその奇抜な姿や銀色に輝いている材質に、驚きを隠せずにいる。そして、恐る恐る指先で機体の表面を触ったりしていた。


「これが私の持っている空を飛ぶ機械です。ここから中へ入り、その椅子にお座りください。」

そう言われてジャンは、開けられたフードから恐々とシャトルの中へ入っていく。ジャンが春斗から言われた後部座席に座り終わると、ハルトは前の操縦席へ座り、起動スイッチを押す。すると、シートベルトが自動的に二人の体に装着された。


ジャンは、声こそ出さなかったが目を見開いて驚いている。


続きは明日。

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