8. バロバロの襲撃
八 バルパロの襲撃
ギャモンドといいザンゴといい、この惑星には色々なモンスターが生息している。その二種だけではなく、まだまだ他のモンスターたちも生息しているかも知れない。春斗は、その辺りをジャン・ソレッドに聞いてみようと思った。
春斗と美月が、ジャンとシャーロットの新居へ招待された時だった。
その新居は、シャーロットの希望も有って王都や北都とは別の城塞都市に設けられていた。シャーロットは王族から離れたが、王妃のたっての依頼でジャン・ソレッドに爵位が与えられた。
王女の婿というだけではない。春斗を補佐し、あの災いを防ぎ今回は隣国との諍いと王女の危機を救った、その功績を認めての事である。ゆくゆくはその都市の領主となる予定と風評で聞いている。
王都からは、リラに乗って8日かかる。王都や北都と違って、海辺の温暖な地域に位置している。それが気に入って、此処に居を構えたようだ。その距離でも春斗たちは、シャトルで5分もかからない。約束の30分前に北都を出て、約束の時間よりも早く着いている。
シャトルはステルス機能を使って隠しながら飛行していたし、着陸後も近くの林の中で待機している。今日の美月のドレスは、ハルトの好きな萌黄色にしている。
居宅へ着くと、さすがに元王女が住まう家だ。春斗たちの居宅より新しく大きい。門番も二人控えていて、中へ通されると装飾品も豪華だった。ところが、会ってみるとシャーロットは意外と地味な服装をしていた。美月の方が、よほど派手に見える。二人は、拍子抜けしてしまった。
二人に再会したのは大広間ではなく、メイドに案内された二人の居間のようだった。
「ジャン殿、シャーロット様。本日はお招きに預かり本当に有難うございます。シャーロット様には、お初にお目にかかります、横に居るのが私の妻のミツキでございます。」
春斗が挨拶をした。美月の事を《妻》と紹介されて、美月は少し上気したようだ。
「お噂はジャンからも、父母からも聞いております。それに城へ来ていただいた折は、遠くからでしたがミツキさんの美しさには驚かされました。改めて、ジャンの妻のシャーロットです。よろしくお願いします。」
シャーロットは美月の挨拶も受けて、貴族式の挨拶を返してくれた。
土産には、あの日エレナ・マトベ司令官から貰った金の小粒を、二十数個使って彫金職人に作らせた金と銀のブレスレットとイヤリングのペアーにした。
それとジャンと二人の為に、お揃いの指輪も作らせた。そういう習慣がない事は知っていたが、結婚指輪として贈るつもりだった。それを立派な皮袋に入れて持参した。その贈り物を受け取ってジャンは、大いに恐縮したのは言うまでもない。
結婚指輪の逸話を説明すると、美月はシャーロットに自分の指輪を見せて、ぜひ嵌めて欲しいと言っている。シャーロットは喜んで指輪をジャンに嵌めてもらい、美月と見せ合い眺めあって笑っている。
昼食を共にして、その後はソファーでゆっくりと寛ぎ紅茶を味わっていく。二人の馴れ初めも、楽しく聞いていた。そんな中で春斗は、ジャンに問いかけた。
「ところで、ギャモンドやザンゴのような大型の生物が時折暴れているようですが、大型生物というのはその二種類だけなのでしょうか?この都市には、そんな危険はないのですか?」
ジャンが答える、その傍でシャーロットも耳を傾けていた。
「どこに居てもその危険は有るのでしょうが、此処に限ってはギャモンドが出現したとは聞いていませんね。多分、近くに砂漠がないためでしょう。私が知っている大型生物はその二種類だけですが、そう言われてみれば他にもいてもおかしくないですよね。」
シャーロットは不安げな顔をした。それを見て、シャーロットの手を取って美月が言う。
「大丈夫ですよ。王女様。いえ、今は奥様でしたね、ごめんなさい。どんなことがあったとしても、きっとジャン様が奥様を守ってくれますから。」
シャーロットは、美月に微笑み返した。
「ええ、そうでした。ミツキ様もハルト殿に守られて、大変お幸せそうですから何よりです。私も旦那様を信頼しております。それに仮にそんな狂暴な生物が現れたとしても、ハルト殿も駆けつけて下さるのでしょ。」
「勿論です。何があっても駆けつけます。」
春斗が力強く言った。シャーロットがジャンの事を《旦那様》と呼んだことに、少なからず二人は驚いた。シャーロットは、深くジャンを愛しているようだ。
「そうだ、まだ日は高い。これから港の市場へ出かけてみませんか?シャーロットもミツキ様もご一緒にどうですか?」
そのジャンの提案で、四人は連れ立って市場へ出かける事にした。
ここは海に近い事も有って、魚介類が豊富に獲れる。それが都市の繁栄のもとになっている。勿論、元王女だ。付き添いの護衛が、つかず離れずついてくる。ジャンとしては、春斗がいる以上それは無用な事だと知っているが仕方がない。
その市場は、町はずれの海辺の近くに有った。下り坂になった石畳の道の両側に、テントづくりの店が多数並んでいる。前方には、青々とした広い海が見えた。
「こんな海も久しぶりに見たな。」
春斗が感慨深くつぶやいた。潮風が心地よく、潮の匂いと海鳥の声も聞こえて来る。
店の中を覗き込むと、見た事もないような、大小さまざまな魚が並べられている。赤や緑の魚も並べられていることから、この海は暖かいのだろう、とそう思った。魚だけではない。ハルトにも馴染みの蛸や烏賊、それに蟹や海老、巻貝なども売っている。
その店主に、ジャンが何か尋ねていた。さすがにシャーロットはそれらを買い求めようとはしていなかったが、美月が何種類かを買い求めた。護衛がそっと寄って来て、何食わぬ顔でその包みを受け取っていた。
「ジャン殿、先ほどは何を聞いていたのですか?」
春斗がジャンに尋ねた。
「ええ、私はまだ此処へ来て日が浅いので、この土地の風習や伝承などは詳しくありません。先ほどハルト殿が言っていた新たなモンスターについても、何か参考になればと思って聞いていたのです。」
「そうですか、それで、何かわかりましたか?」
「ええこの先に、と言ってもあそこに見える岬の向こうなのですが、古くからの漁村があるようなのです。其処に住んでいる老人がそういう事には詳しいそうです。機会を見つけて、会いに行くつもりになりました。ハルト殿も2・3日は滞在できるのでしょ?明日にでも、一緒に行ってみませんか?」
それを聞いて春斗は、ご一緒します、と答えていた。
屋敷に戻ると、買った魚を美月が捌きだした。シャーロットは、使用人に任せればいいのに、と言っていたが美月は、自分で料理したいから、とそれを断っていた。
そういえば、美月が料理した食事をまだ食べた事が無い。いつもはクララに任せていて、美月はそれを手伝っていただけだ。
出て来た魚料理は、とても美味だった。新しい美月の側面を見たようで、春斗もとても満足した。
翌日、ジャンと二人で連れ立って、岬の向こう側の漁村まで足を延ばした。ハルトもジャンも、リラに跨っている。漁村は石積みの壁に囲まれてはいたが、その壁はそれ程高く積み上げられてはいない。せいぜい2メートル程度だ。
此処にはギャモンドのように、狂暴で大きな生物は居ないらしい。リラに跨っていると、壁の中が見える。漁村の家々は、細い道路の両側に木材と土壁で出来ていた。色彩は施されていない。
その道も曲がりくねっていて、入り組んでいる。全部で50棟くらいだったので、住民は200~300人程度であろうと思われた。太い木材で作られた門を潜ると、女性の住民に出会った。ジャンがリラから降りて、昨日店主から聞いた老人を尋ねた。
その家はすぐに見つかった。ジャンが戸を叩くと、中から女性が現れた。
「こんにちは、私は新しくこちらの近くへ住むことになった、ジャン・ソレッドというものです。おじいさんは居りますか?」
そう言うとその女性は、ジャン・ソレッドと言う名前を聞いて恐縮してしまっている。王女の婿様だという事は、知れ渡っているのだろう。慌てて、奥の方へ声を掛けた。
「お、お義父さん、お義父さん、大変、ち、ちょ、ちょっと来て。」
何事が起ったのかと、奥から80歳くらいの男性が出て来た。
「ソ、ソレッド様、あ、あの、ソレッド様。」
その老人は、それを聞いて平身低頭して出て来た。顔を見ようとしていない。何か、落ち度があったのかと、怯えているようだ。ジャンの方が、かえって恐縮している。
続きは明日。




