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昨日の続き


ところが春斗は水面へ落ちた。機体は山肌を滑り岩にぶつかり停止して、最後に春斗が飛び出した場所は水面から30メートルほどの高さだったのだ。春斗は足の先から落ちた事も有って、水面へ衝突しても痛さは余り感じなかった。海の深さも充分にあった。海底に打ち付けられる事も無い。ただ、予期していなかった為、鼻から大量の海水が入ってきて、水面へ出るまでに溺れそうになってしまった。それでも水面の明るさを目掛けて、必死に耐えて両腕を掻いた。


水面に出ると大きく咽ながらも息をした。今までの状況とは打って変わって、水面は穏やかだった。殆ど波は無い。まだ生きている。水面に頭だけ出して、回りを見渡した。運よく、美玖を見つけられないか、美玖はまだ生きているに違いない。そう願いながら、必死に探してみたが数人の遺体の他は、見覚えのある美玖の服は見つけられない。


改めて、機体が落ちた島を見た。今居る場所からは50メートルも無いだろう。あそこなら泳いで行ける。一番近い場所は岩肌だけだったが、右側へ100メートルほど泳げば、狭いながらも砂浜が見えた。春斗は、其処を目掛けて泳ぎ出した。途中で、何度も美玖の姿を探し回ったが、見つけられない。白の上下を着た、遺体が浮いている。大声で叫びながら、その遺体に近寄る。でも美玖ではなかった。


狭い砂浜に着いた。波は、小さく押しては返しているだけだ。春斗は肩で大きく息をしている。喉がゼイゼイと音を立てている。辺りは、森が焼けた匂い、ガソリンの匂いなど、焦げ臭い匂いが漂っている。その浜は、山肌までの距離が50メートルほど。幅は100メートル位しかなかった。ただ、10人位だろうか。その浜や波打ち際に、遺体が散らばっている。ただの遺体ではない。足から下が無い遺体や、首が取れている遺体、腕だけや、足だけの遺体、臓物が飛び出た遺体も有った。まともな遺体は一つとして無い。春斗は、吐き気をもようした。


その遺体に交じって、大型の旅行トランクも散らばっていた。皮肉な事に、トランクにあまり損傷は見られない。口の開いているトランクは一つだけだった。一つ一つの遺体を確認していくが、美玖らしい特徴は見つけられない。春斗は、その遺体の酷さと、血の匂い、潮の香や焦げた匂い、それと喉の渇きなどで、その場に蹲って、思わず胃の中の物を全て吐き出してしまった。


経験した事の無いパニックが次第に納まって来ると、それにつれてこの状況にも慣れて来てしまっている自分が居た。事故の前には、充分とは言えないまでも睡眠をとっていた。それが幸いしたのか、まだ体は動けそうだったし、気力も衰えていない。ただ、喉の渇きは如何ともしがたい。


前方には大海が広がっている。後方には山がある。全部が見渡せる砂浜には、真水は無い。水を探さなくては。食べるものが無くても水さえあれば、1週間程度は持ちこたえる事は出来るだろう。その内には、捜索隊も来てくれるだろう。そう思って春斗は、まず口の開いているトランクを物色した。中には水も食料になりそうな物は何も無い。着替えに使うのだろう、折りたたまれた服が何枚か残っていただけだ。


ただその中に、ビニールで出来たレインコートと折りたたみ傘が有った。防水だろう。もし雨が降れば、これをシート代わりにして、雨水を蓄える事が出来るかもしれない。服は女性用で、春斗には合わない。他のトランクを漁ろうとしたが、鍵が掛かっていて、簡単には開きそうもない。なにか、道具になる物は無いか。バールのような。浜にはそれらしきものは無い。


山を見上げると、飛行機の残骸だろうか、金属片があちらこちらに散らばっている。一番低い所で50メートル位だった。その上には一本の焼け焦げた跡が、山頂から続いている。あそこを滑って来たんだ。良く助かったものだ。そう思ったが、まだ命の危険は終わっていない。それに美玖と約束した。死ぬ時も一緒だと。それを思うと、気力が萎えて来る。美玖は死んだのだろうか、それなら僕も死んだほうがいいのかも知れない。いや、ロミオとジュリエットの例もある。美玖の死を確認するまで、自分は死んではいけない。そう、自分に言い聞かせた。


あそこまで、登ってみよう。春斗はそう決心した。何か、道具になるような物や、食料の代わりになるようなものが落ちているかも知れない。そこまでの山肌は、低い木々と岩肌が見えるだけだ。傾斜もそれほど急ではない。しばらく砂浜で休んだ後で、春斗は最初の岩肌へ取り付いた。ごつごつした岩肌は、春斗の足を支えてくれる。足と手に力を込めて、一歩一歩登っていく。気温は高かったが、湿気は意外と少ない。汗が噴き出るという事は無かった。


途中で、滑りそうになった事も有ったが、最初の金属片の場所まで辿り着いた。其処は山肌を滑り落ちていく時に見た、あの大岩の向こう側だった。春斗は、そこまで回り込んで登っていたようだ。座席の残骸や、機体の一部と思われる金属片が、辺り一面に散らばっている。此処まで登ってくる間に、トランク類は無かった。ただ大岩に衝突し絶命した遺体が、三体散らばっていた。頭が割れている遺体も有ったが、美玖とは違った。


その金属片の中に、長さが50センチ、幅が7~8センチの薄い金属片が有った。薄くてもぶよぶよとはしていない。薄くて硬くて丈夫そうだったので、藪を切り裂く刀やバールの代わりになるかも知れない。他に何かないかと探していると、近くの木の途中に、小さめの革のバッグが吊り下がっていた。機内へ持ち運ばれたバッグであろう。何か入っている可能性がある。背を伸ばしても、手が届く場所ではない。


仕方なくその幹へ取り付き、両手両足を木に絡めつかせて、少しずつ上って行った。幹からそのバッグまでは、手を伸ばせば届きそうだ。その場所まで辿り着くと、枝の一本に足を掛け右手で近くの枝を掴むと、左手を一杯に延ばしてバッグの掛かっている枝の先を揺り動かした。何度か枝を振っていると、その皮のバッグはストンと木の根元へと落ちて行った。


その木を慎重に降りていき、バッグを手にする事が出来た。見た目よりも重い。期待を込めて、そのファスナーを開けた。普段は持ち運んでいるのだろう、ファスナーには鍵が掛かっていなかった。バッグの中には、ハンカチ、化粧道具や財布に交じって、菓子パン2個とペットボトルが二本入っていた。まだキャップは開けられていない。1本が500ccある。ラベルには天然水、と記されていた。


春斗は直ぐにキャップを開けて、ごくごくと喉を鳴らしてその水を飲んだ。3分の1ほど飲んでしまった後で、これはもっと節約しなければと気が付き、飲むのを止めた。それでも喉の渇きは、相当に軽減した。菓子パンはそのままにしておき、バッグとさらに金属片を一緒に持ち帰り、浜辺へと着いた。


それからは、積極的にトランクをかき集めた。浜辺のあちこちに散らばって落ちていた7~8個のトランクを1カ所に集めると、流石に辺りは暗くなって来た。トランクを開けるのは明日にしよう。今日は、何処かで横になるしかない。


春斗は、岩肌の縁へ身を寄せると、その場所に開いていたトランクに入っていた衣類を並べて、その上で横になった。雨が降ってくれれば、取り敢えず水の心配は無くなる。雨を期待しよう。そう思いながら、眠りに就いた。腕時計を見ると、日本時間で午後12時を過ぎている。多分、現地時間では午後8時を過ぎたあたりだろうと思った。それで、時計を4時間遅らせた。


続きは明日。


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