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昨日の続き

また、しばらく飛行すると、同じような大きさの円形が見えて来る。その円形と円形の間は100キロ以上あり、其処を繋ぐ道のような物も見えている。そして観測していくと、そのような城壁都市と思われるものは、幾つも存在している。春斗は、その中でも比較的大きな円形を目掛けて、ゆっくりと降りていく。その城壁都市は周囲が100キロ位で、海からは遠く平地の中央辺りにあった。その外側は、深い森や場所によっては荒地も広がっている。


大きな河も確認された。其処を目指したのは、城壁の内側に、他の場所より森が多く点在していたからだ。隠れるのに適していると判断した。城壁の外では、町までたどり着くのに時間がかかる。周囲を探っても、人の気配はない。とは言っても、集落からもそれ程離れていない。降りていく途中で、円形の中はやはり城壁都市と同じ形態をしている、と確信した。


着地した場所は、その城壁内の森の中だった。陽は天中に有る。外の温度は、摂氏21度だった。春斗は、シャトルのフードを開けた。ゆっくりと、地表へ足を降ろす。特別な感慨はなかった。二人は、シャトルの前面で並んだ。少し、涼し気な感じがする。ジャケット類の用意はない。直ぐに戻る予定だったからだ。息苦しくもなかったが、少し体が軽く感じる。気圧が低いせいかもしれない。雨は無く、地面も乾燥していた。シャトルはステルス機能を発動させていて、回りからは見えない。目印に、回りの木の枝に青色のリボンを結んでおいた。


森の木々は、春斗が見知っているそれとほとんど同じように見えた。ただ、それがどんな名前の木なのかは、見当が付かない。少なくとも知識の中に有る、松や杉などは見当たらない。高さは地表から10メートル以上は有ると思われた。当然、下草も1メートルほど生えている。結構密集していて、道らしいものも無いため、非常に歩きづらいように見える。この森を抜けて、最初の民家までは500メートルは有る、と分かっていた。辺りには、人はおろか生物の気配もない。ただ上空や木の枝の間に、鳥が何種類か存在しているのが分かった。全体的に鬱蒼としているため、薄暗かった。


「ミツキ、周りを観察していてくれ。少し試したい事が有る。」

そう言うと、右腕を前方の斜め下へ伸ばした。

「武器を使用するのですか?」

美月が問い質した。

「ああ、下草が邪魔になって歩きづらい。少し焼き払おうと思うんだけど、出来るよな?」

「それは可能ですが、最小限に留めてください。強すぎると木まで倒れてしまいます。それにハルトは初めてでしょ?加減が分からなくないですか?」

心配そうに聞いた。


「だからなんだ。ここで少し試してみたい。その加減を、使い方を知りたいんだ。拳は握っていたほうがいいんだろうか?」

ブレスレットから光線が発射されるのだろうと判断して、そう聞いた。

「それは何方でも構いませんが、そうですね。拳を握っていれば近くを、指を伸ばせば遠くの一点を狙えます。ちなみに、指を伸ばして広げれば、一度に広範囲に届きます。」


美月が答えた。春斗は、武器を使用する、と声に出して言うと、拳を握って前方1メートル辺りに有った、茂みに向かって拳を軽く握った。春斗は、腕を突き出すか、振り下ろすかすれば、光線が発射されるのだろうと思っていたが、拳を軽く握っただけでその武器たる光線が目標あたりへ発射された。音は全くしない。いきなり、明るい光の筋が発射されたと思ったら、その光が当たったと思われた前方の下草が勢い良く燃えた。当たったと思われた場所、と思ったのはその発射された光は手元で少し光っただけで、到達地点までの間は全く見えなかったからだ。また驚いた事に、その下草が生えていた地面にも10センチ程度の窪みも出来ていた。燃えた下草は直ぐに鎮火し、其処には地面だけが顕わになっている。


「えっ、驚いた。美月はそれ程の威力は無い、と言っていたけど、凄い威力じゃない。これって、もっと力を込めたり腕を振るったりしたら、どんな事になってしまうの?」

「そうですね、分かり易く言うと、地球の軍隊が持っている戦車を破壊したり、軍艦を損傷させたりする程度の威力は有ると思います。でもそれ以上の力は有りませんから。」


美月は、あっさりと言った。それでも威力は小さい、という認識なのか。春斗は、地面に影響を及ぼさないで、下草だけを焼き払いたいと思って、腰を降ろして下草の根元と水平に腕を伸ばした。そして、先ほどより、少し強めに拳を握った。すると光線は地面すれすれに、地面と水平に発射された。すると前方1メートル辺りから、その先へ30メートルほどの下草が、一瞬にして燃え尽きた。焼け跡も残らない。ただ、草が消えていただけだ。その消え去った下草の幅は1メートルほどだった。


「これは凄いね。こうして少しずつ、草を無くして行こう。歩きやすいし。でも周りには気を付けてね。誰かに見られたら、大変だ。」

「分かりました。今のところは大丈夫です。周りに人の気配は有りません。民家の近くまで行きましょう。それにしても、ハルトは器用ですね。初めてとは思われません。上手に武器を操っています。」

「いや、多分これも、知らない内に脳内へ色々な知識をインプットしてくれたおかげだよ。」


春斗は謙遜ではなく、正直にそう言った。知らない内に、色々な知識が備わっているのだろう、とそう思った。しばらく、そのようにして森の中へ道を造り、前進して行った。もうすぐに、森の端へ着く。残りの50メートルは、草を焼かずに草の中を進んだ。森の端へ着くと、武器停止、と声に出した後で、前方にある一軒家を、木の陰から観察する。


その家は、農家のように見えた。屋根も壁も丸太で出来ている。ログハウスのようだ。平屋で、玄関らしい出入り口が見えるが、周りにベランダなどは無い、所々に窓も見える。窓には窓枠が有ったが、ガラスなどは嵌っていない。ただ、50センチ四方程度が開いているだけだ。外の両側に雨戸と思われる、開き戸が取り付けられていた。煙突が見える事からその下の屋内には、台所や暖炉などが有るのかも知れない。家はそれほど大きくなく、100平米位だろうと見当を付けた。


そして、その外には、畑が見える。何を栽培しているのか不明だが、何かが植わっている。その畑も広くはなく、家の広さの三倍くらいだろうと思った。周りに塀の類は無い。その民家と離れた場所にも、同じような民家が点在している。家と家の間は100メートルほどだった。

春斗と美月は、辛抱強くその家を観察している。暫くすると、一人の女性と思われる体形の人物が、家から出て来た。手には、農具らしい器具を持っている。


初めての人だ。その人は、肩からつま先まで、一枚のずん胴の布を纏っている。首と両腕、それと裾が開いていて、腰の部分は帯と思われる革で縛っている。袖も手首まで筒になっていて、服全体には何の装飾も無かった。それでも靴らしき物は履いている。何かの革で出来ているようだ。髪は長く伸ばしている。所謂ポニーテールになっていた。直ぐに、男性が家から出て来た。明らかに、先ほどの人より大柄で、胸板も厚い。男性だとすぐに分かった。服は女性と同じだったが、その裾は短く膝辺りで切れている。その代り、長靴を履いていた。女性と同様に、農具と思われる道具を持っていた。髪は女性と同様に茶色で、肩に付く位の長さだった。


春斗は、美月に耳打ちした。

「あれと同じような服を用意すればいいかな?用意出来るよね?」

「ええ、勿論です。あと貨幣が分かれば、町中へ出かけて色々な事を聞いたり、買ったりできますね。そうすれば、この国の事がもっと詳しく知る事が出来ると思います。」

「それじぁ、取り敢えず船に戻って、服を用意しよう。そうして、次は町中へ出かけて、貨幣を調べたり習慣などを調べたりしよう。」


二人は身を隠しながら、元の場所へと引き返す。シャトルへ着くまでには、それ程苦労もなく、時間も掛からなかった。シャトルを静かに、垂直に発進させると、アローへと向かう。アローの中で服装を調えると、貨幣を手に入れるために肉の塊を作り出した。そして、また地上へと向かう。手間がかかると思われたが、仕方がない。なるべく、目立った行動は避けたかった。


再び地上へ着くと、今度は例の民家を避けるようにして、街がある方向へ徒歩で向う。予め調べておいた知識が役に立った。距離は3キロ程度、時間にして一時間以内で着くだろう。地球で言う、田舎道を進んでいく。道は舗装されておらず、幅も3メートルほどしかない。周りは殆どが田畑で、所々に高い木が立っていた。途中で数人の人と出会ったが、誰も何も言わなかった。これなら、何とか目立つことなく、調査が出来るだろう。


春斗の目算では、町の中で調査の拠点を作りたかった。それには、流通している貨幣が必要だ。貨幣と言えば、金銀の類が考えられたが、こればかりは分からない。紙幣かもしれないし、特徴のある形をしているかも知れない。道は次第に町中へ入っていき、それにつれて石畳になってきている。道幅も随分と広くなっている。道路の両側は、二階建てや三階建ての家が並び始めた。


木造で出来ていたが、壁は土壁だった。所々に五階建て以上の建物も見える。そう言った家は、直方体に切られた石を積み重ねて作られているようだ。その一つの石の大きさは、縦横共に1メートルくらいで厚さは20センチ位であろう。玄関には木戸が取り付けられていて、窓は最初に見た農家と同様で、ただ四角の穴が開いているだけだ。窓には木枠が嵌められていて、その外側には両開きの雨戸が取り付けられている。


木造の家の壁や屋根は、様々な色で塗られている。土壁は淡い色だったが、柱や縁には原色に近い濃い色が使われていた。メインストリートに出ると、その先は市場らしく、テントや簡易な木造で出来た店が並んでいる。そして、驚いたのはそのずっと先、山の中腹に石造りの巨大な建物が見えた。そしてその前面には、これも石造りで高い塀が聳えている。一見して王族の城のようだと思った。


町の中心へ進むにつれて、人々の服装にも変化が見られた。基本的な作りは変わらないものの、上下や表裏で色が変わっていたり、素材が布や革製品に変わったりしている。何処の世界でも、貧富の差や身分の上下は発生するようだ。


続きは明日。


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