昨日の続き
「ミツキはあの小型のシャトルを乗りこなせるのだろ?」
「はい、そのようにインプットされました。でもハルトも操縦できると思います。基本的にはアローのシャトルと同じですから。ただ、少しというか大分性能が優れています。速度や急回転などのスキルも上がっていました。勿論、シールドの強さや武器の多様性と攻撃力などもです。それ以外は、あまり変わりませんからどこかで一度試されたらいいと思います。今は、もうすぐにジャンプに入りますから、その後にしましょうか。」
「分かった、それとこの艦とシャトルの名前だけど、大型とか小型とか言うのも煩わしいから、何か命名しようか?」
「そうですね、何にしましょうか?春斗が決めてください。」
「それなら、この艦は今まで通りアローにしようか。前の艦のように楔型ではないけれど、言い慣れてしまったから。小型の方は、そうだな、シャトルでいいか?」
「そうですね、春斗が良ければそれで行きましょう。」
艦の名前が決まったところで、新アローがジャンプに入った。旧アローと比べると相当船体が小さいので不安もあったけれど、何も心配する事は無かった。ジャンプの途中でも振動は無いし、快適に過ごしていける。ジャンプの間、春斗は寝室で休む事にした。美月は休む必要がなく、春斗が休んでいる間は操縦席で監視をしている。
ジャンプが終わると、其処は太陽の近くだった。その太陽系の第一惑星の傍にアローが現れた。自動的に周回軌道へと入って行く。春斗が確認すると、アローのエネルギー量は20%を切っている。それで、太陽の近くへジャンプするようにプログラムされていたのだ。此処までに丸一日経っている。その第一惑星は、表面が月に似ていた。何処までも、岩だらけの大地と山が続いている。その平地にアローを着陸させた。
「一日ここで、エネルギーを蓄えます。」
美月が言った。こうして、ジャンプの後にエネルギーを蓄えないと、次のジャンプを行えない。
「良い機会です。シャトルを操縦してみますか?」
春斗もその気でいた。食事を済ませると、早速格納庫へ向かった。格納庫は幾つも有る寝室や、数々の部屋の一番後方に位置している。そのシャトルは鉛筆のような形をしている。本体の長さは3メートル、幅1メートルくらい。その鉛筆の前方が操縦席で、すぐ後ろに補助席がある。二人乗りだった。
その補助席の辺りから後方へ、左右に三角形の翼が広がっている。両翼の端から端まででも2メール程度しかない。小型のジェット機みたいだ、春斗がそう口にした。操縦席には、その翼の付け根辺りからフードを開けて翼に足を掛けて乗り込む。操縦席の位置まで、床から1メートルくらいだ。
春斗が前の操縦席に乗り込むと、美月が後部座席に乗り込んだ。アローの格納庫の開閉は、操縦席からでもできる。扉を開けると、漆黒の空と灰色の大地が広がっている。
「さあ、いくよ。」
シャトルに話しかけるように、シャトルを起動させた。シャトルからは音が出ない。本当に起動したかどうかは、前面のディスプレイとパネルに点いた灯りだけだ。春斗はゆっくりと、シャトルを浮上させて前方へと発進させた。少しずつ上昇させると、地平線が丸くなってくる。
「周回軌道まで上昇。」
声に出して言うと、シャトルはそれを忠実に実行する。
春斗はシャトルを周回軌道まで上昇させると、今度は一気に地表近くまで下降をさせた。そして、垂直に落ちるように落下すると、地上すれすれのところで今度は直角に、地面と水平に方向を変える。それを全速力で行ってしまった。
落下の際はそれほどでもないが、垂直から水平に移る時には体に相当なGが掛かるはずだった。それを覚悟して操縦したが、あんに反して春斗には何の負担にもならない。それを体験すると、今度は直角に曲がりさらに急上昇や急降下、さらには機体をぐるぐる回転させながら飛行するなど、無茶な操縦を繰り返していった。
春斗は、それを楽しんでいた。時々、奇声を上げている。春斗の顔が美月に見えていたら、こんな顔もするんだ、と驚かれたかもしれない。それにもし、その操縦方法に危険が伴うようだったら、きっと美月が止めてくれる、そう信じてもいた。そういう操縦を繰り返しながら、シャトルの動きを確認するとともにシャトルを自由自在に操る方法を身に着けて行ったのだ。
最後に、シャトルの武器も試す事にした。水平飛行に戻すと速度を下げて、最後はホバリングに変える。前方に小高い丘が見えている。その麓に向かって光子魚雷を発射させる。丘の麓へ、赤い球が吸い込まれるように打ち込まれた。その瞬間、砂や岩が大量に飛び散る。音はほとんど聞こえない。飛び散った岩の一つが、シャトルへ向かって飛んできた。春斗はその岩にめがけて、今度は電子銃の引き金を引いた。黄金色の光の帯は、いとも簡単にその岩を粉々に打ち砕いてしまった。
「うひょー、凄い威力だ。」
先ほど見えていた小高い丘も、今は形を変えて窪地になっている。
「はぁー、気持ちよかった。」
格納庫に戻ると、シャトルのフードを開けて大声で叫んだ。振り返ると、美月が微笑んでいる。その微笑みに、春斗は胸が高まった。
シャトルを操縦した事と、初めて武器を直接使用したことで、体中にアドレナリンが充満したようだ。操縦席で立ち上がり同じように立ち上がっていた美月の体を抱きしめると、その唇を吸いに行ってしまったのだ。美月は抵抗しない。うっとりとした表情で瞳を閉じているし、春斗の背中に両腕を廻してきている。気が高ぶっての行動だったが、我に返ると美玖の顔がちらついた。
思わず美月の体を離すと
「ご、ゴメン。」
そう呟いた。
「なんで謝るのですか?私は一向にかまいません。むしろ嬉しいくらいです。」
少し寂しそうな顔をした。
「正直に言うと、美玖の顔を思い出した。いろいろ有り過ぎて遠い昔のように思ってしまったけれど、まだ亡くなってそう日が経っていないんだ。妻の美玖に申し訳ない気持ちと、美月に対しても中途半端な気持ちで接してしまって。本当に申し訳ない。」
美月に心から謝った。すると
「ハルトに、もう一つ打ち明けなければなりません。」
美月が神妙な顔で、話し始めた。まだ二人はシャトルの上で立っている。
「司令官と別れた後で、私は施設の中で改造をされました。少し体型を変えられて、そして一番の改造は、セクサロイドとしての機能を加えられたことです。」
話の途中のようだったが、春斗は非常に驚いた。それであの時に違和感を覚えたんだ、と気が付いた。もともと瞳は大きくスタイルが良かったが、今はそれより丸みを帯びたと言うか、胸や腰が一回り大きくなったと言うか、魅力的に見えている。
「あの時、ハルトが大型シャトルと私が欲しいと要望した時に、司令官は勘違いをしたようなのです。ハルトは女性としての私を欲しているのだと。ところが私には、その機能が加味されていなかったから、それで私を連れて行って改造すると同時に小型シャトルの機能を習得させた、と言う訳です。ですから、ハルトは何も気にすることは無いのです。
女性として必要だと思った時にも、いつでも私を呼んでください。私はそのように造りかえられたのですから。美玖さんの代わりにはならないかも知れませんが、美玖さんに遠慮する事は有りません。なぜなら、私には本当の感情というものは有りませんし、本当の人間でもないのですから。ただの人形です。」
そう言っている美月の顔は、どんどんと寂しい顔に変化している。感情がないなんて、信じられない。本当の人間ではないなんて、とても信じられない。少なくとも今ではそう思っていない、と自分に言い聞かせた。春斗は、シャトルから降りて居間へと向かった。エネルギーが充填されるまで、あと半日ある。春斗は少し気まずくなっていたが、美月は気に掛けていないように振舞っている。
二人で食事を済ませ、コーヒーを飲んで一時の寛ぎを味わっていた。
エネルギーの充填が終わると、再びアローは宇宙の闇の中へ飛び立っていく。
しばらくすると、2回目のジャンプを実行した。1回のジャンプは1時間ほどで終わるが、エネルギーを大幅に消費してしまう。アローが次に現れたのも、太陽系の第二惑星の付近だった。




